峰岸(部長)編 ⑤ 高校部活動運営要項、部活動費使用に関する注意事項

「ところで副部長のことをいつもメガネくんといってますけど……本当の名前ってなんですか」

「メガネくんだ」

「絶対違いますよね」


 和戸さんは俺にもメガネくんにも、それ以上の興味を失ったらしい。


「それでどうして校外に、私たちはきてるんですか」

「情報収集だよ」

「本屋で?」

「メガネくんは、本屋に行って戻ってくるといったんだ。つまり…‥」

「最初から部室で待っていれば良かったのでは?」

「動揺していたんだ。……そうだ、ついでに本を買おう。和戸さん、好きな本はあるかい?」

「どうもわざとらしいような……いいですけど。本といえば、雑誌か漫画ですかね」

「僕は本だといったはずだ。雑誌や漫画は本じゃない」

「私は本だと思いますけど。じゃあ何が本なんですか」

「文字が多くて、図が少なくて、読後に疲れるやつだ」

「完全に部長基準ですね。それなら、こないだ受賞したやつが読みたかったんで、これで」

「伊賀と甲賀の隠れ純愛怪異譚……? 需要どこだよ。まあいい」

 

「ついでに購入証明で画像を撮るから、寄って」

「え? 部長と? 画像は関係ありませんよね、嫌ですよ」

「仕方ないんだ、誰かに咎められても校外に勝手に出たいいわけが必要だ。本屋に寄っていたといえるだろう?」

「じゃあなんでメガネくんは――」


 なにやらあれこれといっている和戸さんは、しぶしぶ従った。

 そうして和戸さんと本屋を出た直後だった。


 リードがついていない大きな犬……だった。グルルル、という唸り声。飼い主は……いない。脇道にさっと入って、学校へのルートをたどる。


 曲がり角を曲がっても尚、犬は俺たちの後ろにいた。


「追いかけてくるなんて、なんて人懐っこい犬なんだ」


「全力で追ってきてますよね」


「やばい、和戸さん! 逃げるぞ!」


 大きな犬に人間が勝つのは――できなくはないが!

 ありがたいことに海が近い、砂浜を走った。砂は思った以上に足を取る。和戸さんの手を取り、浅い海に入る。と犬はそこでようやく諦めた。 


「部長、息切れてます。犬よりも……」

「うるさいな……俺はインテリ派なんだ」


 季節が初夏で良かった……冬だったら、死んでいた。


***


 メガネくんは、部室でくつろいでいた。

 ペットボトルのお茶をグビグビと飲みながら、ほうほうのていで帰ってきた俺らを見やる。


「早かったですね。撮れましたか?」


「撮れた! 賭けは俺の勝ちだ、メガネくん!」


「なんの話?」


 和戸さんが怪訝な表情を浮かべる。


「今日中に和戸さんを含め、活動写真が撮れれば俺の勝ち、撮れなければ――」

「部長は横領で退任と全額返金です」

「どうだ。和戸さんも一緒の校外活動の写真だ。本屋で一緒に買った写真、これでいいだろう」


 写真を覗き込んで、和戸さんは俺を睨んだ。


「なんで本屋に、って。写真も不自然だと思ったら、それが狙いですか!?」


 そして、俺はメガネくんに画像を見せた。ついでに、先ほど足だけ一緒に海に入った写真も。


「なんですか、これは! 和戸さんとのデートの写真じゃないですか。こんなのを僕に見せつけるなんて、自慢のつもりですか!?」


 メガネくんはバシンと高校部活動運営要項、部活動費使用に関する注意事項を机に叩きつける。机の上のペットボトルがぐらりと揺れて倒れた。


 メガネくんがブチ切れている。が、切れたいのは俺の方だ。


「どこがデートだ!」

「部長とデートなんてありえません。一緒に本を買いにいかされるわ、犬に追いかけられるわ、砂浜で走るはめになって……大変だったんですから」

「めちゃくちゃ楽しそうじゃないですか!」

「「なんで!!」」


「和戸さん、この誤解はきちんと解くべきだ。俺はいちごミルクとしかデートしない」

「いちごミルクともデートじゃないと思いますけど」


 冷めた目で和戸さんは僕を見やる。


「出かけた先の本屋で部費で買った本……これは、つまり活動の一環だ」

「全員の飲食が満たされていませんよ。ダメです、許可しません」

「走った後で、喉が渇いたから和戸さんとジュースを共有して飲んだ」

「ふざけやがって!」


 メガネくんがさらなる怒りをたぎらせる。


「部長、誤解を招く言い方やめてもらえませんか? 私が飲んだ後に部長が一口ちょうだい、っていって全部飲んだんじゃないですか」


 怒り心頭のメガネくんは、「なんでだ!」とさらに声を荒げた。


「和戸さん、僕がセクハラで訴えます! 全人類を代表してセクハラで訴えます!」

「すまない、お茶じゃなくてジュースが飲みたかったのか……? 」

「そっちじゃありませんよ!」


 ぜえぜえと息切れをするメガネくんの肩を、俺は叩く。


「とにかく、部長はあれこれ頑張ったかもしれませんが――」


「残念だったな。メガネくん、君は先ほど俺が出したペットボトルのお茶を飲んでいる」


 俺の言葉に、メガネくんの手が止まった。


「まさか」

「その通り。部費で買ったやつだ、事前にな」


 昨日のレシートを見て、メガネくんの顔が青くなった。


「いつの間に」

「つまり、君たちはすでに部費で飲食をしていたのだよ」


 メガネくんとは以前に校外活動で撮影済。つまり、今回の目標である部費で活動していた写真、部費で飲食をしていた証拠――

全てが揃い、はたして俺は横領犯を免れた。



「ところで部長。なぜここに、高校部活動運営要項、部活動費使用に関する注意事項があるか、気にしてませんでしたね」

「え」


 (改訂第七版)……じゃない! 


 八版だと!?


「規約をみてください。改善されているでしょう」


「部費はとす……る。なんだと!」


「当然ですが、今後いちごミルクは買わせません」


 了

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ミス研の峰岸くんは事件を解決しようとしない。 岩名理子 @Caudimordax

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