来たるべき異世界転生に備えて
@metabousagi
第1話 異世界の予感
「まずい。このままでは異世界転生してしまう。」
俺の名前は田中山春男。ブラック企業で働く28歳、趣味はファンタジーアニメ鑑賞だ。定時を過ぎたが、今日も仕事が終わる目処が立たない。
まだ火曜日だというのに、肩は鉛のように重く、目の奥がじんじんと痛んでいた。
「田中山、大丈夫か?ちょっと休憩も兼ねて夕飯食べに行こうぜ。」
誘ってくれたのは同じ部署の先輩である桜小路だ。
部長に食事休憩を取る旨伝えると、
「おー、しっかりエナジーチャージしてこいよ。」
答えるのは川島部長だ。
キツい労働環境だとは思うが、上司の顔色を伺わずに休憩を取れるような関係性はせめてもの救いだ。
桜小路に連れられて、近くの蕎麦屋に入り、二人とも月見そばを頼んだ。
蕎麦は大好きだ。疲れた身体に優しい鰹出汁のスープが染み渡る。ほっと一息ついているところに桜小路が話を振ってきた。
「なー、田中山。最近お前に教えてもらったダンジョンを冒険するアニメめっちゃ面白いな!」
「お気に召してもらえて嬉しいです!どこまで見ましたか?」
「シーズン4の第9話ぐらいかな。」
「あとちょっとですね。」
「そうなんだよ。で、次のおすすめのアニメを教えてもらおうと思ってさ。」
「そうですね~、異世界転生ものとか興味あります?」
「異世界転生はあんまり見たこと無いかも。ちなみに転生するやつって元の世界でも才能がある人とかが多いの?」
「特に個性のない普通の人が多くて、最近だと社畜がトレンドですね。」
「なんか俺らみたいだな!」
「ハハハ」と二人で笑った。
夕食後、再びオフィスへ戻った。疲労感も強いので、今日は終電までは残らずに帰宅することにした。
「田中山さん、お疲れ様です!」と元気に挨拶をしてくれるのはチーム最年少の竹之内だ。彼の笑顔に元気をもらい、いつもより少しだけ明るい気分で帰路についた。
帰宅後は唯一の趣味であるアニメタイムだ。
寝る時間を削るのはつらいがこの時間は自分のメンタルの生命線だ。
今日は、最近始まった新しい異世界転生ものを見ることにした。第一話はテンプレ通り社畜が異世界に転生していた。
『なんか俺らみたいだな!』という桜小路の言葉が何故か妙に頭に残る。
出てくるキャラが美少女揃いで、声優陣にも力を入れている。
なかなか面白そうな作品ではあるが、今日は見る気になれず早々に寝ることにした。
翌日、会社に向かうとフロアが騒がしかった。
「竹之内くんに連絡がつかない...」
いつも一番早くに出社する竹之内が出勤時間20分前になっても現れないので
念のために電話してみたが繋がらなかったようだ。
ただ、少しの騒ぎの末、平常運転に戻っていった。
この会社では、誰かがいなくなることはもはや珍しい出来事ではなかった。
しかし、竹之内は昨晩もあんなに元気に挨拶してくれたのにどうして急に。
『なんか俺らみたいだな!』という桜小路の言葉がまたしても頭をこだまする。
「もしかして竹之内は異世界転生したのではないか?」
そんなことを考えていると、川島部長から大量の書類を渡されて、
「田中山君、すまないが竹之内君の仕事は君が引き取って欲しい」と頼まれた。
ただでさえオーバーワーク気味なのに、この仕事まで引き受けたら絶対過労死する。そして、そのまま俺も異世界転生してしまうのではないだろうか。
でも現実世界でさえ生きていくのに必死なのに、果たして異世界という未知の場所で暮らしていけるのだろうか?
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