第11話 解体
「爺さん、名前なんかどうでもいいからGって呼ぶよ」
「お前は小僧だな」
「あぁ、それでいい」
会話は以上で成立した。
人間関係の構築にかかった時間、三秒。
山じゃなければこうはいかない。
いや、山でもこの速度はない、
むしろ怪しんで怪しんで怪しんで、怪しんでまいります。
下手すりゃ殺してるかもしれない。
Gは、どこから出したのか小型の斧を持っていた。
年季が入っていて、刃がやたらと渋い。
「……なんで斧なんか持ってんだよ」
「首吊る前に熊に喰われたら笑えんからのう」
「そこ笑うポイントなのか?」
「熊に勝てる気はせんが、斧があれば“抵抗した感”は出る」
なるほど、死に際の演出まで考えていたらしい。
この爺さん、思ったよりカッコイイ。
でもなんだか俺の考え方に似てる。
こうして、Gとの壁づくりのための伐採作業が始まった。
俺が木を見上げる。
「この辺かな?」
「小僧、その木は乾いとらん。反る」
「反る?」
「家が曲がると心も曲がる」
「そういう言い方、嫌いです」
Gは淡々と、しかし容赦なく俺の選択を否定していく。
採寸も地獄だった。
「十畳ほしいって言ってたな」
「将来、助けた女の子と住むかもしれないんで」
「私は入っとらんのか」
「死ぬ気だったじゃねーかよ」
「忘れたわい」
だが、Gは急に土台を見て黙り込んだ。
「……これ、小僧が作ったのか」
「そうです!六畳です!」
「全部壊す」
「本気なのかい?早い、早いよ!」
「甘いわ!ゾンビ来る前に家が死ぬ!」
こうして、俺の苦労の結晶である土台は、
開始五分で全撤去が決定した。
木を引き剥がしながら、Gは言う。
「家はな、敵より先に裏切ったら終わりじゃ」
「いきなり勝手に、俺の心に刺さるのやめてください」
俺は、Gにゾンビ対策の要望を説明した。
「高床式で、登れなくて、音に強くて、壊れにくくて、できればカッコよく」
「欲張りじゃな」
「ゾンビ、妥協しないと思うんで」
Gはふむ、と頷き、作業を続ける。
「なら、柱は太く、壁は厚く!」
「それ、作業量半端なくない?」
「やるぞ。生き延びた者が正義じゃ」
壁用の木材を切り出しながら、Gは昔話を少しだけした。
「大工だった。家を建てて、直して、壊して」
「……もしかして自分の家も?」
「一番丈夫に作った。だから妻に先に逝かれたのかもな…」
一瞬、空気が静かになる。
だが次の瞬間、Gは斧を振りながら言った。
「ゾンビより、まず小僧が長生きする家を作る」
「俺、ゾンビより下なんですか?」
「今のところ、同列じゃ」
夕方には、土台は完全に作り直され、
壁の骨組みが見え始めていた。
俺は汗だくで座り込み、Gを見る。
「……G、すげぇな」
「当たり前じゃ。もとプロじゃ」
「ゾンビ来ても戦える?」
「来たら小僧が頑張れ」
「俺??」
「そのつもりで山を買ったんじゃろ?
噛まれもせずに一人前になった奴がどこにいるものか!」
「親父にも噛まれた事ないのに!
つか噛まれたらゾンビとして一人前になるわ」
この拠点は、ゾンビ対策の家。
でも、もしかすると人生立て直し現場かもしれない。
そして俺は確信した。
ゾンビが来なくても、
この爺さんがいる限り、
毎日はたぶん、面白い。
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