第4話 不憫な布団達
薄暗い家の中。家族はみんな寝静まっている。
「もうそろそろかな?」
少年は手の甲をつねったり、冷たい水で何度も顔を洗いながら父親の帰りを待っていた。
毎晩遅くに靴音を聞くだけだけど、今日はどうしても言いたいことがあったのだ。
いつもは気にならない時計の音と、暗さのせいか、何となく背後が気になる感じ。
「ん…まだ起きてたの?明日起きれなくなるよ?」
突然リビングに下りてきた母親の声にビクっとする。悪いことをしている訳でもないのに。
「頑張って起きるもん!」
チク、タク、チク、タク———
「朝になったよ!ほら、起きなさい」
「え」
少年は耐えられなかった。寝落ちしていた所を帰ってきた父親が発見し、ベッドまで運んだのだ。
◆◆◆
「親父。俺な、転んでも泣かなかったんだよ」
やっとできた報告。でも今回、先に寝落ちしたのは父親の方だった。
儀式諸々が終わって、墓地に数人がかりで運ばれていく。
少年…いや、男は異常なほど静かな部屋の中、一通の手紙を持っていた。
『商会の会長を殺したのは、2番目の息子だ』
封筒ごと真っ二つに破き、1度握りつぶしたものを丁寧に広げてある。
「ガキが書いたとは思えない字だ」
男は極めて理性的であった。
「白かった。全部。あんな子供は見たことがない」
グシャ
男は、鼻の奥がつんとするのを無視した。溶けそうなほど熱くせり上がってくるものを、布団を被ることで誤魔化す。
◆◆◆
「俺は———わっ!」
私は立ち上がり、男をすり抜けて全力で逃げた。建物の3階まで跳べる脚力を惜しみなく振るう。
嫌だなあ…怖い。
そうか、私は怖いんだ。
長い現実逃避をしていたけれど、そうか。よく分からない存在に転生して、命をかけて手紙を届けるデスゲームの毎日。
「なんてことをしてくれたんだ!あの…あんぽんたんっ!」
声を掛けられた驚きで、顔をよく見ていなかったのが悔やまれる。
「もう寝よう。明日も手紙を届けなきゃいけないから…そうしないと、死んじゃうから」
家までの道のりは覚えていない。気がついたら着替えてベッドの中にいた。
『ちっ、名前を言えっ!親はどこだ?家は?親の職業は?』
『『噂』と申します』
名前もない。親…というか、知り合いもいない。この家も服も、私のものなのか、分からない。
「100まで数えたら寝よう」
私は手紙を届けるために生きている。…いや、食べなくても死なない。生きていないのかも。
「200まで」
「300、いや、400まで」
「…1000まで」
布団を握りしめ、叩き、引っ掻いた。
———
布団に優しくしてあげましょう。『噂』ちゃんは1047回まで数えました。
気づいたら私は“噂”でした 〜悪役令嬢を破滅させる側です〜 酔子 @suisuiko
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