第八夜 斬るべきもの

翌日、相変わらずいつも通りの生活を送っていた。

だが夕食時にそれは崩れた。

義父上は日を追う度に食事の量が減っていた。

向かいの席で義父上がこう言った。

肉料理に手をつけないまま父は席を立った。

「息子よ、この後、地下に来い。」

投げ捨てるようにただそう言われた。

好物だった肉の味が変わった気がした。


手早く腹八分目まで食事をし、

言われるがままにあの日の記憶を辿った。

相変わらず地下への道は薄気味悪かった。

以前より不気味とさえ感じられた。

足取りが重かった。

きっとこれは、あの日の続きなのだろうと、

私は大きく深呼吸をした。記憶の中と全く同じあの空間に出た。

ただ違うことが一つ。

父上だけではない、もう一人いた。

女性。

「息子よ、続きだ。お前でも斬れるものを用意した。」

艶のある、それでいてどこか荒々しくさえ感じる、

綺麗な芦色の髪だった。

まさか、と私は息を呑んだ。

女性は顔を上げた。

嫌な予感が当たった、あの女性だった。

手足を拘束され、体はボロボロにやつれている。

「義父上、これはいったい…。」

義父上の目つきは見たことがないほど鋭く、尖っていた。

「近頃場内で不穏な噂をばら撒いているものがいると聞いてな。」

義父上が女性の髪を引っ張った。

「国に仇なす、不穏の種だ。」

義父上はこちらを振り向きこう言った。

「息子よ、このものを斬れ。」

正気を疑った。

だが義父上の目に迷いはなかった。

「義父上、お言葉ですが…。」

言葉が詰まった。

薄々わかっていたことだ、人を斬るなんてことくらいは。

だがこれは違う。


「私は言葉で訴えただけだ。なぜ斬る必要がある。」

この女性の全てを知っているわけではない。

罪人や悪人を連れてくるのだろうと、心のどこかでそう決めつけていた。

逃げていた。

斬るべきものとはこういうものなのか。

世のためではなく、国のため。

「何を躊躇う息子よ、剣を抜け。」

当然のように義父上は吐き捨てた。

私の心は拒んでいた。

だが次期国王として、何よりこのお方の息子として。

拒否できないことはわかっていた。

腕が剣に触れた。納得することを放棄したまま。

私は女性の前に立った。

私は今そんな顔をしているだろうか。

死の間際でさえ、この女性はなお強い光を目の奥に宿している。


「…斬るなら斬れ。私の娘はこの王に殺された。故郷も領地の一部になった。」


抜いた剣が震えた。

問いかけるように義父を見つめた。

「…誠ですか、義父上。」

「ああ、国のためだ。」

即答だった。未だ私の心だけが、世界に置いていかれていた。

ただわかっていた。

斬れば正義を語れなくなること、

斬らなければ、親子ではなくなってしまうことも。

迷いに震えながら、私は剣を振り下ろした。


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2026年1月10日 22:00

灰を辿る亡霊ーー優しさが国を焼くまでの物語ーー SeptArc @SeptArc

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