第4話 問題
伐採は、思っていた以上に過酷だった。
映画だと、チェーンソーを持った瞬間に木は「はいはい」みたいな顔で倒れる。
現実の木は倒れない。
硬い、しぶとい、手が痺れる。
しかも木の無言の圧がすごい。
「……ゾンビより手強くないか?木!この野郎!木!」
俺は一度エンジンを止め、木を見上げた。
ズルい。
切り込みを入れる角度を変える。
倒したい方向を見て、印をつける。
頭の中では「ゾンビ侵入想定ルート」まで重ねている。
この木は、もしゾンビが来たらバリケードになる。
あの木は、倒れたら逃げ道を塞ぐからダメ。
……何のための伐採か、時々分からなくなる。
再びチェーンソーを回す。
ブォォォン、という音が山に響く。
「今ゾンビ来たら終わりだな」
今日も思うが、だからといって音を小さくする方法はない。
ゾンビが音に反応するかどうかはまだ不明だが、俺は反応している。
心臓が。
切り込みが深くなり、木がわずかに軋んだ。
「来るな……来るな……」
何に対して言っているのか分からないまま、俺は後ずさる。
ゾンビじゃない。
木だ。
次の瞬間、
ミシッ、バキッ、ドォン――。
木は、俺の想定とは全然違う方向に倒れた。
「いや、そっちかよ!木!」
叫んだが、誰もいない。
木は俺の逃走ルート予定地を完全に塞いでいた。
これはまずい。
ゾンビが来たら詰む配置だ。
今は来ないけど。
仕方なく、倒れた木をさらに切り分けることにした。
伐採は伐採を呼ぶ。
負の連鎖だ。
枝を落としながら考える。
もし今、ゾンビが一体来たら?
この状況でどうする?
・チェーンソーを振り回す → 危険
・逃げる → 道が塞がっている
・木に登る → さっき諦めた
・車に戻る → ちょっと遠い
「……詰んでないか?」
世紀末を生き抜こうとしている割には選択肢がショボい。
一瞬、冷や汗が出た。
ゾンビが来ていないのに。
結論として、俺は走ることにした。
何も来ていないが、想定訓練として全力ダッシュだ。
走ってみて分かった。
俺、全然走れない。
「ゾンビより先に体力が尽きる……」
息を切らしながら、倒木に寄りかかる。
この時点で、ゾンビが来たら本当に終わりだった。
伐採を再開する。
今度は「ゾンビが来ない前提」で作業することにした。
それが一番安全だと気づいたからだ。
夕方。
切った木はそこそこ集まった。
高床式の材料としては、まだ足りない。
だが一つだけ、確実に分かったことがある。
ゾンビが来る前に、
俺自身のスペックの低さが酷い。
ゾンビはまだ来ないけど。
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