第4話
代官邸の前を目指して大勢の民衆が大通りを進んでいる。それぞれの手には武器が携えられていた。皆殺気立っているようだ。人々の顔は一様に険しく怒りがにじんでいる。
その先頭にはクローディアの姿があった。青色を基調とした騎士服に銀色に輝くプレートアーマーを着込む。装飾が施された剣と盾を持つ。戦乙女と呼ぶにふさわしい出で立ちだった。
進む先、代官邸の前には兵士や傭兵、代官に使える騎士達が陣形を組んで待ち受けていた。
集団蜂起をする情報はどうやら漏れていたようだ。それでも止まることはしない。この程度は想定されていたことだった。
数十メートルほど離れたところでレジスタンスは一度行進を止めて代官側の軍勢と睨み合う。
クローディアは代官邸の前を守る者たちに投降を呼びかける。
「聞けっ! 代官ゴルヌスに正義などないっ! ただ私腹を肥やし、贅をむさぼるだけの愚物だ! 貴殿らが命を懸けて守る価値があるのかっ? 我々に協力しろとは言わない。投降して欲しいっ 」
彼らはただ金で雇われた者や義務的に従っているだけの者だろう。積極的にあの代官に協力しているとは思えない。
それ故に呼びかければ応じてくれるのではないかという期待があった。自分と同じ騎士のジョブを持っている者なら志があるはず。
そんなクローディアの思いを踏みにじるように集団の中から一人の男が進み出てきた。顔には挑戦的な笑みを浮かべとても投降するような雰囲気ではない。
「雑魚共を蹴散らすだけの簡単な仕事でいい報酬が手に入るんだ。止めるわけないだろっ! なあっ? 」
男の呼びかけに傭兵達はつぎつぎに笑って同意を示す。
とても体格のいい男だった。長く伸ばした癖のある髪を荒々しく後ろに流している。重厚な鎧に身を包みただならぬ気配を纏っている。クローディアの目にも強者だと写る。
「この俺がっ! 聖騎士のジョブを持つドルス様が付いているんだっ! 楽勝だぜっ! 勝てる戦いを捨てる奴はいねぇっ! 」
「せっ… 聖騎士だとっ!? 」
それを聞いてレジスタンス軍に動揺が走る。聖騎士のジョブを持つものなら一騎当千の猛者と言っていい。ここまで戦力差があるとは考えていなかった。
(そっ…そんなっ… )
クローディアもこれには動揺を隠せなかった。ドルスと名乗るこの男が聖騎士であるのはおそらく間違いない。強者特有の圧を感じる。相打ちを狙ったとしても勝てないのは確実だ。
どのような理由で聖騎士がゴルヌスに手を貸すのかは解らないが、この男は自分の力に自信を持ち、力を振るう機会を求めている。説得に応じるとは思えなかった。
戦う以外に道はない。しかし、戦ったとしても勝ち目がないどころか何も出来ずに終わる。
そう考えるとこのまま戦うべきか迷いが生じてくる。降伏すべきではないかという考えが浮かぶ。自分一人の命で納められないかと弱気になる。心がくじけかけていた。
しかし、ドルスに戦わないという選択肢は無いようだった。前に進み出ると高らかに宣言する。
「お前達は見せしめに皆殺しにしてやるっ! この街の連中が二度と刃向かおうなんて思わなくなるようになぁっ! 」
剣を鞘から抜いて突きつけるように構える。それだけでレジスタンス軍は圧倒された。
ドルスが更に一歩を踏み出そうとしたその時…
「待てぇいっ!!! 」
周囲に朗々たる声が響き渡る。その場にいる誰の耳にも不思議とはっきり聞こえた。
「誰だっ!? 」「どこにいるっ!? 」
レジスタンス軍も代官の手勢も声の主を探す。発見するまで時間はかからなかった。
「あそこだっ! 屋根の上にいるぞっ! 」
誰かがその声を上げる頃にはすでにその場にいる皆が見上げていた。その男は視線を集めながら動き出す。
「とおっ!! 」
かけ声と共に屋根の上から飛び降りると二つの勢力が睨み合う中間に、代官軍と向かい合うように着地した。
