第12話 お前の罪は、俺たちが裁く

 瞬間、字雲と戦った時よりも強く激しい炎が俺の体を包む。

 湧き上がる力と燃え上がる怒りを全身に漲らせながら魔人へと変身した俺は、深く息を吐くと共に丸子へと言った。


「丸子、お前の罪はリセットなんてされてねえ。誰かの家族を奪った罪も、奪おうとした罪も、決して消えることはない」


 元の世界で丸子に母親を殺された子供たちの嘆きの声を俺は聞いた。

 それはニュースで流れただけのテレビ越しの声だったが、そこに込められた悲しみに胸を抉られたことを覚えている。


 そして今、俺はこの世界で丸子に母親を攫われた子供たちの涙を見た。

 母親がいなくなったと泣きじゃくり、連れ去られた母を必死に呼びながら泣き叫ぶその姿を思い返すだけで、風花を失った日の悲しみが蘇ってくる。


 それだけの悲しみを丸子は生んだ。その罪を、無かったことになんてさせはしない。


「丸子佳祐……身勝手な欲望のために子供たちから母親を奪ったお前の罪は、俺たちが裁く!」


『おっ、いいねぇ! 俺ってところが最高に気に入ったぜ、相棒!』


 俺の中で嬉しそうに吠えたアモンの昂ぶりが、そのまま炎になる。

 燃える炎を拳に纏った俺は、大きく腕を振りかぶった後で地面を思い切り殴りつけた。


「ひぎっ!? ぎゃあああっ!」


 地面を伝っていった炎が丸子の体に燃え移り、その熱さを味わった奴が悲鳴を上げる。

 同時に思わず飛び出してきた丸子のデカい顔に蹴りを叩き込めば、あいつは駐車場を転がりながらその痛みに悶え、呻きを漏らした。


「あづいぃ、いだいぃ……! ま、ママにだって殴られたことないのにぃ……!」


『丸子! 接近戦は不利だ! あいつを近付けさせるな!』


 いい歳した肥満体の男が子供のように泣きべそをかきながら恨み言をこぼす姿はある意味ホラーだが、身震いしている暇はない。

 自分と一体化しているゲネガとかいう悪魔からアドバイスをもらった丸子は、体の大半を占めている巨大な口を開くと、大声で叫んだ。


「死ねっ! 死ねっ! 死ねええええっ!」


「ちっ……!」


 地下駐車場内の空気を震わせる咆哮と共に、丸子の口から何かが飛び出す。

 猛スピードで飛んできたのはドラム缶で、回避が間に合わなかった俺は咄嗟に防御の姿勢を取ってダメージを軽減するが、丸子は次々と口から様々な物を吐き出しての攻撃を仕掛けてくる。


