峰岸(部長)編 ③

 変なタイトルばかりだ。共通点がない。

 童話に昆虫に…‥ジャンルもばらばら、出版社もレーベルもバラバラ。


 できましたか、っていってただって? 

 なにをだ。

 用意はできてるのに、持って行かないって何だ。


 やはり本に規則性はなさそうだ。

 タイトルに注目する。

 ああ、これは確かに


 ははあ、これで問題クイズのつもりか……。

 ミス研だから、って試したのか?


「和戸さん、これを渡してきたのは男子だろ」

「え、なんでわかるの?」

「君がミス研に在籍してるって、その男子にいったんだよな? あとは何を話した? 俺とメガネくんの話をした?」

「そうよ、全部話したわ。ミス研には男子2人、本を読むことが活動内容だって。根掘り葉掘り。なんかあれこれいってたけど、意味がわからなかったから、聞いてないわ」

「和戸さんの場合、聞いてないってか、無視してるだけだよね」

「とにかく図書室の仕事を手伝うのは無理って断ったのに――」


 無視された。どうせミス研にくるつもりもなかったくせに、断る口実だっただろ。と、それは置いといて。


「なるほどね、渡してきた男子は――どこのどいつだって?」

「どういうこと?」

「俺が対応する。それで解決だ」

「あの窓際に座ってる人よ。解決って」


 カウンターのペンをもぎ取って、メモ用紙にサラサラと書いていく。

 書き終え俺が歩み寄ると、そいつは一瞬躊躇した。


「読んどけ」


 そいつの胸にバシンと紙を押し付けるように突きつけた。あほらしい、こんなところで時間をくってられるか。俺には彼女いちごミルクが待っているのだから。


 メモ男子はざっと目を通し、俺の顔を見た。


「わかっただろ、和戸さんは連れてくよ」

「ああ……」


 それをきき、和戸さんは、俺とメモ男子に駆け寄ってきた。


「え、部長? どういうことなの」


 言葉になんだか違和感を覚える。

 そうか、部長、って呼ばれたのは初めてかもしれない。だからだ。


「図書館での仕事は終わった。もう図書室に用はない。じゃ、行こう」


 ぐいと腕を引く。和戸さんは俺を見て、「はあ」といった。


「ごめんね、部長って強引だから」


 メモ男子にそう告げ、図書室からようやく脱出した。


「結局なんだったのかしら。本当によかったの?」

「全く気にしなくていい」


 簡単なものだ。あのメモは順番に並べ、積んだものはナナメ読み。

 そうすると『あなたがすき』になるわけだ。他にも山のように積まれた本を見ると『ぼくとつきあってください』『いっしょにかえろう』となり、要するに告白を伝えるものだった。


 さて、じゃあこのメモはもう不要だ。和戸さんをミス研に取り戻すためには、握りつぶした方が良いだろう。ぐしゃっと手のひらの中で紙は丸まった。変なところで彼氏でも作られたら困る。和戸さんに部室にきてもらわないことには、俺のいちごミルクが部費で買えなくなる。


「……まだあんなに本が残ってたのに、でも何だったのか」

「大丈夫。あのメモひとつで全部片付いた」

「なんでそれであっさりと? なんて書いたの?」

「おおかみ人間、晴れたらいいけど、ぼくの哲学、勘違いだからやめておけ、の4つ」


 同様に解いてみると『おれのだ』になる。

 本当であれば『俺のミス研の部員だ』とやりたかったけれども、途中で面倒になったからだ。どうせあいつは、このことを誰にもいわないだろう。「おすすめの本でも探してたの?」なんて呑気にいってる和戸さんは、あのメモがラブレター代わりであることに気づいていないだろう。


 和戸さんを連れて渡り廊下を歩いた。

 あまりにも無駄なことで脳内の糖分を使い過ぎた、甘い物を飲まないと。

 自販機の前に立った俺は、絶望した。


「売り切れぇ!?」


 無情にもいちごミルクだけが売り切れていた。

 

「ああ、飲みたかったんですか? さっき、間違って買っちゃったんで、あげますよ」


 間違って買った、ってなんだと思ったが、今回はグッジョブだ。


「和戸さん……!」


 もう今日は彼女いちごミルクは手に入らないって思ってたのに……。


「ありがとう。すごく、好きなんだ……」

「でもそれ、香料……」

「関係ない」


 両手で受け取りながら、素が出てしまった。

 和戸さんはドン引きしている。


「だって、乳飲料の無果汁ですよ」

 

 冷めた目で、いわれた。

 まるでメガネくんのようなことを。


「関係ない。愛してるんだ」

「いちごミルクを」

「いちごミルクだけを」


 和戸さんは呆れたような表情を浮かべている。余計なお世話だ。でも俺は、このやり取りがたくさんの人間に目撃されていたなんて――

 

 その上、撮影されていたなんて――


『変人の峰岸は和戸みなみに、大好きだと迫っていた』



 なにをいってるんだ?


 許さないぞ、俺を『変人』呼ばわりする奴は誰だ。

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