第2話 拠点

山の一角を購入することに成功した俺は、まず現実を直視した。


「……山、静かすぎない?」


当然だ。

山だもの。


『いや有名な詩人みたいに言うな。』

と、自分にツッコんでみる。


だがこの静けさはゾンビが来たら気づける。

今のところ来ないけど。


『来るんかな…心配になって来た』


ともあれ、拠点を作る。

ゾンビ対策の基本は三つ。


来ない・入れない・増やさない。


最後の一つは完全に気分だ。

出ます・出します・取らせます。

みたいなものだ。


建物の場所は尾根の途中に決めた。

理由は三つある。


一、見晴らしがいい。

二、かっこいい。

三、なんか強そう。


ゾンビ映画において「なんか強そう」は重要だ。

強そうな拠点は最後まで残る確率が高い。

なぜなら強そうだから。

強そうってことはカッコいいのだ。

カッコいいは正義。


建物は山小屋風にした。

理由は「自然に溶け込むから」だ。

いやカッコイイはどうした。


なお中身は、棚・棚・棚。


『ティナ・ターナー』


返事はないし笑いも起きない。


食料と水と「もしもの時用ともしもの時用」が詰まっている。

もしもはもしもだ、聞かれても困る。


「備蓄は多すぎて困ることはない、ビーチクは2つで充分」


これはゾンビ映画でも、人生でも、たぶん正しい。

問題は、何年分あるのか自分でも把握していないことだ。


窓は小さくした。

覗かれたくないから。

ゾンビはもちろん、人間も鹿もダメだ。

プライバシーは大事だ。

モモンガは許す。


入口は一つだけ。

非常口も一つ。

非常口が非常時に使えるかは、非常時に考える。


周囲には柵を設けた。

トゲトゲは付けなかった。

トゲが刺さったゾンビが叫んだらうるさい気がしたからだ。


『考えて見ろ、朝から晩までウィーウィー言われたら寝られない

 ウィーが許されるのはスタン・ハンセンだけなんだよ。』


完全に想像だが、俺は自分の想像力を信じている。


音対策も万全だ。

ドアは静音。

床も静音。

俺自身も静音で動く練習をした結果、家の中でよく物にぶつかるようになった。


「これ、俺の生活能力落ちてないか?」


一瞬疑問に思ったが、ゾンビ発生時に役立つので問題ない。

俺の通常は犠牲になった。


夜は灯りを抑える。

カーテンは二重。

それでも心配なので、時々懐中電灯を消して真っ暗な中で過ごしてみる。


五分でやめた。

怖いからだ。

ゾンビじゃなくて暗闇が。


最後に、最重要項目。

俺自身のメンタル管理。


ゾンビが来ない状態で山に一人。

これ、普通に精神に来る。


対策として、独り言を許可した。

あと、ゾンビが来た想定で作戦会議もする。

参加者は俺一人だ。


「正面は任せた」

「了解、俺」


結構盛り上がる。


こうして俺は、

ゾンビの気配ゼロ、

緊張感だけ満点の拠点で、

今日も本気で来ないかもしれない世界の終わりに備えている。


なお、今のところ一番の脅威は、

夜中に自分で立てた物音に自分でビビる俺自身だった。


一応言っておくが、拠点は完成していない。

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