第3話 部屋を見れば、だいたい分かる

「それでは本日の企画、始めていきましょう!」


 スタジオに拍手が広がる。


「今日はFlor de Leónの皆さんのお部屋を大公開です!」


 カメラが並んだメンバーを一人ずつ拾う。


「番組は生放送ですが、お部屋の映像は事前に撮影したVTRになります!」


 司会が軽く間を取る。


「まず最初はこの人!」


 画面が切り替わった。



——————————



「はーい、ミウでーす♡」


 甘い声。

 あざとさたっぷりの笑顔。

 カメラに向かって小さく手を振る。


「今日はあたしのお部屋、ちょっとだけ見せちゃうよ〜♡」


 部屋のドアが開く。


「こんな感じ♡」


 ミウが一歩横にずれる。

 甘い色合いで統一された部屋が映った。


「可愛いお部屋ですね」


 スタッフの声が控えめに入る。


「ありがと〜♡ ゴチャつくの嫌だから、色は絞ってるの」


 ――画面の端に、ポップな文字が弾ける。

『ミウのこだわり♡』


 カメラが棚に寄る。

 ぬいぐるみや小物が、間隔を揃えて並んでいる。


「この辺はお気に入り?」


「うん♡ バッチリ映える配置にしてるよ♡」


 ミウが指先で軽く示す。


「写真撮っても、どこ切り取られても大丈夫なようにね♡」


 カメラが机へ移動する。

 コスメとアクセサリーが整列している。


「多いですね」


「必要な分だけ並べてるよ〜♡」


 クローゼットが開く。

 黒を基調に、重たい色の服が隙間なく並んでいる。

 レースとリボンが多いのに、可愛いより先に強さが来る。


「服も結構ありますね」


「うん、お仕事用と、普段着用♡」


 服を持ち上げた瞬間、

 画面下に小さく文字が重なった。

『コーデ紹介中』


 一枚引き出して軽く揺らす。


「これは、ちょっと大人っぽい感じ」


 別の服に手を移す。


「こっちは可愛い系♡」


 スタッフが、突っ込んだ質問をする。


「誰かを意識してたり?」


「え〜?」


 ミウが目を細めて首を傾げる。


「ヨシノさま、こういうの似合うって言ってくれそうだなって♡」


 ヨシノの名前が出たところで、

 一拍遅れて、装飾付きの文字が添えられる。


『ミウ×ヨシノ?』


 クルッと回って向きを変えた。


「最後はここ♡」


 全身鏡の前で立ち止まる。


「ここで毎日チェックしてるの」


「どんなチェック?」


 声のトーンが、わずかに落ちた。


「ちゃんと“ミウ”かどうか」


 カメラに視線を戻す。


「じゃあ、こんな感じでーす♡」


 ミウが手を振る。


「ミウの部屋でした〜♡」


 画面が暗転する。



——————————



「いや〜、さすがミウちゃんですね」

 司会が笑いながらまとめる。


「でしょ〜?」

 胸を張るミウ。


「画角、計算するの大変だったかい?」

 ヒカルが半笑いで突っ込んだ。


「盛れてたでしょ?」

 ミウが即座に返す。


「でも、すごく綺麗に整ってたね」

 ユイが素直に褒める。


「清潔感大事だしね〜?」

 満足そうに頷くミウ。


「可愛らしいお部屋でしたわ」

 ヨシノが穏やかに微笑む。


「ヨシノさまならいつでも来てね♡」

 ミウが身を乗り出す。


「……はは」

 ヒカルは短く笑った。


「……」

レオナは何も言わない。

椅子に深く座り直しただけだった。


「では次のお部屋、行ってみましょう!」


 司会がテンポよく切る。


「続いてはこちら!」


 画面が切り替わった。



——————————



「え、あ……ユイです」


 少し硬い声。

 カメラの前で、小さく手を振る。


「今日は、私のお部屋を……」


 部屋のドアが開く。


「……こんな感じです」


 ユイが一歩、横にずれる。

 落ち着いた色合いの部屋が映った。


「綺麗に片付いてますね」


 スタッフの声が控えめに入る。


「いえ……普通です」


 カメラが部屋の隅に寄る。

 棚の上、小さな水槽。


