第4話 呪いを解く鍵

 彼女の肌はまだ温かい。脈も規則的で、息もある。苦しげな様子はない。12人目の魔女が『死』を『眠り』にすり替えたというのは本当のようだ。


『時が来れば、運命の人が現れて口づけによって目を覚ますでしょう』


 この言葉が、事実かどうかは分からない。アルベールも父親から聞かされた話だ。正式にブランローズの護衛となる際、彼女にかけられた呪いについて説明を受けた。


 国王の信任厚き護衛だったという父親は、彼女が生まれた日の祝宴にも出席していた。そこでおぞましい呪いが彼女に注がれる瞬間を目の当たりにしたのだ。父親の話した内容に偽りはないと信じたいが、時の流れというものがある。無意識に記憶が改変されていた場合、彼女を目覚めさせるすべは何ひとつない。


 そもそも記憶通りであったとして、彼がその存在たり得るのか。


 目覚めるか、死に等しい眠りに沈み続けるか。


 ――――賭けるしかない。


 意を決した。アルベールは眠れる彼女を見つめる。


 このに及んで何をする気かとにやつく魔女を無視して、柔らかな果実に唇を重ねた。


 甘い、花の香り。彼女の美しさがもたらす幻想のかぐわしさ。自分が今危険な状況に置かれているにもかかわらず、彼女と2人きりでいるような感覚に惑わされる。


 唇を離した。彼女が大きく息を吸い込む。


 ゆっくりと開かれた藍色の瞳に、光が灯った。


「……アルベール?」

「ブランローズ様。勝手に寝ないでくださいよ」


 安堵のあまり、ついあまのじゃくな憎まれ口を叩く。


「なっ! そんなこと、あり得るわけが……!」


 すぐ傍では13人目の魔女が血相を変えて現実を否定していた。呪いがくつがえされたことが信じられないのに違いない。自身の呪いは絶対、と豪語していた女だ。さぞ憎たらしいだろう。


 魔女の驚愕に乗じてアルベールは素早くふところに踏み込んだ。拳を固めて、ハッと強張る魔女の横面よこつらに叩き込む。


 力加減をかなぐり捨てた渾身の一発に、今度は魔女が倒れた。



**・***・***・**



 ブランローズが護衛を伴って13人目の魔女の屋敷に殴り込み、見事呪いを解除させたという知らせはまたたく間に国中に広まった。解呪の立役者はアルベールだと素直にブランローズが明かしたことで、彼はまるで救国者のように讃えられている。


「解呪とはどのように」

「13人目の魔女を担いでお運びになられていたが、どんな死闘が!?」


 事の顛末てんまつを寄ってたかって聞きたがる貴族たちを曖昧な笑みで追い払い、今日もアルベールはブランローズを近くで見守っている。


 13人目の魔女は地下牢にて厳重な警戒の下、囚われている。この15年の間に12人の魔女たちが開発した、あらゆる魔法を無効化する素材を組み込んだ牢は、さしもの13人目の魔女も脱獄が難しい。完全に魔法の行使を封じ切れたわけではないものの、地下牢に繋がれている間は力が半減されるので、12人の魔女が充分対抗できるのだとか。しかしながら元を辿れば王室の不手際であるため、極刑などはまぬがれる予定だ。


 それよりも肝心なのが。


「ようやく私の婚約がまとまりそうなのよ」

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