第8話 火種

食料の備蓄が、目に見えて減ってきた。


「……これはまずいな」


そう呟いたが、実際のところ危機感は半分、

面倒くささが半分だった。

車で町まで行けば簡単に買える。

コンビニもスーパーもある。

文明は元気だ。

だが問題はいつまで元気か分からないことだ。


ゾンビは、だいたい油断した頃に来る。

俺がそう決めた。


「今日行けるからって、明日も行ける保証はない……」


こういう思考をしている自分が一番信用ならないが、

考えてしまった以上は仕方ない。

そこで俺は、拠点周辺を散策することにした。


歩いて数分。

あっさり川を見つけた。


「……近っ!サバイバル感ZERO」


拍子抜けするほど近い。

水がある。

魚がいる可能性がある。

それはつまり、俺はハンターになれるということだ。

ガンランスも太刀もないが、俺は枝を切り、即席の槍を作った。

先端を尖らせ、「これで突けばいけるだろ」と思った。


思っただけだった。


魚は速い。

俺は遅い。

槍は長いが、当たらない。


「……待て、これ本当に原始人できてたのか?」


突くたびに魚はスッと避ける。

むしろ俺を見て避けている気がする。


「槍を持った不審者だと思われてるな、魚めっ!」


ここで作戦変更。

俺は川に石を投げ始めた。


一個。

二個。

三個。


「……水、止まらないな」


さらに投げる。

五個。

十個。

三十個…五十個…


結果、流れが弱まった。

魚の動きも鈍くなった。


「はぁ…はぁ……あ、これ、いける」

でも休憩。


急に楽になる漁。

あっさり捕れる魚。


「文明って、こうやって生まれたんだな」


俺はその日の夕方に食べる分だけを確保し、

満足して拠点――いや、土台だけの家に戻った。


さて、次は火だ。


火の起こし方は知っている。

そのためにファイアースターターも持ってきている。


だが、ここで俺は考えた。


「これ、使えなくなったら終わりじゃないか?」


ゾンビより先に道具ロストで詰む未来が見えた。

なので、自力で火を起こすことにした。


弓きり式。

キコキコとやるやつだ。


木を削り、弓を作り、紐を張る。

見様見真似だが、今度は元ネタが歴史なので信頼度が高い。


キコキコ。

キコキコ。


煙は出る。


「お、来たか?」


来ない。


キコキコ。

腕が痛い。


「これ、ゾンビと戦うよりキツくないか?」


煙は出る。

火種は出ない。


俺は一度、空を見上げた。


「……神様、今ここでゾンビ出すなら、もうちょっと後にして」


 再開。

 キコキコキコキコキコキコキコキコキコキコキコキコキコキコ。

 キコキコキコキコキコキコキコキコキコキコキコキコキコキコ。


 妄想が始まる。

 ここでゾンビが来る。

 俺は火を起こしている。

 「噛まれて火に焼かれ、美味しくいただかれる」

 まてよ、ゾンビって焼肉食べるんか?


「……ダメだ、集中しよう」


さらに続ける。

腕は限界。

心も限界。


その時だった。


小さな、赤い点。


「……え?」


火種だ。


「……うそだろ?」


俺は震える手で、それを慎重に育てる。

息を吹く。

煙が増える。

赤が大きくなる。


そして――火がついた。


「……っ!」


思わず声が詰まった。

涙が出た。


「火……火だ……」


ゾンビはいないが、文明はまだある。

俺は、今、確かに生きている。

そして俺は今、猛烈に感動している!


こうして俺は、火を起こし、

魚の丸焼きを食べ、土台だけの家で夜を迎えた。


ゾンビは今日も来なかった。

だが、火は来た。

魚もうめぇ。


それで今日は、勝ちだ。

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