第2話 いつまでも始まらない物語について
ページがめくられた。
「で、おじいちゃーん……」
子どもたちはほぼ揃って声を伸ばした。
「いつになったら世界の話になるの? ほんとの物語は?」
二人は並んで、クッションと絨毯の上に座っていた。
不満げに顔をしかめ、
ある子は頬を膨らませ、
別の子は大げさにそっぽを向く――
それでも、耳だけはしっかりとこちらを向けている。
クヴィジは上から二人を見下ろし、
つい笑みをこぼしてしまった。
「我慢だ」
柔らかく、諭すように言う。
「物語はどこにも逃げない。
いつだって、ちゃんと待っている」
彼は再びパイプを取った。
ゆっくりと。急がず。
まるでわざと時間を引き延ばすように――
それが子どもたちを苛立たせ、同時に引きつけることを知りながら。
深く吸い込む。
煙がゆっくりと立ち上り、
天井の下を気ままに漂い……
クヴィジの、まだ微笑みを残した視線は、遠くへと飛んだ。
絨毯も、子どもも、古い本もない場所へ。
二十年前。
目の前に広がるのは、巨大で、騒々しく、
そして確かに生きている街だった。
路地はあらゆる種族で埋め尽くされ、
商人たちは値段を叫び、
鍛冶屋たちは鋼について言い争い、
冒険者たちはあちこちを歩き回り、
品を見定め、買い、笑い、罵り合っていた。
世界は、沸いていた。
若きクヴィジは、その流れに逆らって歩いていた。
周囲をぐるりと見回し、
何一つ見逃すまいとする。
顔。
看板。
匂い。
会話。
すべてを一度に記憶へ刻みつけるかのように。
不意に、肩がむずむずと痒くなった。
立ち止まり、下を見る。
マントと布の鎧に、
まだ乾ききらない暗い染みが残っていた。
血だ。
「……またか」
息を吐く。
「洗濯屋だな……また金が飛ぶ」
小さくため息をつき、彼は歩みを進めた。
いつものように、冒険者ギルドへ。
報告のために。
「おおおっ!」
突然、子どもたちが割り込んできた。
「どこに行くの? 何を提出するの?!」
クヴィジは瞬きをして現実に戻り、静かに笑った。
「我慢だよ、アルド」
五歳の男の子を見る。
その瞳は、好奇心で輝いていた。
モンスター。
戦い。
戦利品。
どうやら父親が、余計な話を吹き込んだらしい。
「……本当に、お前たちは」
微笑みながら呟く。
「昔の親たちに、そっくりだな」
彼は話を続けた。
「あの頃、私は持ち歩いていたんだ……」
一瞬、考えてから言う。
「元素ウサギを、三匹ほど」
「ウサギ?!」
子どもたちが目を丸くする。
「普通のじゃない」
彼はすぐに訂正した。
「小さい獣だ。見た目は可愛らしい。
だが体内に、不安定な元素の核を持っている」
「脅せば爆発し、
怒らせれば、周囲を焼き尽くす」
食用には向かない。
だが、提出用にはちょうどいい。
やがて、冒険者ギルドの建物が前方に現れた。
街の他の建築とは明らかに異なり、
混沌としていて、奇妙で、
まるで気まぐれに組み立てられたかのようだ。
「建築家は、明らかに無秩序を愛していた」
クヴィジは言う。
「だが、手抜きはしなかった」
扉は巨大で、建物に対して不釣り合いなほど大きく、
金属の縁取りと、何度も改修された跡が残っている。
それでいて、驚くほど頑丈だった。
彼は両手を押し当てた。
扉が、開く。
顔にぶつかるのは、温かく、むっとする空気――
グロッグと汗と煙、
そして何か酸っぱいものが混じった匂い。
中は、いつもの大混乱だった。
誰かが依頼板の前で眉をひそめ、独り言を言い、
誰かが成功の帰還を大声で祝い、
そして誰かが――またしても――
受付嬢に言い寄ろうとして……
またしても、頭を叩かれていた。
「ハハハハハ!」
子どもたちが爆笑する。
クヴィジは目を回し、
ふと気づいた。
自分も昔、同じように語り手を邪魔していたことを。
彼は、にやりと笑った。
「よし。今日はここまでだ」
パイプの煙が、ゆっくりと消えていく。
だが物語は――
ようやく、始まってしまったばかりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます