第六夜 父の剣

気がつけば私は天井を仰ぎ、地に倒れていた。

全身が痛む。視線を動かすと、一段と痛みの強い右手には、折れた木剣が握られていた。

「惜しかったなーー息子よ。」

見上げるとそこには義父上がいた。

私と比べて傷の一つもなく、

ただそのままの姿でそこにいた。

「良い剣であったぞ。私には届かなかったがな。」

勝敗は目に見えていた。

上体を起こし、私は記憶の断片を辿った。

ただ剣を振った。

力強く、そして素早く。

教わった動きを、培ったものを全て見せるように。

だが義父上は、

重く動きの邪魔になりそうな鎧を纏いながら、

剣の間合いの一歩先を、

無駄のない動きで避け続けた。

そして細くなった腕から繰り出される剣は、蝶のように美しく、蛇のように私の剣を絡め取った。

老いて尚、芸術のような剣技を見せる父の姿に、

私は為す術なく敗れた。

「息子よーー。問おう。

なぜ全力で戦わなかった。」

予想外の問いに私は困惑した。本気で戦ったつもりだった。

「ーー全力でした。」

これは嘘ではなかった。

持てる技も、速さも、全身の力も、すべて出した。

出したつもりだった。

だが義父上は静かに言った。

「違うな。」

「お前は、私を“斬ってはならないもの”として見ていた。」

彼は剣を下ろし、私の目を見つめた。

「斬らねばならぬと口にしながら、

心のどこかで、お前は私を父として扱っていた。」

彼は私に手を差し伸べた、出会った時と同じように。

「王として剣を振るうなら、情を理由に、刃を鈍らせるな。」

私は手を取った。

痛みはあった。

それでも、起き上がった。

だが今は、彼の話を真剣に聞きたかった。

一人の息子として。

「斬ると決めた相手を、人として見るな。」

お前のためにも、国のためにも。

彼はそう小さく付け加え、ここに来た道を戻り始めた。

「行くぞ、息子よーー。」

私は木剣すら支えにせず、この場所に来た時と同じように、姿勢を正して義父上を追った。

何事もなかった親子のように。

そう振る舞うことが、

もう当たり前になっていた

道すがら彼はこう言った。

「次お前が剣を抜くときは、きっと私ではない。」

彼は前を向いたまま、声を一段と低くした。

「お前が“斬れる”相手を連れてこよう。」


ーーーーーーーーーー

あとがき

普段あまり関わってこない親や親族、先生や上司が、ある日急に声をかけてきたとき、ビクッとしますよね。あの一瞬の間に、何かよくないことが起きるのでは、と体が察知して用心深くなりますよね。

そう言うことが起こるたび、生命の凄さを感じます。火事場の馬鹿力や走馬灯のようなものも、実際あるのかもしれないですね。

生命の神秘です。


これからもどんどん上げていくので、もしよろしければ、

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これからもよろしくお願いいたします。

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