第2話 異世界に備える日常鍛錬

「はぁ? 竹之内が異世界転生?」

桜小路と昼食を食べながらそれとなく意見を聞いてみることにした。

「昨日まであんなに元気だったのに失踪なんておかしいですよ。」

「だからといって異世界転生は飛躍しすぎだろ。」

少し呆れられながらツッコミを受けてしまった。


「でも異世界転生は少し夢があるよな。」

「夢?」

「だって異世界で無双できるんだろ?」

「アニメではそうですけど、、、でも俺の場合、環境適応力低いから無双する以前にまともに生活できる気がしないですね。」

「じゃあ今から鍛えておいた方が良いんじゃないか(笑)」

竹之内のことは心配であったが、桜小路と冗談を言い合ったら少し気が晴れた。


「今から鍛えておく、、、か」と桜小路の言ったことがまたしても頭に残る。

確かに異世界転生してしまう前に、鍛錬を積んでおくのは良いかもしれない。

しかし、環境適応力なんてどうやって鍛えたら良いんだろうか。

「環境適応力、環境適応力、、、」と無意識に口をついて出ていた。

すると川島部長が話しかけてきた。

「田中山、環境適応力がどうかしたのか?まさか転職を考えているのか!?」

川島部長は竹之内の失踪で少しナーバスになっているようだ。


「いや、そういうわけではないんですけどね。この先、何が起こるかわからないから対処できる力が欲しいと思って。」

川島部長を安心させるために、咄嗟に適当な事を言った。


「そうか、なるほどな。それなら旅行が良いんじゃないかな?私が学生の時はバックパック背負って世界中旅したけど、あの経験が環境適応力を鍛えてくれたと思うぞ。」

温厚な部長からはバックパッカーのようなワイルドな姿は想像できないが、

この厳しい会社で中間管理職として生き残っている部長の起源はそこにあったのか。


しかし修学旅行で日光や、京都奈良に行ったぐらいの経験しか無く、どこに行ったら良いか皆目見当もつかない。

部長との会話の後、桜小路に最近旅行をしたか尋ねてみた。

「俺もあまり旅行はしないからな~。スイーツ食べに電車に行ける範囲で出かけるぐらいだし、、、」

桜小路も自分と一緒でインドアだ。ただスイーツ好きな彼の方が少しだけ行動範囲が広かった。

「あ、そういえばこの前、日光の揚げ湯葉まんじゅう食べに行ったわ。テレビで見たらどうしても食べたくなって。」

「え!?わざわざまんじゅう食べるだけに日光行ったんですか?」

「テレビで見たら無性に食べたくなってな。スペーシアX乗って、寝てたらあっという間に着いたよ。」


スイーツ旅行の話をしている時の桜小路の表情は普段の疲れた表情から一転、非常に輝いており、なんだか羨ましかった。

俺は何が良いかな~と考えながら、帰りの京王線に乗っていると、『高尾山のとろろ蕎麦』の広告を目にした。


もし竹之内が本当に異世界へ行ったのなら、次は俺でもおかしくない。

その時、何もできないまま死ぬのはごめんだ。

よし。今週末高尾山に行ってみよう。

これはただの小旅行じゃない。

来るべき異世界転生に備える最初の鍛錬だ。

とろろ蕎麦も楽しみではあるが。

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