第5話

やがて土煙が晴れていった。


「なにっ!! 」


笑みが驚愕に変わる。腕をクロスした状態でその場に立っていた。アスバーンはホーリースラッシュの直撃に耐えていたのだ。


だが、無傷とまでは言えない。攻撃を受けきった手甲は割れて皮膚が露出している。そこから血が流れていた。手甲以外にもところどころ破損が見られる。


ドルスはそれを見て落ち着きを取り戻し勝利への道筋を考えていく。ホーリースラッシュは強力なスキルだがそれ以外にもまだまだ使えるスキルはある。それらを駆使して行けば十分に渡り合えると踏んだ。


剣を構え直し補助スキルを発動させようとした。そこへアスバーンから声をかけられる。


「お前は一体何のために戦っている? 」

「なにっ!? 」


突然、話しかけられて困惑するがドルスにとってこれは悪くない流れだった。ホリースラッシュを再び打てるようになるまではしばらく時間がかかる。話に乗ることで時間を稼ぐことに決めた。


「それを聞いてどうするつもりだ? 」


「さあ、どうなるかな? ただの興味本位だ 」


「、、、そうかよ。まあ、いい。答えてやる」


「そこまでの力を持ちながら何故代官などに組みする? 」


「金だよ。 金以外に理由なんてねぇ 」


「金か、、、わかりやすい理由だ。しかし、お前の力なら冒険者をするなり国に仕官するなりもっと良い条件で稼ぐことが出来るだろう。このような場所にいて満足出来るのか? 」


「ああ、満足さっ。雑魚共を相手にするだけで大金が手に入るんだからなっ! 最小限の労力で最大の稼ぎを上げる。これが資本主義ってものだろう? 」


「なるほど、それがお前の正義「速力上昇スピードブースト! 」


ドルスは話を行動で打ち切る。十分に時間は稼げたのだ。補助スキルをかけると勝負を決めるべく最大の技で打って出た。


「おぉぉぉっ!…聖光烈斬ホーリースラッシュッ! 」


今度はアスバーンを狙わずにレジスタンス軍を狙う。かばい立てして射線に入るなら不利な体勢で受けることになるだろう。予想した通りにアスバーンは動いた。


(やった… )


勝利を確信し内心でほくそ笑む。


しかし、ケツは輝いていた。


想像を超える速度で動くと腰を屈め両手を膝頭ひざがしらに置き尻を突き出す。


赤い輝きがケツからほとばしりホーリースラッシュを跡形もなくかき消してしまう。


「なっ… 何だとっ… 」


ドルスも代官軍もここで初めて気が付いた、尻が剥き出しであることに。


戦慄が、走る――


(((ケ、ケツ…… )))


視線を一点に集めながらアスバーンは独り言のように呟く。


「ここからが本番だ… 」


次の瞬間、赤い光を放つ尻から炎が吹き上がる。屈んだ状態から直立するとドルスへとゆっくり振り返り指を突き出す。そうして高らかに宣言を行った。


「尻に火がついた… もう、止まらんぞ 」


炎を背負うその威容に気圧されて、皆、動くことも声を上げることも出来ない。


その中で唯一ドルスだけはまだ戦意を保っていた。


「チクショォォォ… 防御力上昇プロテクトブースト継続回復リジェネレイト!… 」


かけられるだけの補助スキルをかけるとアスバーンへと猛攻を仕掛ける。ここで仕留められなければもう後がないと悟っていた。


重破斬ブレイクスラッシュ! 」


命を懸けた斬撃がアスバーンを襲う。人生の全てを込めたような一撃は確実に重く、鋭い。彼の最強スキルであるホーリースラッシュをも越えていた。


だが、それでもアスバーンに届くことはなかった。


「ドンケツ! 」


斬撃が届くよりも速くケツがドルスの腹に突き刺さる。そのまま後ろに吹き飛ばされて宙を舞い地面に叩きつけられた。


(……なんだ? 効いてねぇ )


地面に仰向けに倒れたドルスだったがまだ生きていることに気付く。ダメージはほとんど感じていない。


(こけおどしか… )


疑問に思いつつ立ち上がると戦いを続けようとして一歩前に踏み出す。そこでふと体の異変に気付く。


(な、なんだぁ…? )


ケツが突き刺さった腹が熱い。見れば赤く光を放っている。表面にはケツの紋が浮かんでいた。


そこから熱い力の奔流が全身に流れていく。そこで初めて自分の死を悟った。


「しっ… 死にたくねぇぇぇぇぇっ!! 」


叫び声を上げるとドルスは全身から炎を吹き上がらせる。一瞬の熱さと息が詰まるような苦しみを感じた後、躰は内側から爆発して四散する。千々になった躰は炎に焼かれて跡形もなく消滅することになった。


「ひっ… ひいいいい… 」


ドルスの死を目の当たりにした傭兵達も正規兵達も騎士達も皆その場から逃げ出そうとする。最高戦力だった聖騎士があっさりと倒れたことで完全に戦意を失った。死の恐怖に支配される。


