第5話 魔法の先生

 その日は魔法の先生が家にやってくる日だった。

 まだかまだかとそわそわして待っていると、誰かが玄関にやってきた音がした。女中がまず相手をして、その人物が応接間へと通される。

 逸る気持ちを抑えて父さんと一緒に応接間へと向かう。


「あ、はじめまして。リザ・エストルムといいます。よろしくお願いします」


 リザ、と名乗った彼女を見て僕は驚かされた。

 藍色で光沢のある短く整った髪、魔法使いらしい体型にフィットした服装、そこから分かる豊満な胸部と臀部。細い眉に、水色に輝く美しい瞳。

 てっきり老齢のじいさんか何かがくると思っていた。こんな美少女がくるなんて。


「よろしく。話には聞いていると思うが、俺はベインコフ。こっちが倅のリベルトだ」

「よ、よろしくお願いします」


 紹介に合わせて慌てて前に出て一礼する。顔を上げるとリザはにっこりと笑っていた。


「わー、かわいー! どんな人かと思ってたけど、こんな可愛い子なら大歓迎ー!」


 リザが僕の手を取る。柔らかい。


「よろしくね、リベルトくん。なんて呼んだらいいかな?」

「あ、えっと、両親はリディと呼びますので、それで」

「うん、わかったよリディ! 私のこともリザお姉さんって呼んでね!」


 朗らかな笑顔を見せてくれる彼女のことを僕は一瞬で好きになった。

 とはいえ、この身体はまだ十歳。相手にはされないだろうから甘える方針でいこう。


「リザさんは今日から住み込みでお前に魔法を教えてくれる。仲良くやるんだぞ」

「住み込みで?」

「ああ。上級の魔法使いになるためにはいくつか試験を突破しなきゃならないんだが、これもそのひとつだ。弟子と一緒に暮らして育てろ、ってな」

「本当は一緒に暮らす必要はなくって、毎日会えればいいんだけど、住んでもいいってベインコフさんから伝えられてたからお言葉に甘えちゃった」


 ほえー、と僕は答える。多分、目が点になっている。

 魔法の師匠が美少女な上に一緒に住むって? 前世で苦労した分が返ってきたかのようだった。


「まずは部屋に案内しよう。その後、さっそく指導を始めてくれ」

「わかりました。また後でね、リディ」

「はい、また後で」


 父さんに連れられていくリザを見送って、僕は自分の教本を取りに行くのだった。



「それじゃあ、早速始めようと思います」

「よろしくお願いします」


 僕の自室でリザによる授業が始まった。

 教習机の前に並べられた椅子にそれぞれで座る。リザは本を片手に持った状態で脚を組んでいた。ブーツと服の間から覗く太ももが眩しい。頑張れば下着が見えそうな気がしないでもない。


「まず魔法にとって一番大事なことを教えましょう」


 リザの得意げな声で意識を戻す。余計なことを考えていたのはバレていないようだった。


「一番大事なのはイメージ。これから作るものをどれだけイメージできるか」

「イメージ」


 リザの言葉を復唱。

 リザは本を持ったまま、片手を宙に掲げる。


「水の精よ、我が呼び声に応えよ。クリエイト・ウォーター」


 女魔法使いの手が魔力の燐光に包まれ、空中に水が生成。即座に球状となって宙に停滞する。

 空中の水は球体に変化するまで落ちることも乱れることもなかった。生成速度もほとんど一瞬。一目見ただけで、自分の魔法とは練度が違うことがわかった。


「この魔法が苦手って予め聞いてたけど、イメージが上手にできてないんじゃないかなって思うんだ」


 リザの手から魔力の燐光が消えると生成された水球も消滅。正しく発現させた魔法は使用者の手によって消失させることができる。


「イメージを上手に、ですか」

「そんなに難しく考えなくても大丈夫。まるっこくなれー、まるっこくなれー、って思うだけでも全然違うから」


 そうなのか、と思い真似をしてみる。


「水の精よ、我が呼び声に応えよ。クリエイト・ウォーター」


 いつも通りの詠唱に、少しばかり頑張ってイメージを足してみる。水が生成された後、いつもよりは少しばかり球形になった後、いつも通りに崩壊して床に水滴が落ちた。


「まあそんなすぐにできることじゃないから、焦らなくていいよ」


 落ち込んでいるように見えたのか、リザが慰めの言葉をくれた。

 やっぱりそう上手くいくものでもないらしい。それでも以前よりは若干マシになったし、希望は持てそうだ。


「ゆっくり、二人で頑張っていこ?」

「はい、頑張ります!」


 美少女の檄は心に響く。やる気満々の声で僕は答えた。

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