『電車おじさんの謎』解決編
「ちょっと幾つか教えて欲しいんだけどさ、そのおじさんの茶色いナイロンのカバンって、具体的にどんな感じなのかな?」
解男が訊いた。
「そうね、まあ、どこにでも売ってそうなカバンだけど、結構大きくて、ちょっとした小旅行にでも行く時に使いそうなカバンね。なかなな重そうだったわよ」
「そうか、あと、そのおじさんは、電車乗ってる時はどんな様子なんだろう? ずっと寝てるとか、もしくは、カバンをじっと見てるとか、なにか特徴ある?」
「そんなにおじさんに注目してないから、はっきりとは覚えてないんだけど、たしか寝てはいなかったわ。チラチラとカバンを見てた気がする。あ、あとたまに、何が気に入らないのか、思い出したように席を立って、カバンの位置を微調整するように動かしたりしてたわね。意味はわからないけど」
解男が時計を見ると、8時になっていた。そろそろ学校に行かなくてはならない時間である。しかし、作子はいっこうに筋トレを止める気配がない。
「いつまでやるの?」
「もうちょっとだけ。いまいい具合に筋肉がパンプアップされてきたからここからが気持ちいいところなの」
「そう」
なんだか、刃牙みたいなことを言うなあと思ったが、こうなった作子を止めることは不可能なので、さっきの電車おじさんのことを考えることにした。
なぜ、おじさんはカバンの下に座らないのか?
「ないとは思うけどさ、そのカバンが動いたりするのかな? たとえば、猫とかが入ってて、たまに動くから、網棚から落ちないようにおじさんが注意してる、みたいな」
「ごめん、ちょっと待ってね」
作子が始めた話ではあるが、作子自身はあまりこの話に興味なさそうだ。筋トレの片手間で質問に答えている。
「ごめんね。いや、それはないと思う。だって、さすがの私だって、カバンが動いたりとか、鳴き声がしたりすればさすがに分かるもの。それに、もしペットをカバンに入れてるなら、そんな不安定な網棚の上なんかじゃなくて、自分の隣の席とかに置くんじゃないかしら。もともと空いてる電車だし」
「それもそうだな。じゃあ、これもあんまり考えにくいけど、そのカバンから何か液体でもたれているとか? それが頭にあたらないように、ってないか。それなら、いっそ、膝の下にでもおけばいい話だもんな」
「そうね」
「あと、考えられるのは、おじさんっていう性質も考慮して、盗撮の類かな?」
「盗撮っていってもね、別に可愛い女の子が乗ってるわけでもないのよねえ」
やっぱり作子は筋トレ中に女を忘れるらしい。
「いやいや、作子がいるだろ、いつもいる可愛い女の子」
「あたし? あ、そういえばそうね」
「作子って、その電車でどの辺に座ってるの?」
「あたしは、いつも同じところに座ってるわよ。あたしの指定席」
「いやそうじゃなくて、そのおじさんとの位置関係って意味なんだけど」
「おじさんはね、あたしの斜め前にいるよ」
「えっ、そんなに近くに座ってるの? じゃあなに、その荷物は作子の隣の席の上の網棚に置いてあるってこと? そんな近くに置かれてるのに、変だって思わないの?」
「だから、気になるっていってるじゃん」
「いや、それだけじゃなくて、席を移動しようとかさ、なんかこう色々やれることあるような気がするけど・・・・・・。もしかして作子が撮られてんじゃねーの?」
作子はピタリと止まって解男を見る。
「バカ言わないでよ。私なんか撮られるわけないでしょ」
「いや、ありうるよ。男代表でいわせてもらうと」
「そう?」
作子はまた筋トレを再開する。
解男だけがなぜか焦っている。
「でももし盗撮してるとしても、どうして正面からじゃなくて、そんな斜め上から盗撮する必要があるんだ?」
「さあ」
自分が盗撮されてるかもなのに、作子はまだあまり興味を示さない。
斜め上から、女性を見ることが趣味なオヤジなのか?
人の性癖は千差万別だが、はたして、そんな奴がいるだろうか。
時計を見ると、8時15分になっている。
「ちょっともういい加減行かないと、間に合わないよ。早く準備しなよ」
「あっそうだね、分かった、ちょっと待って」
そう言うと、作子は、タンクトップに短パン姿、でブラジャーもつけないまま、ベッドの上に置いてあったスクールカバンを持つと。
「おっけ、行こう」
とか言い出した。汗も乾いていない。
「えっ、作子、その姿のまま学校行くの?」
「そうよ。だって暑いじゃない」
「いや、そうじゃなくて制服は?」
「制服はカバンの中に入っているから大丈夫。いつも学校近くのトイレで着替えるの」
解男は、あまりにも無防備な自分の彼女をみて頭を抱えた。おそらく、一回でも作子と一緒に電車に乗ってそのおじさんを見ればそのおじさんのやろうとしていることなんて一目瞭然だったろう。
「作子が、そんな格好してたら、男なら誰だって上から覗き込みたくもなるよ」
「え、なに?」
「なにじゃなくて。だから、そのおじさんは、作子の胸元を盗撮してたんだよ。さすがに、作子の真上に荷物を置くのは不自然すぎるから、斜め上に置くので妥協したんだろうな。しかも、荷物の下に座ると、作子の隣に座る形になって、空いてる電車でさすがに不自然だと考えたんだろう」
「あっそっか。納得」
「納得じゃねえよ。案外、その盗撮魔のおじさんが、さっきのS高校の女子高生を誘拐したやつかもしれないぞ」
解男は、大きなため息をついた。とりあえず、自分の隣に無造作に落ちているブラジャーを手にとって、作子につけさせてやることにした。作子に危ない男を近寄せないのも解男の使命だった。
終わり
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