ドルスは男から敵意を感じ取っていた。立ち姿もレジスタンス軍に味方をするように見える。とりあえず何者かを聞いてみることにした。
「何者だテメエはっ! あいつらの仲間かっ? 」
「私は通りすがりの強盗だ、、、今からお前達を殺す。そして、、、」
屋敷を指差して高らかに宣言を行う。
「あの屋敷から金品を奪う 」
一瞬、ドルスも仲間達も呆気にとられるが言葉の意味がわかってくると無茶苦茶な宣言に対して失笑が漏れ出てくる。
「はっはははっ 」
「おいおいおいっ、バカが何か言ってるぜっ 」
「戦力差がわかんねぇのか 」
ガラの悪い傭兵達は口々に身の程知らずの闖入者をせせら笑う。しかし、ドルスはそれに同意しながらも違和感を感じていた。
(こいつ… 強いのか? )
よくよく見ると目の前の男からただならない気配を感じている。自分が負けるとは思わないが侮るべきではないと直感した。
そんなドルスの警戒感を感じ取れていない傭兵二人が無防備に近づいていく。手前までやってくると手にした武器を突きつけて脅しをかけた。
「酔ってるんじゃねーのか、お前? 」
「酔っ払いだから許されるとか思うんじゃねーぞ、ああ? 」
それがこの二人の最後の言葉になった。
―ドッ…
轟音が鳴り響き二人は同時に宙を舞う。陣形を飛び越えて代官邸の門柱にぶち当たった。石造りの頑丈な柱を破壊してめり込むとそのまま動かなくなる。そこから血が流れて地面に赤い染みを広げていった。
男が何をしたのか何もわからなかった。
ただひとりドルスには見えていたがそれは驚愕すべき内容だった。右ストレートを一瞬の内に二発放ち元の姿勢に戻っていたのだ。
(強ぇな… )
油断なく警戒して男に問いかける。
「名前を聞いておこうか? 」
「教える意味が有るとは思わないが、冥土の土産に教えてやろう。アスバーンだ… 」
「そうかい… 俺はドルス… 聖騎士ドルスだっ! 」
名乗りと共に剣を振りかぶると踏み込んで一気に距離を詰めていく。空気を切り裂くような鋭い斬撃が流れるような動きで繰り出される。自信に見合うだけの実力を感じさせる素早さだ。目にも留まらぬ連続攻撃がアスバーンに襲いかかった。
それを小刻みなステップで躱し、時には手甲で撫でるように剣筋を反らして
ギリギリで避けているため人々の目にはどうやって躱しているのか理解出来なかった。剣が体をすり抜けているようにも見えていた。
レジスタンス軍も代官軍も言葉を発することも出来ずに見ているしかなかった。レベルが違う戦いに入り込めるとは思えなかったのだ。
やがて一方的に攻撃していたドルスの動きが疲労からかわずかに鈍る。体捌きにぶれが生じて流れが乱れる。相手に付け入る隙を見せていた。
その隙にアスバーンの拳がねじ込まれる。連撃の流れを断ち切るように鋭い一撃がドルスの胸部に突き刺さった。
「があぁッ…! 」
重く鈍い音を立てて後ろに吹き飛んでいく。鎧の胸部には打撃が当たった場所にへこみが出来ていた。しかし、そのまましっかりと両足を着けて着地する。まだまだ戦う余力があるように見える。
当たる直前、ダメージを減らすために自分から後ろへ飛んでいたのだ。幾度となく激しい戦いをくぐり抜けてきた実力は本物だった。
だが、そんなドルスを以てしてもアスバーンは異質な相手に見えていた。実力の底が知れない。
(やるじゃねぇか… ならば… )
「お前達っ! 何をぼさっとしてやがるっ! 戦えっ! 」
勝てないとは思わないが念のために数の差を利用すると決めた。号令をかけて傭兵達を嗾けていこうとする。しかし、先ほどまでの戦いを見ていた傭兵達は圧倒されていた。返ってきた反応は鈍い。
「お、俺達が戦うんですか? 」
「無茶だ、勝てっこねぇ… 」
(チッ… 役立たず共が… )
