救え、汝は陽とならん
塚田香月
第1部 いち抜けた
第1話 サンタさんへ
「サンタさんへ あたたかい幸せをビンにつめていってください」
幸せってオレンジ色かなぁ。
あたたかいもの=暖色という安直な考えがなんとも小学二年生らしく、愛らしく、いじらしい。
小学二年生の彼女は、当時流行っていたゲーム機を頼むでもなく、プリンセスになりきれるお姫様ドレスセットでもなく、お子様向けのお化粧セットでもなく、紛れもなく「幸せ」を、サンタさんに頼んだのだ。
瓶に詰められたあたたかい幸せがプレゼントとして届けば、彼女が直面している事態は好転すると、まったく現実的ではないファンタジーな望みを見出していた。
が、その手紙を自室の学習机で書き終わった後、彼女はそれをグシヤグシャに丸め、ご丁寧に三枚程度のティッシュでくるみゴミ箱の奥のほうに押し込んだ。
これを誰かに見られたら家族はどうなってしまうのかと、考えただけで背筋がぶるぶると震える感じを覚えた。
「サンタさんへ おいでよ動物のカセットが欲しいです。」
当時流行っていた人気のゲームである。彼女はこのようにもう一度サンタさんへの手紙を書きなおし、父親を起こさぬように彼の枕元にこっそりと手紙を置きに行った。
父は大音量のいびきをかきながら、口を半開きにして寝ている。
寝室は起きた時に感じる独特の人間の呼気の臭いが充満している。
公務員の彼は朝が早いのだ。とっくのとうに夢の中で気持ちよさそうにお休み中だ。
なぜサンタさんへの手紙を父に渡すのか。それはこの家の伝統で、「父親だけがサンタさんと電話ができ手紙も渡すことができる」ということが由来している。
彼女はそれを疑うことなく信じ切っていて、毎年クリスマスの時期になると父親にサンタさん宛の手紙を健気に渡していたのだ。
彼女が小学二年生の時の、ある寒い冬の夜のできごとであった。
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