第五夜 夜の境目
私は日が暮れるのを待った。
体に一番合う服装と使い慣れた木剣、
動きを一切邪魔しない装備をつけ、
朧げに記憶していた、地下への道を進んだ。
地下への道は特別封鎖されているわけではなかった、いつ見ても暗かったそれは、
ただそこに堂々とあり、
しかし何物も寄せ付けない異様さを醸し出していた。
だが今日だけは違った。
まるで私を誘うかのように、
壁にかけられた松明が揺れる。
奥からは僅かに冷たい風が吹き、
水の滴る音と、私の足音のみがよく響いた。
進むと、ひどく錆び、
青緑色に変色した銅製の扉があった。
音を立て押し開くと、
城の大広間と同じくらいの大きさの空間が現れた。
部屋へと繋がる扉や階段、装飾の位置や照明に至るまで、全てが似ていた。同じにさえ見えた。
その空間の中心には彼がいた。
「来たかーー息子よ。来てしまったか。」
自ら呼び出して置いて、
彼はなぜか、私が来てしまったことを悔いるような横顔を見せた。
「あなたのお言葉にしたがったまで。それで、かような場所で一体何をーー。」
突如剣が抜かれる音がした。
一瞬目を離し油断していた私は、息子に切り掛かってくる義父親の初手を見誤った。
それは、初めて与えられた“王の刃”だった。
私は飛び退き、大きく距離をとった。
寸前で躱したつもりだったが、
彼の刃は私の頬を切り裂いていた。
父は向き直り、その剣先を向けた。
「どうした、息子よ。剣を抜け。
”斬らねばならぬもの”ならここにいるぞ。
——王としてな。」
私は内心怯えていた。今まで剣を抜いた義父上を見たことがなかった。出会った時でさえ。
これは剣の試験ではない、
何かを選ばせる場なのだと直感で理解した。
私は姿勢を正し、木剣を抜いた。
「私に義父を斬れというのですか。」
私は教えられた教本通りの構えをとった。
「その剣で斬れるほど私は甘くないぞ。」
父は剣先で美しい軌道を描きながら空を裂いて見せた。そして胸の前に剣を構えてこう言った。
「全力で来い。それこそ殺す気でな。」
私が恐れていたのは、死ではない。
この人の言葉を、否定してしまうことだった。
まだ手先の震えは抜けていない。
だが私は義父の言葉を裏切りたくなかった。
私は初めて、剣を握る理由を考えなかった。
ただ今は、斬らねばならないと思った。
私は息を整え、義父上に向かって駆け出した。
——この夜が、境目になると知りながら。
ーーーーーーーーーー
あとがき
偉大な義父は多くは語らなかった。
でもそんな彼は語らないだけであって、一般に言う隠し事にあたるものは数多くあります。
後ろめたいことは、権力や地位が隠してくれる。それらがあるから、人は迂闊に問いかけられない。
クラスや職場にも、そんな人いますよね。
これからもどんどん上げていくので、もしよろしければ、
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これからもよろしくお願いいたします。
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