第4話:新装備

 外界を遮断する金属の箱が上へ上へと走る。十階、二十階、三十階へと進みエレベーターは止まる。


「何で社長室ってみんな高いんだろうな。」


「下民共を上から見下すためでは?」


「うーん、悪役の思考、棒付キャンディーとか舐めてそう。」


 下らぬ会話の果て小綺麗なカーペットの上を進んだ先、部屋の扉をゆかりが叩く。


「ゆかりです。」


「入ってください。」


 六人が各々一礼し開け中に入る。


「失礼します。」


 部屋にいたのはなるほど、この家系の女性だと思える美しい女性だった。黒く明らかに高級品のソファーの前でにこやかに笑っている。


 三人の野暮ったい男達のものより桁が一つか二つは上の高そうなスーツを着こなすその女性は、黒い髪をまとめてそこにいた。


「ありがとう、ゆかり、二人も来てくれてありがとう、それで、そちらが?」


「ええ、私の先輩――巷では『正義の味方』なんて呼ばれているヒーローグループです。」


 鋭い視線が、三人のヒーローを貫く。


 美人は何をしていても様になるというのは本当なのだなぁと、妙な考えを抱きつつ、小太りの男――扇雄介が口を開いた。


「――どうも、はじめまして。扇雄介です。今回はチームへの勧誘、心から感謝しています。あ、これ、つまらない……あー……些細なものですが、ご笑納ください。」


 頭を上げつつ、ぶら下げていた紙袋を差し出す――中身?茶菓子だ、の茶菓子。


「おや、これはどうも、ウィンドヴェーラーさん、あなたの救助実績はこちらも把握しております、我々のオファーを受けてくださってうれしく思っていますよ。」


 にこやかに、ヒーローとしての名が告げられる――まあ、当然だろう、ここまでデカい企業のトップだ、人に会うなら下調べくらいはする。


「同じく、七星 一也(ななほしかずや)です、場違いな大企業からのお声がけに、大変驚いています。」


「そんなことはありませんよ、インパルス・バングルさん、あなたの近接戦闘能力は関東近郊では最高との呼び声も高い、迎えられて安心しています。」


「天塚 新(あまつかあらた)と申します、黒土製薬様にはこれまでも何度か助けていただいて感謝しています。」


「気になさらないでくださいルモス・ベセル、あなたがヒーローになると聞いた時は大変驚きましたが、あなたのような天才はどこでも活躍なさるのですね。」


 そういって、ほほ笑んだ女性に、三人は内心感心していた――どうも、こちらのことを完璧に調べ上げているらしい、さすがに、ゆかりの叔母だ、頭がいい。


「――おっと、こちらが名乗っていませんでしたね、黒土未来、そちらの黒土ゆかりのおばであり、灯、御影の母です。」


 そういって莞爾として頭を下げる女性に、三人もまた一礼を返した。


「さっ、座ってください。詳しい話をしましょう。」


「ありがとうございます。」


 六人は未来と向かい合うようにソファーに座る。


「早速ですが仕事の話をしましょう。皆さん、大まかな話は?」


「聞いていますよ。」


 答えるのは天塚だ――基本、この手の難しい交渉は彼の担当である。


「この会社で発明された新技術を扱うことで、『ヒーローの性能を飛躍的に向上させること』に成功したために、それを使用した実験的ヒーローチームが欲しい――という話でしたね。」


「ええ、そうなります。」


 ――それが、あの日、占い師の館に訪ねて来たゆかりの『用件』だった。


 曰く、『叔母の会社で、ゆかりが開発したまったく新しいタイプの変身装置を使う、実験的なヒーローチームをを結成したいので、その一陣として、手を貸してほしい。』と。


「にわかには信じられませんが……ほんとにできたんですか?」


 思わず、と言ったように天塚が訊ねる。


 当然の反応だった。


 この世に『職業としての』ヒーローが現れて以降、ヒーローへの変身装置――『トランサー』と呼ばれるその装置が更新された記録はない。


 スマートフォンが一年で数回のマイナーチェンジを繰り返す中、この装置だけは発明されて十九年、一度だってその姿を変えたことはないのだ。


 無論、装置の更新が考えられなかったわけではない、むしろ、現在、この瞬間にもそういった装置を生み出そうと、もっと資金力のある企業が装置の開発に着手しているはずだ。


 それを、たかが、一製薬会社が作り出した――というのは、いささか信用ならない話ではあった。


「当然の反応ですね、とはいえ、それなりの理由という物があるのですよ。」


 そういって、社長である女性の視線はゆかりに向いた。


「……実を言うと新型の装置というのはトランサーの方ではないんです。」


「ほう?」


「ヒーローの力の源についてはご存じですよね。」


「もちろん、僕らヒーローは勇者の劣化版という話でしょう?」


 ――そう、これがヒーローの現実だった。


 勇者とは。


 異世界へと召喚される際に『次元間棲生物』である『妖霊』と接触し、その『恩寵』を受ける者、妖霊たちの有する『魔力を消費することで現象を引き起こす力を得た者たち』の総称である。


 魔物の脅威から異世界の人々を守る為に異世界の者たちによってさらわれた者。それが勇者だ。


 ではヒーローとは何か?


 その答えは簡単だ。


『ヒーローとは、この次元に転がり出た妖霊の宿った器物を使い、一時的にヒーローもどきになることのできる存在』である。


 通常、この次元には妖霊は存在できない。


 理由は不明だ、基本的に、妖霊は人間と話さない――そもそも、意識があるのかもわからない、そんな存在だ。


 だが、理由は不明だが、ごくまれに、こちらの世界に妖霊が『転がり落ちてくる』ことがある。


 その際、妖霊は生存本能からその体を、『物の中に隠す』性質があるのだという。


 それらの器物から、強引に妖霊の力を引き出し、恩寵を強引に受けたうえで、機械的に利用しているのが――今の変身機構、通称トランサーである。


「ええ、その通りです。では、その際、妖霊の力を引っ張るために、特定の『つなぎ』を使うことも、知ってますよね。」


「ええ、『コピュラ』薄い一枚のカードのようなものですね。」


「我々が作り出した装置とはこれです。新しいコプラ――アンプリフィカートゥス・コピュラ。それによって私達はヒーローを強化できるわけです。」

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