「楽に勝てるって言うから参加したんだ… あんなギャアァァッ!! 」
口答えをした傭兵をドルスの剣が切り伏せる。大きく袈裟懸けに切り裂かれて盛大に血しぶきが舞った。すぐにでも絶命するだろう。
仲間の死を目の当たりにし、浮き足立っていた傭兵達は覚悟を突きつけられた。そこに再度ドルスの発破がかけられる。
「相手は一人だっ! 囲めばどうとでもなるっ! まとめてかかるんだよっ!! 」
「「「おおっ!!」」」
立ち向かわなければドルスに殺される。それよりかは目の前の相手の方が丸腰でもあり容易に見えた。ドルスの言う通り囲んでしまえば何とかなると思い一斉にかかる。
対してそれを受けるアスバーンは冷静だった。傭兵達の足並みは統率が取れているものではない。素早い動きで前進して一人を殴り殺すと横にスライドしてもう一人を殺し後ろに引く。
常に後ろに回られないように、レジスタンス軍に攻撃が向かないように立ち回る。
一方、レジスタンス軍は目の前で起きている壮絶な戦いに圧倒されていた。その最前線にいながらクローディアは戦いを見守ることしか出来なかった。
(どうして… )
まったく見ず知らずの人間が自分たちに代わって戦っている。彼女の目にはそう映っていた。
なにゆえに戦ってくれているのか理解出来なかった。だが、理解する必要は無いのかも知れない。涙が溢れて止まらなかった。
頼もしい後ろ姿を見て折れ掛けていた心に希望が湧いてくる。
(どうして… )
彼は自分を強盗だと言った。レジスタンスとは関係が無いとも。だが、明らかに自分たちを守ってくれている。おそらく代官を排除することまで一人でやるつもりだろう。
後で自分たちに累が及ばないようにするため――それ以外には考えられない。
なにゆえそこまでしてくれるのか理解出来なかった。だが、理解する必要は無いのだろう。唯々感謝するしかない。
自分たちも戦うべきだと心が叫んでいるが手を出せば彼の心意気を無に帰してしまう。見ていることしかできない。
一人に背負わせていることに
(どうして… )
そんなクローディアにひとつ――ひとつだけどうしても気になってどうしようもないことがあった。
(どうしてオシリ丸出しなのぉぉぉぉぉぉっ!! )
アスバーンの尻は解放されていた。そこだけを切り取ったかのようにきっちりと尻の部分だけなにもない。動く度に桃尻が左右に揺れる。
正直、目のやり場に困った。涙でにじんだ視界でなければ真っ直ぐに見ることができなかっただろう。
戦いはアスバーンが圧倒する形で進んでいた。次々に襲いかかってくる傭兵達を一撃の下に粉砕していった。
人が飛び血しぶきが舞う。凄惨を極める光景だ。尻に目が行きがちだがそれでも人々は鬼神のごとき勇猛さに圧倒され心の中で声援を送る。
だが、その中でドルスは冷静に戦いを見据えていた。アスバーンの動きを観察し弱点を見極める。
「
味方が戦っている間に補助スキルを使用して攻撃の準備を整える。そのまま自分が得意とする必殺の攻撃スキルに繋げる。
「ハァァァ…… 」
剣を構えて力を溜めていくと体を金色の光が包んでいく。
「
気合いと共に剣を地面に向けて振り下ろすと剣閃から光の斬撃が一直線に飛んでいく。射線上には味方もいたがかまわずに両断していった。アスバーンに強力な一撃が迫る。
避けることは出来た。しかし、避ければ後ろにいるレジスタンス達に当たる。受けるしかない。それこそドルスが見抜いたアスバーンの弱点。
「終わりだっ! 」
勝利を確信して叫ぶ。同時に光の奔流がアスバーンに直撃して弾ける。轟音と共に爆発が上がった。
巻き上がる土煙が視界を遮る。結果は見えないが手応えはあった。期待をしながら獰猛な笑みを浮かべてその時を待つ。
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