だが、そんな彼らの行く手を炎の壁が遮る。


アスバーンの尻から伸びた炎が全員を囲い退路を完全に塞いでいる。誰一人逃がす気はなかった。


「たっ、助けてくれっ! 」


誰かが命乞いをした。しかし、レジスタンス軍の蜂起を知る者は少なければ少ないほどいい。アスバーンには届かない。


「駄目だ… 死ね 」


冷酷に言い放つと炎の囲いを閉じる。これで代官邸の前の戦いは終結することになった。


そのまま振り返ることなく前に進んでいく。後は代官ゴルヌスを殺すだけだ。


屋敷に正面から入りゴルヌスを探す。アスバーンの能力で居場所はすぐにわかった。壁に尻を付けることで屋敷内の状況が手に取る、いや、尻に取るように浮かんでくる。


真っ直ぐに居場所に向かう。移動することなく二階にある書斎にいた。扉を開けて中に入るとゴルヌスは窓際に立っていて侵入者に対して間抜けにも誰何すいかを始める。


「なっ… なんだ貴様は!? 私を誰だと思っている! 」


どうやら状況がわかっていないようだった。ドルス達が敗北するとは思っていなかったのだろう。


そればかりか目の前の男が自分を殺しに来たとも思っていないようだった。醜く肥えた巨体を揺らしながら罵詈雑言を並べ立てる。


「下賤の者が気安く入っていい場所ではないぞ! さっさと出ていかぬかっ! 無礼者めっ! 」


アスバーンはそれを無視してずいと近づく。そこでようやく異変に気付いた。誰も駆けつけてこない。それが意味するものは…


「まっ、待てっ… 金はやるっ… 命だけは… 」

「駄目だ、ケツ末はすでに決まっている 」


静かに終わりを告げるとアスバーンはくるりと踵を返してゴルヌスから距離を取る。まるでそのまま部屋を出て行くかに見えた。


「へっ? なにもしない? 」


予想外の行動に理解が追いつかない。呆然と背中を見て初めて気付く、尻が剥き出しであると言うことに。


「え? ええ!? ケツ… 」


それがこの世で見た最後の光景になった。


「ドン……ケツッ! 」


ゴルヌスが轟音と共に壁を突き破って外に飛んでいく。その姿は外にいた民衆にはっきりと見えていた。


放物線を描いて落下すると地面に激突する。全身の骨が砕けていて血だまりを作り出す。おそらくは即死だろう。


アスバーンはゴルヌスの死を確認するとひとまずやり切った充足を噛みしめた。だが、まだ終わりではない。


代官の死に沸き立つ民衆の裏で屋敷にいた使用人をケツ探知で見つけるとそこに向かう。


「こっ、殺さないでっ! 」


最初に見つけたのはうら若いメイドだった。彼女は当然のようにひどく怯えていた。気の毒だが同情してばかりもいられない。やらなければならないことがある。


「大人しく言うことを聞けば、何もしない。この屋敷にある金目のものを出すんだ。いいな? 」

「はっ、はいぃっ!」


メイドに案内させて値が張りそうな物品を手に取ると虚空の中に手を入れて仕舞い込む。アスバーンの能力のひとつで至離シリの穴と言う。いわゆるアイテムボックスと同じものだ。


金ぴかで悪趣味なものをいくつか仕舞い込むとメイドに向き直る。


「案内ご苦労だった。約束通り何もしない… 」

「あっ、はっはい… 」

「だが、最後にこれを見てもらおう 」


―パァンッ!

「ひぃぃぃ… 」


アスバーンはメイドに向かって尻を突き出すと自らの手で強く叩き破裂音を響かせる。メイドは恐怖で腰を抜かしその場にへたり込んだ。


そのまま去って行くケツから何故か目が離せなかった。見えなくなるまで目で追っていき強く頭に焼き付く。


一介の強盗であるアスバーンを強く印象づける必要があった。すべてはアスバーン一人でやったことにしなければならない。


その為に使用人を数人ほど探して同様の処置を施した。完璧とは言い難いが後で調べても出てくるのはケツのことばかりだろう。


街の人間は皆、レジスタンスよりのはずだ。不利に転ぶ可能性は少ない。実際に犯行を行ったのはアスバーンただ一人。追及するのは難しいと考えられる。


全てを完了させ代官邸から去って行く。正面玄関から出て正門を潜りレジスタンス軍と向かい合う。


その中にクローディアの姿があった。


アスバーンは彼女に向かって言葉を投げかける。


「俺の尻は血で汚れている。だが君の尻は綺麗なままだ。これからもそれを大切にな… 」


「はい… 」


言葉の意味はわからなかったが思いは伝わった。クローディアは再び涙を流し溢れさせる。


そんな彼女の横を通り過ぎ、アスバーンは群衆の方へ歩いていく。自然と群衆は左右に分かれて道を空けた。


去って行く後ろ姿を皆が目で追う。


英雄のケツをその目に焼き付けようと黙って見続けていた。



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熱ケツ戦士ωアスバーン 井上 斐呂 @mach-penny

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