第5話 追い出された男 岩田知世(いわたともよ)
私は、怪談好きだけど自分では全く見えない人です。見えないからこそ安心して集めて語れるってところもありますね。
そんなわけで、聞いた話です。実家の隣の家のおばちゃんから、母が聞いた話です。
隣のおばちゃんの実家のお隣さんが、母子で幽霊見える人なんですって。
で、実際にはそこら中を幽霊がうろついてるのか、幽霊が見える人のところを幽霊がうろつくものなのかはわからないですけど、そのお隣さんのところは、よく出たんだそうです、幽霊。話してくれたおばちゃんは見えない人なんですけどね。
ある日、その見える母子のお母さんがリビングのソファでうたた寝をしていたら、男の幽霊がちょっかいを出してきたんだそうです。ここ何日か居着いちゃっていた霊で、お母さんもそういう幽霊に慣れちゃってたもんだから「うるさい、あっち行け!」って振り払って背中向けちゃったんですって。
そうしたら、おとなしくリビングを出て行った。安心してまたうとうとし始めたら、いきなり、悲鳴が聞こえてきて飛び起きた。夏のことで、開け放したままにしていた玄関の方から聞こえた。けれど、娘さんは帰る時間じゃないし、まして、幽霊が出たくらいで驚くたまじゃない。で、眠かったんでとりあえず、そのまま寝ちゃったんだそうです。
で、夕方目を覚まして、あれ? と。
悲鳴のことを思い出して、そういえば、あれはお隣のお母さんの声だった気がする、と。
つまり、悲鳴が聞こえたのは、私の実家のお隣さんの実家。私の実家のお隣さんの実家のお母さんの悲鳴だったんですよ。
そのお母さんは、ちょうどお隣のお母さんが霊を追い払った頃、玄関のところにある電話で話をしていた。昔のことなのでスマートフォンはもちろん、携帯電話も固定電話の子機さえもなかったみたいですね。短い用件だったんで、すぐに終わって。やっぱり、田舎のことだし、エアコンが普及してた時代でもなかったみたいで、夏だから玄関の戸は開け放していたんですって。
電話を切ったところに、玄関からいきなり男の人が入って来て、お母さんはぎょっとしてすくんじゃったそうです。よく見れば、その顔は明らかに死者のもの。細い手足はカマキリのようで、爪が長く伸びている。その手を、お母さんの方へと延ばしてくるのを見て、「ぎゃーっっっ!」って、悲鳴をあげちゃったんですって。
そうしたら、男の幽霊がその悲鳴に驚いて、あたふたと逃げて行った。お母さん腰抜けちゃって、ようやく動けるようになってから、ずるずる体引きずって、玄関を閉めたんだそうです。
明らかに幽霊かなんかで、けど、それまでそんなもの見たことなかったし。それ以後もないそうなんですけどね。もしかして幻覚でも見たのか、ただの白昼夢かって思っていたところに、夕方、隣のお母さんがやってきた。
曰く。
「ごめーん、奥さん、昼間、男の幽霊来なかった? あ、来た? ごめんなさいね~、うるさいからあっち行ってって言ったらうちから出てったんだけど、そっちに行っちゃったみたい。ごめんなさいねー」
って。
幽霊見慣れてる方って、こんなもんなんでしょうかね?
語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。
『百物語が終わるまで』
https://kakuyomu.jp/works/822139841307342761
の作中話は800字程度に縮小させました。よろしければ本作もお読みいただけますと幸いです。
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