第2話 異世界転生?

 最後に見た光景は真っ暗な地面だった気がする。

 次の瞬間には、明るい部屋にいた。


 俺はどこかに寝かされているようだった。

 どうやら死ぬのには失敗したらしい。何をやっても失敗ばかりだったが、まさか自殺さえ失敗するとは思っていなかった。正直、ショックだった。

 周りを見るために顔を上げようとするも、上がらない。後遺症でも患ったのかもしれない。ため息をつこうとして、これも出ない。


「おい、リディが起きたぞ」


 聞き慣れない男の声がした。巨大な顔面が目の前に現れ、驚く。

 これまた巨大な手が二つ、振り上がり、俺の両腕の下に差し込まれる。そのまま持ち上げられて、巨大な顔面が俺の全身に頬ずりをしてくる。


 何かが、おかしい。


「あら、なんだか不機嫌そうじゃない?」


 聞き慣れない声がもうひとつ。女性のものだ。顔を動かそうとして、視線が一気に動く。首の筋肉がなくなったみたいに、頭を支えられない。どうなってるんだ。


「あーほらほら。ちゃんと頭を支えてあげないと危ないわよ」

「そうだったな、悪かった」


 慌てた二人の声。大きな手が俺の後頭部にきて支えとなる。もう一度顔を動かしてみると視界の端に女性の姿があった。


「どうしたのリディ、こっち見て?」

「何か言いたいことがあるのかもしれないなぁ」


 二人が呑気な声で話してる間、俺の頭の中は疑問符で埋め尽くされていた。


 結局のところ、俺の身体が赤ん坊になっているということを、認めざるを得なかった。

 俺のことを構ってくる二人は、会話から察するに両親らしい。少なくとも自分たちのことをそう思っているようだった。

 何故、自分が赤ん坊になっているのかさっぱり分からない。しかも両親も違うと来ている。


 異変はそれだけではなかった。部屋にある本などに書いてある文字が、全く知らない文字だった。世界の言語全てを知っているわけではないが、明らかに異質な文字だった。

 両親(?)の風貌も見たことがない。衣服にしてもそうだ。というより、

 つまり、俺はどうやら見知らぬ世界で赤ん坊になっているようだった。


 意味がわからないが、他に結論しようがなかった。

 正直いえばどうでもよかった。死のうとしたのだから何がどうなろうと知ったことではない。もうどうにでもなれ、という感じだ。


 そんな倦怠感に浸っていたが、問題が発生した。

 腹が減ってきたのだ。異世界だろうが転生だろうが生きている限り腹は減る。考えてみれば当たり前のことだった。

 困った。伝えるのはいい。問題はどうやって伝えるかだ。


「あー」


 情けない声が口から出た。頭の中では、丁寧に、食事をいただけませんか、と発音するつもりだったのに。

 喉も舌も、全く思うように動いてくれない。まるで使い慣れない部位を使うときみたいに。


「おー、どうしたんだー?」


 父親が笑顔で応対してくれる。何とか助けを求めてみよう。


「うー、あー」

「なんか言ってるなこいつ」

「お父さんの抱っこじゃ嫌になってきたのかしら」


 母親が抱きかかえるのを交代。違う。

 そのまま、あー、だの、うー、だのを何度か繰り返した結果、やっと空腹だというのが伝わったのか、母親から乳をもらうことに成功した。

 味覚も全然違っているのかなんなのか、これがやたらと美味く感じた。


 こうして転生初日は食事にありつくことから始まった。

 前世で死のうとした以上、ここがどこであれ、生きていたいとはあまり思わなかった。

 そんな考えは、次第に変わっていくこととなる。

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