第四夜 捨てられなかった剣
まだ鳥でさえ泣き始めないような早朝に目を覚ました。
陽はまだ登っておらず、部屋にはまだ蝋燭の日がついていた。
「おはようございます。もうすぐです朝食の時間です。身支度をーー。」
召使いが言い終える前に手早く身支度を済ました。
「ありがとう。先に向かっていてくれ。」
召使いを下げ、私は窓を開け、まだ陽の登らない世界を眺めていた。
「まだ暗いな。」
そう呟いて、少しきつさを感じ始めた服を着た。
まだ重さを感じる食堂の扉を開けると、
すでに義父上は席につき黙々と食事を食べていた。
共に食事を摂るのは実に十日ぶりであった。
最近になって彼は食事の量が少なくなった。
その影響もあってか、義父上の姿は、体も逞しかったものが徐々に萎れ、老いを感じさせるものになってきていた。
彼は色とりどりの食事の中から、野菜や汁物といった食べやすいもののみを選んで食べていた。
私は黙ったままいつものように義父上の向かいに座り、食事に手をつけた。
親子の食事の場にあるまじき沈黙が流れる。
この頃義父上は私の一日にあまり関与しなくなり、ただ気まぐれに現れては、目を合わせるたびに去っていった。そんな姿に、私は距離を感じ始めていた。
彼は食事の手を止め私を一瞥すると、
魔が悪そうにこう聞いた。
「この頃変わりないか、息子よーー。」
私は下げ気味だった視線を改め、
一拍置いてから答えた。
用意していた言葉は、いつもより少し重かった。
「……変わりなくはありません。」
義父上の眉が、わずかに動いた。
それだけで、
この人が今も私を見ているのだと分かる。
「剣の稽古を続けています。」
予想通り、義父上は小さく息を吐いた。
「またその話か。」
「はい。」
短く答えると、食堂の空気がさらに冷えた。
私は構わず言葉を重ねた。
「近衛の者とは、もう六度打ち合いました。ですが—ー。」
ここで、義父上が匙を置いた。
音は小さいのに、やけに響いた。
「勝てぬのか。」
「いえ、勝てます。」
即答だった。
自分でも驚くほど、迷いがなかった。
義父上は私を見たまま、しばらく黙っていた。
「……なら、何が不満だ。」
私は視線を逸らさずに言った。
「恐れているのです。」
「誰をだ。」
「私を、です。」
義父上の目が、ほんの一瞬だけ細くなった。
「教本通りの剣でした。恐れ、迷い、慎重で……正しい。」
私は言葉を選びながら続けた。
「ですが、あれでは”斬らねばならぬもの”に、剣は届きません。」
再び沈黙が流れる。
義父上は視線を皿に落とし、野菜を一口だけ口に運んだ。
飲み込むまでの時間が、やけに長く感じられた。
「……息子よ。」
聞き馴染みのない、低い声だった。
「強さを求めるな。」
私は思わず、口を開きかけた。
だが、義父上は続ける。
「強さは、人を守る前にまず、持つ者の何かを奪う。」
その言葉は、忠告というより——
己の得た経験の告白に聞こえた。
私は問う。
「それではなぜ、義父上は剣を捨てなかったのですか。」
義父上の手が、止まった。
「……捨てられなかったのだ。」
そして、初めて。
彼は私の目を、真正面から見た。
「今日の稽古相手を変えよう。」
心臓が、強く跳ねた。
彼の目つきが一層力強くなった。
「近衛兵ではない」
一瞬の間。時が止まったようにも感じた。
「日没後、城の地下にこい。」
私は反射的に尋ねた。
「……それは、人なのですか。」
義父上は答えなかった。
ただ立ち上がり、食堂を出ていく直前に一言だけ残した。
「ただ強さを求めた男だ。
そして、それ以外をすべて失った。」
ーーーーーーーーーー
あとがき
皆さんは、初めて両親に歯向かったときの感情を覚えていますか?生みの親からの怒りに対峙する。それは自分の心の成長でもあり、自分の生き方を優先したということでもあるのです。
けれども親の因果が子に巡る。親が注意し続けることは、奇しくも我が子に同じ轍を踏ませることになってしまう。この義父と子の関係のように。
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