第12話 夕食

Gは壁作り、俺は川へ魚を獲りに行く。

役割分担ができている。

文明だ。

人類はこうして進歩してきた、たぶん。


「小僧、川は恐らく下だ、落ちるなよ」

「知ってるよG、ここじゃ俺の方が先輩だ」

「はいはい、先輩、頼みますよ」

「俺、行きまーす」


背後でトン、トン、と心地よい音がする。

Gが壁を叩く音だ。

規則正しくて、妙に安心する。


俺は川へ向かいながら思う。

昨日まで独りだったのに、今日は作業音が背中を押してくれる。

仲間がいるって、こういうことかもしれない。


川に着く。

水は冷たく、澄んでいる。


ゾンビはいない。

魚はいる。

ありがたい。


「……今日も頼むぞ、オラに命を分けてくれ」


俺は槍代わりの棒を構え、息を殺す。

昨日より動きがいい、俺の。

昨日は“必死な素人”だったが、今日は“調子に乗り始めた素人”だ。


「キラー――ン!今から俺はニュータイプを超えた!おニュータイプだぜ!」


 一匹目、失敗。

 二匹目、惜しい。

 三匹目、成功。


「よし!今の俺、映画だったら中盤だ!」


調子に乗った結果、足を滑らせる。


「うおっ!これは自分のドジで死ぬモブのやつ!」


なんとか踏みとどまり、最終的に六匹。

サイズはバラバラだが、数は正義だ。

「質より量だ、だっていくらおニュータイプだって、量産型が5万機も相手なら勝てないだろ。」


蔦を切り、魚の口から通す。

六匹がずらりと並ぶ。


「……圧巻だな、原始人の誕生だ」


原始人も生き延びた。

俺も生き延びる。

おニュータイプだからな。


拠点へ戻る途中、一本のキノコが目に入った。


美しい。

異常なほど美しい。

赤とも紫とも言えない色で、ツヤがある。


「……これ、どう見ても“食うな”って色だよな」


だが心のどこかで、こうも思う。


「でも、だいたい物語って

 こういうの食ったやつが生き残るんだよな……」


俺はしゃがみ込み、キノコと目を合わせる。


「なあ、お前……毒だろ?」

 

――沈黙。


「正直に言え、殺すぞ」


――沈黙。


「……よし、じゃあ信じる」


何を信じたのか分からないが、

俺はキノコを拾った。


「Gに鑑定してもらおう。

 あの爺さん、たぶん“匂い”で判断する、知らんけど」


一方その頃、Gは拠点で一人、壁を完成させていた。


「……うむ」


壁は立った。

まっすぐで、強い。

昨日まで床だけだった場所に、ちゃんと“囲い”がある。


「小僧の土台は壊したが、夢は壊しておらん」


誰にともなく言いながら、Gは次の工程へ移る。


屋根だ。


「雨はゾンビとやらより怖い」


丸太を組み、角度をつけ、

水が流れる方向を計算する。


「屋根はな、守ると言う強い意思じゃ」


Gの顔は真剣だった。

だが手元は速い。

長年の癖が、体を勝手に動かしている。


「G!見てください!魚!六匹!」

「……おお」


Gは屋根材を持ったまま、ちらりと見る。


「ウグイは骨が硬いから18点じゃ」

「一匹3点かよ!でもその評価、地味に嬉しいよ」


俺は壁と屋根の骨組みを見上げ、素直に言った。


「……すげぇな、G。もう完全に家じゃん」


「まだじゃ。だが、“帰れる場所”にはなった」


「俺には…帰れる場所があったんだ…」


俺は感動を噛み締めつつ、急に腹が鳴った。


「……飯、作ります!」


「待っとった」


俺は拾ってきた鍋を焚火にかけ、魚を捌き始める。


包丁はないがナイフはある。

洋物だから強いんだ。

そして何より気合がある。

大体の事は気合いでなんとかなるもんだ。


「内臓は……たぶん、ここ!」


「背中から刃を突き立てるな!逆だ!」


「Gを試しただけだよ、うるせぇな屋根に集中しとけ」


「はよさばけ小僧」


鍋に水を張り、魚を放り込む。

自前の塩をパラパラ。


「この塩、文明の味がしますよ」


「文明に味なんかないわ!塩は塩じゃ!」


そして、問題のキノコ。


「……G、これ、どう思います?」


Gはキノコを見て、鼻を近づけ、少し考えた。


「……まあ、死にはせんじゃろ」


「その“まあ”が怖いんですけど!」


「死んだら責任取れよ小僧」


「死のうとしてたクセに生きようとすんな!」


俺は鍋に入れた。

キノコは静かに沈んだ。


「……頼むぞ、ファンタジー発動してくれ」


鍋がコトコトと音を立てる。

夕暮れの中、焚火と屋根と壁、部屋とTシャツと俺。


ゾンビはいない。

だが、今日はちゃんと“暮らして”いた。


「なあG」

「なんじゃ」


「ゾンビ来なくても、

 ここで生きるの、アリだね」


「……ああ、悪くない」


鍋から湯気が立ち上る。


今日の飯は、

いつもより、うまそうだった。

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