『あれがゲネガの能力だ! 口の中に異空間を作り出して、食べた物を自由自在に出し入れできる!』


「だからってドラム缶だのブロックだの食ってんじゃねえよ! 悪食にも程があるだろうが!」


 母親を誘拐した手口から予想はできていたが、ここまで厄介な能力だとは思わなかった。

 ドラム缶に石のブロック、ガードレールに土嚢……と、重量と硬度があるものを吐き出しての丸子の遠距離攻撃はまだまだ止む気配がない。


 その全てを回避し、時に防御して凌ぐ俺であったが、想像以上の悪食&大食いっぷりを発揮している丸子のせいで地下駐車場の被害は拡大し続けていた。

 このままでは気絶している母親たちが危ない……と判断した俺は、一か八かの賭けに出る覚悟を決めると共に心の中でアモンへと問いかける。


「アモン、俺は一気にあいつの懐に飛び込むべきだと思うんだが、お前の意見はどうだ?」


『相棒と同じ意見だ! だが、ゲネガの野郎は間違いなく隠し玉を用意してる。あいつはそういう奴だ』


「それについての対抗策はあるか?」


『当然! 俺は炎と狼の悪魔、アモン様だぜ? あんなサメに遅れは取らねえよ!』


 それが聞ければ十分だとばかりに、俺は両脚に力を込める。

 飛んできたブロック、金属塊、自転車を弾いたところで、準備ができたであろうアモンが大声で叫んだ。


『今だ! 行け、相棒っ!』


 その声に従って溜めていた力を解放した俺は、地面を蹴って最短距離で丸子へと突撃する。

 一度の跳躍で一気に距離を詰める中、俺の動きを予測していたであろうゲネガの得意気な叫びが響いた。


『馬鹿がっ! そう来ると思ってたぜ!』


「じねえええええええええっ!」


 ゲネガと共に叫んだ丸子の口が、今まで以上に大きく開く。

 その中から飛び出してきた車を目にした俺は、思わず舌打ちを鳴らしてしまった。


『もう避けられねえだろ!? 正面衝突してぐちゃぐちゃになっちまいな!』


「切り札を最後まで隠してた僕たちの勝ちだぁっ!」


 勝利を確信し、歓喜の叫びを上げる丸子とゲネガ。

 しかし、アモンは一切余裕を崩すことなくそんな一人と一体へと言う。


『ああ、そうだな。切り札を最後まで取っておいた方が勝つ……そこのマザコンの言う通りだよ』


「は……?」


 とっておきがあるのは丸子たちだけではない。俺たちもそうだ。

 アモンが持つ能力の内、狼の俊敏性を活かして敵に急接近した俺たちだが、こいつの能力はそれだけではない。

 それを示すように俺の両腕に集まった炎は拳へと徐々に凝縮されていき、より強い炎へと進化を果たしていた。

 

「はぁぁぁぁぁっ!」


 握り締めた拳を、炎と共に向かってくる車に叩き込む。

 ひしゃげ、歪んだボンネットがそのまま潰れ、炎に包まれた車が粉々に粉砕される中、丸子たちの隠し玉を打ち破った俺は突進の勢いのままにもう片方の拳を丸子の鼻っ面へと打ち込んでやった。


魔狼炎爪ディアボロス・ストライク!!』


「ごぼぎゅうううううううっ!?」


 俺の右拳で燃え盛っていた炎が、パンチを叩き込むと同時に螺旋を描く。

 右腕を振り抜く動きに合わせてドリルのように丸子の体へと深く打ち込まれていった炎は奴の体を貫通し、衝撃と熱によって致命的な一撃となった。


「あがっ! がっ! があっ! ぐあああああっ!」


『そ、そんな、馬鹿な――っ!?』


 ばくばくと大きな口を開閉し、短い腕をもがくように振り回した丸子がそのまま力なく後ろへと倒れ込む。

 ゲネガが言葉を紡ぎ終わるよりも早くに大爆発を起こした丸子は、魔人から元の人間の姿に戻りながらも炎に身を焼かれていた。


「あづいいいっ! あづいよ、ママぁぁっ! 助けてっ! ママぁああああっ!」


「お前はそうやって泣く子供たちから母親を奪ったんだ。その罪の報いを受けながら、地獄に堕ちろ」


「ぞん、なぁ……ま、ママぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


 体を炎に包まれ、最期まで母親に助けを求める丸子にそう吐き捨てる。

 逃れられない己の死と、それを迎えるまでに味わい続ける地獄の苦しみに絶望した丸子は断末魔の叫びを上げると、そのまま倒れ伏し動かなくなった。


 悪魔の力で作り出された炎は丸子の体を一瞬の内に焼き尽くし、骨も灰すらも残さずに消滅させる。

 炎が消え、燃えカスだけが残った地面を見つめた俺は、そこに転がる悪魔の種を拾い上げると呟いた。


「終わったな。あとはあのゲネガって悪魔だが……」


『契約してた人間があんな死に方をしたんだ、あいつだってただじゃ済まないさ。あとはその種をぶっ壊せばこの一件は無事に解決だぜ、相棒!』


「相棒って言うな。あと、なんだよ魔狼炎爪って? 勝手に変な名前付けんなよ」


 戦いの最中はスルーしたが、改めて振り返った際にアモンが勝手に叫んでいた技名についてツッコミを入れる。

 そうしながら拳に力を込め、悪魔の種を破壊しようとしたのだが……その瞬間、その種から謎の声が響いた。


「へえ、やるね。流石は特級犯罪者と上級悪魔のコンビってところかな?」

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