勇者にも赤い血が流れている



そこまで言いかけて静まったシタの方を振り向く。


シタは、遠方の連なる山岳をじっと見つめていた。


「⋯何、見てんの?」


俺は、シタが見つめる先を恐る恐る覗き込む。


すると、連なる稜線の影が微かに蠢いているのが分かった。


まるで巨大な何かが山肌を這っている様に。


俺がそれを捉えた時、混乱する間もなくシタは口を開いた。


「あれは光炎龍。ヒーラーも護りも居ない今の私達とは相性が悪過ぎる相手ね。」


それは、いつも通りの冷静沈着な声色であった。


「そっかぁ⋯。よし、引き返すんだな!」


そう活き良く馬車へ戻ろうとする俺の腕を、シタはがっちりと掴んできた。


「⋯何ですか?」


「行ってきなさい」


コウエンリュウとやらの方角を指差してそんな事を言ってくる。


「いやいやいやいや!?お前が言ったんだよ?『今の俺達とは相性が悪過ぎる』ってさぁ!?」


そう半狂乱に叫ぶ俺の頬を、シタはまるで壊れたテレビを治すように平手打ちしてきた。


唖然と立つ俺を放って


「酒代全負担よ。瑠衣。」


そう、改めてコウエンリュウの影を見つめながら


どこか含みを孕んだ笑みを浮かべていた。

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