 ――画面の端に、静かな文字が出る。

『アクアリウム』


「これは……?」


 水の中で、小さな魚が静かに泳ぐ。


「気づいたら、置いてました」


 泡の音が、かすかに響く。


「お世話、大変じゃないですか?」


「……慣れたら、大丈夫です」


 カメラがベッド脇に移る。

 落ち着いた部屋の中で、そこだけ少し浮いたぬいぐるみ達。


 ――画面の下に、小さな文字が出る。

『ふわふわぬいぐるみ』


「あ、そこは……」


 ユイが慌てて手を出す。


「お姉ちゃんがくれたやつです」


 少し早口。

 目線が泳ぐ。


 クローゼットが開く。

 ベーシックな服の中に、可愛らしい服が混じっている。


 ――一拍遅れて、控えめな文字。

『姉からの贈り物』


「これも……お姉ちゃんが」


 一瞬、間が空く。


「勝手に、増えます」


 カメラが引く。

 部屋の中央に立つユイ。


 視線の置き場に迷いながら、立ち尽くす。


「……こんな感じです」


 小さく会釈する。


「ユイの部屋でした」


 画面が暗転する。



——————————



「いや〜、癒されるお部屋でしたね」

 司会がまとめる。


「ユイみたいで、安心する部屋だったね」

 ヒカルが笑う。


「……あまり語れる部分がなくて」

 ユイが小さく返す。


「ぬいぐるみもお洋服も、可愛かったじゃん」

 ミウがニヤッとする。


「ミウちゃん、言わないで」

 ユイが即座に返した。


「愛の感じられるお部屋でしたわ」

 ヨシノが頷く。


「ありがとうございます」

 ユイが照れながら、素直に頭を下げる。


「……」

 レオナは背もたれに頭を預けたまま、目を瞬いた。


「続いてはこちら!」


 画面が切り替わった。



——————————



「ごきげんよう。ヨシノですわ」


 柔らかい声。

 カメラに向かって、にこやかに手を振る。


「本日は、こちらをご覧くださいませ」


 部屋のドアが開く。


「どうぞお入りになって」


 ヨシノが一歩、横にずれる。


 天井の高い、広々とした部屋が映る。

 光がよく入り、空間に余裕がある。


「わあ……」


 スタッフの声が思わず漏れる。


 ――画面の端に、大きめの文字が出る。

『まるでホテル』


 上質な家具。

 配置は整っているが、冷たさはない。


「広いですね」


「ええ。伸びをすると、とても気持ちがいいですわ」


 ヨシノは軽く腕を広げる。


 カメラが壁際へ寄る。


 一面に並んだ棚。

 ぎっしりと詰まったアイドルグッズ。


 ――少し遅れて、文字が出る。

『宝の山』


「……すごい量ですね」


「気づいたら、増えておりましたわ」


 頬に手をあて、微笑みながら続ける。


「グッズが並んでいるのを見ると、幸せな気持ちになりますの」


 カメラが別の棚へ移る。

 同じグッズが、色違いで揃っている。


「全色揃えてるんですか?」


「ええ」


 あっさりと頷く。


「並べると、綺麗ですもの」


 カメラがテーブルを映す。

 広い天板の端に、今日使ったアクセサリーだけがある。


「物は多いですが」


 ヨシノは少し首を傾げる。


「散らかっているのは、あまり好きではありませんの」


 カメラが引く。

 部屋全体が、もう一度映る。


 ヨシノは中央に立ち、楽しそうに周囲を見回す。


「ここは」


 一拍。


「好きなものに囲まれて、安心できる場所ですわ」


 にこっと笑う。


「以上になります」


 軽く、丁寧に会釈する。


「ヨシノの部屋でしたわ」


 画面が暗転する。



——————————



「いや〜……これは別格ですね」

 司会が思わず声を落とした。


「すごく広い部屋だったね」

 ヒカルが呆れたように笑う。


「そうでしょうか?」

 ヨシノは頬に手を当て、首を傾げる。


「わたくし、普段からこのくらいの広さなので……」


「いやいや、普通じゃないから」

 司会が即座に拾う。


「グッズの量もすごかったね」

 ユイが少し目を丸くする。


「好きなものがたくさんあると、楽しくなりますわ」

 ヨシノは照れる様子もなく、穏やかに言った。


「ヨシノさまの“好き”って、なんか綺麗だよね〜♡まっすぐで隠さなくて♡」

 ミウが身を乗り出す。


「まあ」

 ヨシノは小さく笑う。


「好きだと思う気持ちは、隠すものではありませんもの」


「……強いなあ」

 ヒカルが、冗談めかして息を吐いた。


「……」

 レオナは一度だけ瞬きをして、また目を閉じた。


「さてさて!」

 司会が空気を切り替える。


「次のお部屋、行ってみましょう!」


 画面が切り替わった。



——————————



「やあ、ヒカルだよ」


 少し作った声。

 前髪を指で払って、きっちり角度を決める。


「今日は、ボクの部屋を紹介しよう」


 部屋のドアが開く。


「どうぞ」


 ヒカルが一歩横にずれる。


 清潔な色合いでまとめられた部屋。

 白を基調に、装飾は最小限。

 整えられたベッド。

 壁際のチェスト。

 観葉植物が一鉢。


「……おお」


 スタッフの小さな声。


 ――画面の端に、控えめな文字。

『王子様のお部屋』


 ヒカルは胸を張る。


「生活感は、なるべく出さない主義でね」


 整った画角。

 無駄なものは映らない。


 全身鏡の前で、ヒカルが立ち止まる。


「ここで身だしなみを整える」


 そう言って、軽く微笑む。


 鏡に、ヒカルと部屋が映る。

 反対側の壁が、ほんの一瞬。


「以上だ」


 ヒカルは満足そうに頷いた。


「ヒカルの部屋でした」


 画面が暗転する。



——————————



「――あれ?」


 司会が、眉を寄せ。

 顎を摩りながら言った。


「さっき、何か映ってなかった?」


 ヒカルが、反射的に首を傾げる。


「え?」


「いや、鏡が映ったとき」


 司会は、すでにモニターを見ている。


「反対側、ちょっと……」


 スタッフ席の方を見る。


「巻き戻せる?」


 一瞬の沈黙。


「……いけます!」


「じゃ、ちょっとだけ戻そう」


 VTRが巻き戻される。

 全身鏡の場面で停止。


「ここ」


 司会が即座に指を差す。


「拡大」


 ズーム。


 鏡の中に映り込んでいたものが、はっきりする。


 反対側の壁。

 そこに貼られた、色とりどりのクレヨン画。


『おねえちゃん

 いつもありがとう』


 歪んだ文字。

 幼い線。

 ――似顔絵だ。


 その下。

 付箋だらけのレシピ本。

 角の折れたページ。


 さらに端。

 椅子の背に掛けられた、縫いかけの手提げ鞄。


「……」


 一瞬、スタジオが静まる。


 次の瞬間。


「ちょっと待って待って待って!」


 司会が吹き出した。


「王子様の裏側、全部映ってる!」


 客席から笑い声が上がる。


「これ、気づいてました?」

 司会がヒカルを見る。


「え、あ……」


 ヒカルの顔が、みるみる赤くなる。


「い、いや……」


 言葉が詰まる。

 前髪に手が伸びる。

 姿勢が一瞬、崩れる。


「……」


 そこで、ヨシノが穏やかに微笑んだ。


「目元が、とても素敵に描かれておりますわね」


 その一言で。

 空気が、ふっと和らぐ。


 ヒカルは一瞬だけ固まり、

 それから、力が抜けたように笑った。


「……さすが、ボクの家族だろう?」


 胸を張る。

 少し照れたまま。


「宝物なんだ」


 ミウは、珍しく茶化そうとしない。

 ただ、画面を見ている。


 ユイは、微笑ましそうに笑っていた。


「いや〜」

 司会がまとめる。

「これはこれで、最高だね」


 スタジオに、微笑ましさが混じった笑いが広がった。


「……」

 レオナは、背もたれに頭を預けたまま、目を閉じていた。


寝ている。


「次のお部屋、どうぞ!」


 画面が切り替わった。



——————————



「……戌井レオナ」


 短く名乗る。

 ――名乗ったあと、無言。


 間が空く。


 スタッフが声をかける。

「じゃあ、お部屋見せて貰いますね」


 赤字で装飾付きの文字が添えられる。

『あまりに無口で進行できないのでスタッフが主導します』


 部屋のドアが開く。


 生活感のある部屋。

 女の子らしい飾り気はない。


 壁に、胴着が掛かっている。

 帯は黒。


 その隣にも、使い込まれたジャージ。


 スタッフが戸惑いながら訊ねる。

「えっ、この胴着は?」


「……空手」


 床の隅には、腹筋ローラーと、持ち上げるのを躊躇うサイズの鉄アレイも転がっていた。


 スタッフが、画面の外で小さく笑う。


「……女子の部屋、だよね?」


 棚の上には、古い麦わら帽子。

 よく見ると動物園のロゴが記載されていた。


 ベッドの側、ローテーブルの前。

 色違いのクッションが二つ並んでいる。


「ふたつあるクッションは来客用?」


「……」


 一瞬、止まる。


「さ……」


 言いかけて、止めた。


「……おねえさんの」


 スタッフが反応する。


「お姉さん?」


「……隣に住んでる」


 それ以上言葉が続かない。


 カメラが移動する。


 大量のアルバム。

 すぐ手に取れる位置に積まれている。


「アルバム? 多いね。見てもいい?」


「うん」


 アルバムが開かれる。

 幼いレオナ。

 隣にいつもいる少女。

 レオナが大きくなる毎に、

 横にいる少女も成長していく。


 ――画面の端に、注意書きが表示される。

『※一般の方のプライバシー保護のため、顔にはモザイク処理を施しています』


 めくっても、めくっても。


 ――さらに小さく、追記の文字。

『モザイク多め』


 スタッフが聞く。


「えっと、家族?」


「……違うけど似てる、ずっと一緒」


 カメラが本棚に移る。


 本棚の一角。

 そこだけ、同じ作家の本がまとめて差してある。

 単行本と文庫。

 帯違い。

 どのタイトルも、最低でも二冊ずつ揃っていた。


 それ以外の棚は、

 参考書と図鑑、専門書ばかりだった。


 ――画面の端に、控えめなテロップ。

『※権利の都合上、書名・著者名は判別できないよう加工しています』


 スタッフが聞く。


「これ、好きな作家さん?」


 レオナは少し考えた後、答えた。


「……うん、好き」


 それだけ。


 部屋全体が映る。


「終わり」


 軽く会釈。


 画面が暗転する。



——————————



「ちょっと待って」


 司会が、モニターから目を離さずに言った。


 レオナは、背もたれに頭を預けたまま動かない。

 目は閉じたまま、呼吸も深い。


「……正直さ」


 司会は、笑いを含ませた声で続ける。


「他の子は“部屋を見た”で終わるんだけど」


 もう一度、モニターを見る。


「番組的に言うと、レオナちゃんのとこだけ情報量が多い」


「……くぅ」


 小さな寝息。


「……あれ?」


 スタジオがざわつく。


「ちょっと待って」

 司会が身を乗り出す。

「え、寝てる?」


 ヒカルが横から覗き込む。

「……寝てない?」


「寝てるね」

 ミウが即答した。


「ほんとに?」

 司会が半笑いになる。


「起こそう。時間押してる」


 司会が肩に軽く触れる。


「戌井さん」


 反応はない。


「レオナちゃん」


「……ん」


 半分だけ目が開く。

 視線が宙を泳ぎ、数秒止まる。


「生放送」

 司会が短く言った。


 一瞬の間。


 次の瞬間、レオナは身体を起こした。

 背筋を正し、椅子に座り直す。


「……すみません」


 寝起きで、少し掠れた声。


「いやいや」

 司会は手を振る。

「それよりさ」


 モニターを指す。


「さっきのVTR」


 間を置く。


「アルバム、すごく多かったよね」


「うん」


「しかも、ずっと同じ人が写ってた」


 少しだけ前のめりになる。


「視聴者、気になると思うんだけど」


 一拍。


「その人って、“お隣のお姉さん”?」


「うん」


 即答。


「おばさんが撮ってくれた」


「おばさん?」


「おねえさんのお母さん」


「あー……」


 司会が納得したように頷く。


「じゃあ、子どもの頃から?」


「小学校に上がる前から」


「家族ではないんだよね?」


「パパがお仕事の間、預けられてた」


「なるほど」


 司会は一度、話を切る。


「これ、今やると完全に尺が足りないやつだ」


 客席から笑い。


「じゃ、次」


 テンポよく続ける。


「空手。いつから?」


「小学校三年生から」


「黒帯ってことは、相当やってるね」


「うん」


「きっかけは?」


「……負けたから」


「誰に?」


「……」


「言わないか」


 司会は軽く笑う。


「いいね、その感じ」


 すぐ切り替える。


「あと、本!」


 モニターを指す。


「同じ先生の本、まとまって置いてあったよね」


「自分で買ったのと、貰ったやつ」


「……相当だね」


「うん」


 一拍。


「好き――だから、芸能人になった」


「……え?」


 司会が素で声を出す。


 一瞬、スタジオが静まる。


「……それ、どういう意味?」


 レオナは答えない。


 司会が時計を見る。


「あ、時間!」


 すぐに立て直す。


「いや〜、ずるいなあ」


 カメラに向かって。


「今の一言、破壊力強すぎ!」


 パンッ、とひとつ手を打ち鳴らす。


「というわけで!」


 司会が明るく締める。


「今日はここまで!」


「Flor de Leónでしたー!」


 拍手と音楽。


 レオナは、何が起きたのか分からない顔で、ただ瞬きをしていた。


 あ、また寝そう。



——————————



 放送が終わって、家に戻った。


 ――正確には、咲姫の家だ。


 玄関のドアが閉まった瞬間だった。


「……レオちゃん」


 抑えた声。


 振り向くと、咲姫が立っている。

 顔が、真っ赤だ。


「……なに?」


 レオナは靴を脱ぎながら、いつも通りに返す。


「なに、じゃないっ……!」


 咲姫は一歩詰め寄った。


「なんで、放送で……アルバムとか……あんな……!」


「見せて、って言われたから」


 悪びれもなく。


「それに……芸能界に入った理由、あんな言い方して……!」


「聞かれたから」


 咲姫は、言葉を失う。


「ぼっ、ボカされてたし、名前は出てなかったけど……わかる人にはわかるよ、私の本だって」


 声が震える。


「“好き”って……あんな……!」


「好きだよ?」


 即答。


「――ッ、レオちゃん!」


「うん?」


 レオナは、きょとんとしている。


 咲姫は、拳を握った。


「……パパは好き?」


「うん、好き」


「大判焼きは?」


「好き」


「私の小説は?」


「好き」


 一瞬、間。


 咲姫は、息を吸う。


「……私、のことは?」


 レオナは首を傾げる。

 考えているようで、考えていない。


「大好き」


 ――それを聞いた瞬間。


「……っ」


 咲姫は片手で顔を覆った。


 もう、だめだった。


 レオナの頭に手を伸ばして、

 わしゃっと、少し乱暴に撫でる。


「……ほんと……」


 ため息。


「……お疲れ様」


 そのまま、小さな背中を押す。


「大判焼き、あるよ」


 レオナは目を瞬かせて。


「ほんと?」


「ほんと」


 キラキラ輝くレオナの目を見ていると。

 どうしたって、声が優しくなるのを咲姫は止められない。


 レオナは、何も分かっていない顔で笑った。


「やった」


 ――もう、そう言われたら。

 頭を撫でてやるしかないのだった。

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