第4話 「心配事」

本当のことを言うと、俺は猫が好きだ。

でも、昔のことを思い出すと怖かった。


俺の両親が事故で亡くなった時、一緒に猫がいた。

事故の原因は父が運転する席の前にそいつが飛び乗って、目の前をふさいだのだ。

そのせいで対向車と正面衝突し、両親は亡くなった。もちろん猫も一緒に。


そいつは、とても甘えん坊で両親に懐いていた。とても大事に育てられたんだ。

なのに、そいつは俺の両親を殺したんだ。

許せなかった。


今度家に来た猫は、そいつを思い起こさせた。


もし、姉に甘えて近づいて何かを起こすとしたらと思うと、怖かった。

姉は俺の心配に気が付かないし、能天気に見えた。


なんで、今更猫を飼うことになったのか?

姉の気持ちが理解できなかった。



※※※



「おい、聞こえてるか?」



授業中、俺は前を向いたまま固まっていたようだった。

担任の先生が声をかけてもピクリとも動かない俺に、心配したようだった。

周りの席の同級生からひそひそ声が聞こえた。



「あ、いえ、大丈夫です」



俺はとっさにそう答えた。



「具合が悪かったら、保健室に行くんだぞ」



先生は心配した様子だったが、授業を再開した。

俺は目の前のことに集中した。



そして、昼休みになった。



教室を出て廊下を歩く。

窓から見える桜の木。もう散って葉が茂っている。

季節は春なのに、俺の気持ちは冷めている。


ふと、前を見た。


姉がいた。

別のクラスの副担任をしているが、二人の女子生徒にちゃんづけで呼ばれていた。

とてもにこやかな表情で、清楚で本当に教師だった。


話が終わって二人は離れ、手を振る。

姉はそれに応えるように返した。

そして前を向いて歩きだした。


俺に近づいてくる。

一歩一歩がきちんとした足取りだった。


俺とすれちがいになろうとした時に、あいさつをしようか迷った。

ちょっとでも、姉弟の感じが出てしまうと、高校生活がしずらくなるからだ。


けど、そんな心配はいらないようだった。



「おはよう。今日も元気そうね」



「え? あ、はい。まあなんとか」



「ふふ」



そう会話を交わした。姉は上手くやってくれていた。もちろん俺も気を付けている。けど……。



「じゃあ」



微笑んだ表情の姉が立ち去ろうとした。



「先生」



俺は呼び止めた。抑えていた気持ちが爆発しそうだった。



「うん? どうしたの?」



姉は少し驚いたような顔をした。

俺はしばらく口を閉じていたが、勇気を出して言った。



「先生は大事な人っていますか?」



姉はそれを聞いて少し考えたようだった。



「いるけど、それは今は言えないかな」



そう答えた。



「相談なら、放課後に職員室に来てね。じゃあ」



姉はそう言って、用事がある様子を見せて立ち去った。



「……」



俺は黙って立っていた。



姉の本心を知りたかった。

けど、真っすぐに突入して断られてしまった。


心の中ではつぶやいていた。



姉ちゃん。

俺、守りたいんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る