第1部 第2話 ひとりと一羽
川本陽香(かわもとほのか)は、一羽のインコ(名前はムムといいオスである)と都内で一人暮らしをしている。
こぢんまりとした1Kだが、メゾネットタイプの賃貸で南向き。築年数はそこそこで日当たりは良好。飾っている小さな観葉植物が、レースカーテン越しにきらきらと光合成をして息をしている。この家は陽香にとっての唯一の安全基地である。
彼女は五月に二十四歳を迎えた。有難いことに同僚や友人から誕生日を祝われたため、「二十四歳」という文字列が部屋の中にのいたるところにちりばめられていた。
スマホに送られてくるバースデーギフトや、かわいらしいコップやギフトカード。
いたるところに「二十四歳」が書かれている。
その中の一つにアロマディフューザーがあるのだが、彼女はインコと暮らしているためそれを使うことができない。
どうもアロマは、インコの体内で分解されずに堆積されてしまうらしい。しかしこんなことはペットを飼わないとわからない知識なので、これをプレゼントしてくれた友人に何ら罪はない。ただ、大変申し訳ないがこのブツはフリマアプリ行きが確定している。そんな危険物が中に入っていることは露知らず、インコのムムはディフューザーが入ったギフト用紙袋の興味津々で、小さいくちばしを擦り付けたり噛んでみたりし、挙句の果てには袋の中に侵入しようとしていた。
「紙袋無しでの出品か」
彼女はそう言葉を吐き、袋の中身を取り出してあげてムムの遊び場として提供してやった。王様気分のムムは待ってました!と言わんばかりに袋の中に入り、ガサゴソと音を立てて中で遊びはじめる。時折紙袋が生きているみたいに動いていた。
自由でわがままとふてぶてしさを兼ねそなえた我が愛鳥を見ながら、陽香は仕事へ行く準備を始める。スキンケアはパックをしてそこそこに。今風の韓国アイドルのようなつやつやとした暗めの茶色で長い髪。32mmのコテでゆるくウェーブをかけていく。
化粧品もネットでセール期間中に購入した韓国ブランドのかわいくキラキラとしたものが中心だ。まつげをどれだけ上げられるか、束感を作ってくりくりおめめにできるかに勝負がかかっている。涙袋もマストで強調だ。チークは範囲を広めに入れて、中顔面を短縮していく。とっても今どきの二十代女性ができあがる。これでよい。
袋遊びをしていたムムが、仕事に行く準備をしている彼女に気づき、足元までテチテチと歩き様子を伺いに来た。
そんな愛らしい特別な存在に適度に構いつつ、冷凍ご飯をチンしてテキトーに朝ご飯を食べる。
ムムはごはんの匂いを嗅ぎにやってきた。「あなたのごはんはそこにありますー」と、ケージにセットしてあるエサ箱を指さして諭すように言う。これも毎日のルーティンだ。
彼女は二十四歳現在、派遣社員としていわゆる事務(といっても幅広い業務だが)として職に就いている。
本日もルーティンをこなし、行かないでとケージの中で鳴いているムムにご挨拶をして、玄関の力ギをかけ職場に向かう。七時四十五分の電車に乗らなければならないのだ。
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