第4話 雑費



風俗で、客にあまり知られていないこと。


ウエトラのこと…


あとは、私たちの収入について。客が店に支払った約半分が私たちの手元にくる、と思われていることが多い。実際には、その半分から雑費という名目で経費を引かれる。だいたい2,000円から5,000円くらい。


お茶…客が0のこと。それでも雑費は持っていかれる。


初出勤の日、店長が給与明細の見方を教えてくれた。


「この『雑費』ってなんですか?」


私が尋ねると、店長は当たり前のように答えた。


「消耗品代やな。ローション、コンドーム、タオルのクリーニング代、部屋の清掃費。あと、送迎の車代も入っとる」


「でも、客が来なくても引かれるんですか?」


「そら、そうや。待機しとる間も、部屋使っとるやろ? 光熱費もかかるし」


計算が合わなかった。


客が一人。60分で18,000円。私の取り分は9,000円のはず。でも、雑費3,500円が引かれて、手元に残るのは5,500円。


二人目。同じく60分。また3,500円引かれる。


一日4人入っても、雑費だけで14,000円。実質的な手取りは22,000円。


「お茶の日」があった。


朝11時から夜10時まで、11時間待機して、客が一人も来なかった日。


それでも雑費は2,000円引かれた。


「待機手当ないんですか?」


ミクに聞くと、彼女は肩をすくめた。


「ないよ。ここはまだマシな方。他の店は待機も自腹でローション買わされるところもあるから」


「でも、おかしくないですか?」


「おかしいよ。でも、そういうもんだから」


ミクの諦めた声が、胸に刺さった。


ウエトラは1本800円。一回の客で使い切ることもある。店は雑費としてローション代を取るくせに、私たちが自腹で買い足すこともある。在庫切れの時、店長は平然と言った。


「悪いな、今日発注したから。コンビニで買っといて」


レシートを渡しても、経費として認められなかった。


ある日、計算してみた。


一ヶ月、週5日出勤。一日平均3人。


売上: 18,000円 × 3人 × 20日 = 1,080,000円

私の取り分(50%): 540,000円

雑費(3,500円 × 3人 × 20日): -210,000円

実手取り: 330,000円


お茶の日が3日あれば、さらに6,000円引かれる。


税金も自分で払わなければならない。


結局、手元に残るのは30万円を切る。


体を売って、30万円。


大卒の初任給と変わらない。


でも、前の会社は半年で潰れた。


ここは、少なくとも毎日営業している。


矛盾していることはわかっていた。


「雑費、高すぎませんか」


ある日、勇気を出して店長に言ってみた。


「嫌なら、他行ってもええで」


店長は笑いながら言った。でも、目は笑っていなかった。


「ここはな、送迎もあるし、面倒見もええ方やで。客層も悪くない。他の店なんて、もっとエグいとこばっかりや」


私は黙った。


選択肢がないことを、店長は知っていた。


その夜、アパートに帰ってから計算機を叩いた。家賃、光熱費、食費、携帯代。ローションの自腹分。化粧品代。


ギリギリだった。


貯金なんてできない。


体を売って、ギリギリ生きている。


スマホの画面に、大学時代の友人からのSNS投稿が流れてきた。「ボーナス出た! 旅行行ってくる!」


私は画面を閉じた。


鏡を見る。サラがいる。


でも、その目は疲れていた。


明日も出勤だ。


雑費を引かれても、私には他に行く場所がない。


これが現実だった。


まっさらなんかじゃなかった。サラピンなんて、嘘だった。


ただ、消耗していくだけ。


それでも、私はサラを続ける。


他に、なれるものがないから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2026年1月10日 21:00
2026年1月10日 21:00
2026年1月11日 21:00

私の日記 あさき のぞみ @ASAKInozomi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画