第5話 間取
土台作りに取りかかろうとして、俺は重大な問題に直面した。
「……大きさ、どうする?」
当たり前だが、拠点は広さを決めないと作れない。
今まで俺は、防御だの動線だのゾンビの習性だの、やたら難しいことばかり考えてきたが、床のサイズという超初歩を完全に放置していた。
基準として思い浮かんだのは、実家の俺の部屋だ。
四畳半。
青春と怠惰とゲーム機が詰まった、あの部屋。
「四畳半……まあ、生きてはいけるよな」
だが次の瞬間、脳内で冷静な声がした。
「待てよ。四畳半って、畳四枚と半分だぞ」
声に出して確認する。
「畳……四枚……と……半分……?」
『半分?』
『半分って?縦に半分か?横に半分か?』
いや、にしても急に狭い。
“半分”って言葉がやけに心細い。
ゾンビに噛まれる以前に、精神が削られるサイズだ。
しかも想像してみる。
四畳半の部屋にゾンビが侵入。
逃げ場なし。
『玄関開けたら5秒でゾンビ』
終わり。
「無理だな」
即却下した。
『あ、もうひとつ忘れてた…』
「俺は逃げる」
「ゾンビが追う」
「そこに現れる、素敵な女の子」
「助けて!」
助ける俺、かっこいい
彼女は言う、行くところがないの……
「俺んとこ来ないか?」
「俺は静かにそう答える」
そして始まる
超スーパーラブラブロマンス共同生活を忘れていた。
「……四畳半はないな」
距離が近すぎる。
ゾンビに襲われるより先に俺が死ぬ。
「恋愛経験ゼロの俺が四畳半で二人きり?ヤバイって!ヤバイって!」
じゃあ八畳。
これならどうだ。
俺は地面に枝で四角を描く。
「こんくらいだっけ、一畳って…それが八枚だから…」
おお、広い。
余裕がある。
人生に。
だが、すぐに現実が追いついてくる。
「……これ、全部俺が作るのか?」
床も。
柱も。
屋根も。
八畳分の資材。
八畳分の労力。
ゾンビ一体倒すより、難易度が高そうだ。
それでも妄想は止まらない。
「いや……十畳は欲しいな」
素敵な女の子が増える可能性もある。
ゾンビ映画では仲間が増える。
主に美女が。
「そして俺の奪い合いになるんだ」
俺はさらに四角を広げる。
地面の落書きが、家のサイズになった。
端から端まで歩いてみる。
遠い。
「……これ、拠点じゃなくて普通に家だな」
しかも大工は俺一人。
設計士も俺。
施工管理も俺。
ここでようやく、本当に大事な問題に気づく。
「できんの?」
ゾンビ以前の問題だった。
ゾンビが来たらどうするかを考える前に、
完成前に自分が息絶える未来が見えた。
「……現実を生きよう」
俺は枝で描いた十畳の夢を消し、
八畳も消し、
最終的に一つの答えに辿り着いた。
六畳。
妥協だが、進歩だ。
一人なら十分。
素敵な女の子は……その時考える。
きっとくるんだ、リアルで恋が出来ないのだから
ゾンビの世界に期待するしかないじゃないか。
こうして俺は、ゾンビ対策と妄想と体力の折り合いをつけながら、
まずは崩れない土台を作ることに決めた。
なお、この日の作業成果は、完璧な六畳の地面の落書きだ。
ゾンビは今日も来なかった。
だが、俺の計画は一ミリだけ前進した。
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