口止め

「...晃河と一緒に帰ります」


晃河に圧倒された明日香はそう答える。そんな明日香を見て晃河は嬉しそうに笑った。


「じゃあ、また帰りにね」


晃河はそう言い残して席に戻った。明日香は両手を合わせて颯人の方を見た。


「ごめん。今日の寿司無しで」


颯人はニヤッとして頷きながら言う。


「ほぉ〜、なるほど〜。そういう事ね〜」


「何。どういうこと」


「今の見て俺、ピンと来ちゃった」


颯人はそう言って俺に耳打ちする。


「晃河と付き合ってるんでしょ」


「何言ってんの、違うよ〜」


明日香は誤魔化しきれず、わざとらしくそういう。


「大丈夫だって。俺誰にも言わないし。3人だけの秘密な」


「ありがとう。颯人」


「いいよ。全然。まぁ、俺が黙ってても晃河がわかりやすいからバレそうだけどな」


そう言って颯人は晃河の方を見る。颯人につられて明日香も晃河を見た。晃河は不機嫌そうに友達の話を聞きながらこっちをチラチラ見ている。


(なんだあれ。可愛い)


そう思った明日香は思わず笑みがこぼれる。


「お前も分かりやすいしな」


颯人にそう言われ、明日香はスっと真顔になる。


「なにが?」


「誤魔化そうとすんな」


颯人のその言葉に明日香はハハッと笑う。それにつられて颯人もハハッっと笑った。

先生が来てホームルームが終わると、颯人が小声で不思議そうに聞く。


「そういえばさ、お前らが付き合ってるってことは晃河の心に決めた人って明日香ってこと?」


「あぁ、うん。そうだよ」


「へぇ〜。晃河と幼なじみなのか。てか、晃河は小さい時からその気があったってこと?」


「違うよ。小さい時は俺の事女の子だと思ってたんだよ。俺、髪長かったから」


「へぇ〜。なんか気になるわ。ちっちゃい時の明日香。なんか写真とかないの?」


「え〜...あるかな...」


明日香はスマホを取り出して写真フォルダを開く。少し探すと、3枚ほど小さい頃の写真が出てきた。いつか、お母さんに送って貰った写真だ。

明日香は颯人にその写真を見せる。


「あったわ。ほら」


颯人はその写真を見て颯人は目を輝かせる。


「えぇ〜!なにこれめっちゃ可愛いじゃん!まじ女の子!」


「え?そんな可愛いかな」


明日香が少し照れながらそう言うと、前から晃河が来る。


「何?可愛いって。俺にも見せてよ」


そう言って晃河は明日香のスマホを覗きこんだ。


「ほんとだ。可愛い。俺の好きな人のちっちゃい頃にそっくり」


「これ、明日香のちっちゃい時の写真だって」


颯人はわざとらしくそう言う。


「へぇ〜。そうなんだ。すっげぇ可愛いよ」


そう言って晃河は明日香を見ながらニヤッと笑った後、冷めた顔で颯人の方を見る。


「颯人さ、なんで明日香のちっちゃい時が気になるの?」


「え、なんでって...」


「もしかして、明日香の事好きなの?」


晃河は颯人の顔を覗き込みながらそう言う。


「もしそうだったら、何?」


颯人はニヤッと笑ってそう言う。晃河はそんな颯人の耳元で囁いた。


「明日香は俺のだから手出させないよ?」


そんな事を言われているとも知らず、明日香は不思議そうに2人の光景を見ていた。


(なんて言ったんだろう...)


颯人は晃河の言葉を聞いてははっと笑い、晃河の肩に腕をかける。


「大丈夫だよ。俺彼女いるから。明日香のちっちゃい頃が気になったのはただの好奇心だから」


そう言って颯人は晃河の肩をポンポンと叩いた。


(彼女いたんだ...)


「...あっそ。ならいいけど」


晃河はそう言って自分の席に戻っていった。明日香はさっきの事が気になり、颯人に問う。


「ねぇ、さっき晃河なんて言ってたの?」


「なんか、明日香は俺のだから手出すなって」


「え?まじ?」


「マジ。あの調子じゃ明日にはバレるだろうね」


「それって...やっぱヤバい?」


「ヤバいでしょ。他の人ならまだしも晃河だもん。今晃河の周りにいる人達とこの学校の晃河のファンが全員で襲いにかかるだろうね」


「えぇ...」


「あと、晃河のかっこよさに嫉妬してる奴もね。男と付き合ってるって言いふらされて晃河が虐められるかも」


(それは絶対に嫌だ)


「だから、口止めでもしとけ。晃河口軽いみたいだし」


「...わかった。ありがとう。颯人」


明日香がそう言うと颯人はニコッと笑った。


(颯人、優しいな...)


少なくとも、颯人から言いふらされることはないだろうと明日香は確信した。

帰りのホームルームが終わり、明日香は晃河と帰路を歩いていた。晃河は明日香に口を聞いてくれず、ずっと怒っている。


「晃河」


(...怒ってる)


「なぁ晃河、怒んないでよ」


「...別に怒ってないよ」


怒った口調で晃河はそう言う。


(怒ってるじゃん...)


「朝のことだよね。ほんと俺、颯人とはただの友達だから」


「...それは別に分かってるよ」


晃河は不機嫌そうにそう言う。


「じゃあなんでそんなに怒ってるの?」


「...あの写真。颯人に見せたでしょ」


「あぁ、俺の子供の時の写真?」


「そう。あれ、他の人に見せて欲しくなかった」


「なんで?」


「だって...俺だけが知ってる明日香だったから...」


少し恥ずかしそうにそう言う晃河に明日香はハハッと笑う。


「ごめんごめん。もう誰にも見せないから。機嫌直して?」


明日香がそう言うと晃河はゆっくり頷いた。


(可愛い)


愛おしく思った明日香は晃河の頭をそっと撫でた。

明日香は朝の颯人の言葉を思い出す。


「あ、そういえば俺たちの事なんだけどさ」


「うん」


「付き合ってるのは他の人には内緒にした方がいいかも」


明日香のその言葉でしばらく沈黙が走る。


「...俺と付き合ってる事、バレるの嫌なの?」


「嫌とかじゃなくてその...周りの目とかあるし」


「そんなのどうでもいいじゃん。他の人にどう思われようと、俺たちの勝手でしょ?」


「それはそうだけど...」


「だけど何?」


(晃河と付き合ってるのがバレるのは嫌じゃない。でも、そのせいで晃河が傷つくようなことが起きるかもしれない可能性があるとしたら、俺はバレるのが嫌だ。)


なんて言えばいいのか分からず、黙り込んでいると、晃河がゆっくりと口を開く。


「...わかった。よくわかんないけど、言わない方がいいんだよね」


「ありがとう」


明日香はニコッと笑ってそう言った。

次の日、教室に入り、晃河に挨拶をして席に座ると、颯人が小さい声で言う。


「口止めは成功したの?」


「あぁ、うん。なんかちょっと拗ねちゃったけど」


「そっか。まぁ、晃河が黙ってんなら大丈夫だな」


それから数日が経ち、颯人と教室で昼食を食べていると、クラスメイトが慌てた様子で教室に入ってくる。


「おい晃河!彼女できたってどういうことだよ」

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