第七夜 不穏な空気
次の日、城内は不穏な噂に満ちていた。
「……あの子のこと、聞いたか。」
「隠していたんですかね。」
「やはり血筋が影響してるのでしょうか。」
街ゆく人々は皆、
声を抑えながら妙な不信を共有していた。
嫌な予感がした。
確かではなかったが、少なくとも、
国にとっていい兆候とは思えなかった。
するとその中の一人が声を上げた。
「みなさん。確証のない話はやめましょう。私たちは王の不正に頼るのではなく、王と対等に話をしたいのです。」
綺麗な芦毛の女性だった。
黒髪が多いこの国では、
その髪はある程度浮いて見えた。
よくみるとその女性の後ろには、
何か宗教めいた雰囲気の集団が後に続いていた。
いつも着込んでいる父とは違い、
彼らは武装をしていなかった。
「この国は今、罪のない他の国や村にまで手を出しています。そうしてまた、私たちのような故郷を失ったものが増えてしまう。」
彼女の言うことはあながち間違いではなかった。
いくら息子と言われようと、
私は義父上と血のつながりがない。
彼女の言う故郷を失ったものの一人であったことに違いはなかった。
「みなさん、言葉で語りかけましょう。武力に頼ってはいけません。私とともに、この国を変えましょう。」
私にいえたことではないが、
凄まじい掌握力だと思った。
あの髪色も、おそらく異端の類であろうに。
彼女は力ではなく言葉で、
それでも力強く訴えていた。
この国の、あるべきあり方について。
私ですらその一瞬、彼女の言葉によって、
国に疑問を抱いてしまった。
次期国王となる身としては、ああいう不穏の種は潰しておくべきなのだろう。
だがその時私にはどうしても、
剣を抜く気にはなれなかった。
それはあの夜のせいか、
はたまた迷いのせいか。
胸に手を押し当てた。
これは、ただしい行いと言えるのだろうか。
国にとって、
彼女らはどのような存在なのだろうと。
私は静かに問いかけた。
城に帰る頃には、不穏な気配は消えていた。
途中、やけに高貴そうな服装をした少年とすれ違った。
王族か関係者以外基本立ち入りできないはずだが、貴族でも招いていたのだろうか。
本日も義父上は、夕食は別の時間に取るのだろう。
召使には特に何も言われず、
そのまま食堂へ向かった。
「腹が減った。支度を頼む。」
入り口で使いにそう頼み、
相変わらず重い扉を開けた。
そこにはすでに並んだ食事と、
いつもとは違う席で食事をする義父上の姿があった。
「...早かったな。息子よ。」
「義父上こそ、お早い食事のようで。」
そういい私はそそくさと食卓に向かった。
いつもの席に腰をかけ私の分が用意されるのを待った。
ふと椅子がいつもより暖かいことに気がついた。
誰か座っていたのだろうか。
私は特に深く考えず、
出され始めた食事に手をつけた。
「今日は一段と疲れてな。肉を多めに頼めるか。」
かしこまりました、と一礼し、
使いは手早く肉料理を用意し始めた。
その間に私は野菜を平らげ、パンを齧っていた。
ふと机の隅に目が行った。
小さめの食べ屑が数ヶ所に落ちている。
手に取って確認などしなかったが、
私のものではないと言う違和感だけが、
ただ残っていた。
極め付けには、スープに汚れたような染みまで目についた。私の卓にまだ汁物は出されていない。
私はすれ違った少年のことを思い出した。
「どなたかいらっしゃっていたのですか。」
途端義父上の動きが止まった、
義父上は口に運ぼうとしていた匙をゆっくりおろし、
こちらに目を合わせずにこういつだ。
「ああ……商売の、大事な客人だ。」
そう答えると、彼は
まだ食事を終えていないにも関わらず、席をたった。
「先に休む。励めよ、息子よ。」
そういうと魔が悪いように彼は食堂を後にした。
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