第3話 13人目の魔女

 玄関広間を探検して見つけた螺旋らせん状の階段を上り、最初に目に飛び込んだ扉に惹きつけられた。まずは2階全体を観察してから、と制止する騎士を押し切ってブランローズは部屋に入る。


 見えたのは木箱に入れられようとしている糸車。それを持つ黒髪の毒々しい美女。陶器めいた、およそ人間味のない白いかんばせを引きつらせ、女はブランローズを凝視した。


 13人目の魔女だ。確信した。


「うぉりゃあああああ!!」

「いやあああああああ!!」


 ブランローズはアルベールの剣を勝手に引き抜いて魔女に投げ飛ばした。完璧な直線運動を持って突進した切っ先は魔女の頬すれすれをはしり、壁に突き刺さる。ぎいぃぃん……と嫌な余韻が剣を小刻みに振るわせた。


「ここで会ったが100年目よ。13人目の魔女!!」

「15年目です。ブランローズ様」

「お前はあの時の赤子! な、なんであたしの居場所を……!?」

「ふん。そんなの、他の12人の魔女に聞けば一発だったわ。貴方の年齢、生年月日、出生地、好きな食べ物、一度行ってみたい観光地……貴方の個人情報はだだ漏れよ!!」

「魔女ネットワーク怖い!」


 指を突きつけ踏んり返るブランローズに対して13人目の魔女はすくみ上がる。ブランローズの挙げた個人情報の内容が居場所の特定にいまいち関連のないことは、気づいていないようだった。


「私にあんな呪いをかけておいてタダで済むと思わないことね。一発殴らせなさい。そして呪いを解きなさい」

「淑女のセリフではないと思います。ブランローズ様」

「いちいちうるさいわねアルベール。黙ってなさい」

「まあ確かに俺の剣を断りもなく抜いて投げるような女性が淑女なわけないですね」

「お黙りっつってんの!」


 淑女の皮をぎ、興奮で顔の赤らんだブランローズはぞっとするほどに美しい。数秒、見惚れていた魔女だったが、我に返ると同時に手元の糸車をブランローズ目がけて放り投げた。


「ブランローズ様!!」


 アルベールが身をていしてかばおうとするも間に合わず、ブランローズの眼前に糸車が迫る。顔への直撃だけは避けるべく咄嗟にブランローズの両手が突き出された。繊細な長い指に、とがったつむの先が食い込む――――


「ブランローズ様ぁぁあああ!!」


 ブランローズの意識はぷつりと途切れた。



**・***・***・**



「ブランローズ様……ブランローズ様……っ!!」


 アルベールが力なく倒れ伏す身体を抱き起こし、必死の形相で揺する。だが伏せられた長い睫毛は、その奥の色彩を一切映し出そうとはしてくれない。


「無理よ。あたしの呪いは絶対。他の魔女どもがどんな魔法をかけようと、運命は変えられないのよ」


 膝をつき、女主人の名をひたすら叫び続けるだけの無様な姿を見下ろして、13人目の魔女は高笑いする。


「あっはははははっ! そろいもそろって愚かだねえ! 呪いを解くためにはるばるここまで来て? で、結局呪いにやられた。ははは! 馬鹿馬鹿しすぎて芝居にもならないわ」


 ひとしきり笑って、魔女は冷徹な顔つきになる。


「で、どうする? お前もつむに刺されて死ぬかい? ご主人様の隣で一生眠っておくといいよ」


 ブランローズを抱き締めたまま、アルベールは魔女を睨み上げた。常人であればその場でへたり込み、戦意を喪失するほどの凄まじい威迫いはく。人智を超えた力を操る魔女はそれを一笑にした。


「……お前、よく見ると綺麗な顔立ちをしているね。飽きるまで飼ってあげようか? お姫様を死なせてお前だけ帰ってきても、処刑されるだけだものね。それならあたしの屋敷で匿われた方が長生きできるよ。多少はね」

「願い下げだ……!」

「ふぅん? じゃあ今ここで死んでも構わないね? だって戻っても死ぬんだもの」

「…………っ」


 真っ赤に塗りたくられた唇が、アルベールの目の前で吊り上がる。彼は歯を食い縛った。罵倒したかったが、火に油を注ぐのは目に見えている。それよりも、少しでも命がびる方法を考え出さねば。

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