物の価値




アイスガルムとの戦いで得た戦利品は、決して少なくない。


シタが殺したアイスガルムの死体はどれも綺麗な状態で、どれも破損していなかった。


的確に、急所のみを突いたと言う事だ。


あぁ本当に怖い。隣に立ってほしくなくなった。


「アイスガルムの牙と氷は戦利品として高く売れるの。」


そう言いながらアイスガルムの死体に指を這わせるシタは、いつも通り平然としていた。


「ゲッ…牙重っ…。」


「数多くの肉食動物を食らうのだから、当たり前でしょう」


死体の転がる地面から、ムッとした血と土の匂いが立ち上っていた。


腐敗が早いな。


視界の端に入るそれらを、なるべく数えないようにしながら、俺はゆっくりと息を吐く。


…嫌な予感しかしない。


「これ…転がってる死体の数だけ持って帰るの?」


自分でも分かるほど力ない声であった。


遠い目をして問いかける俺に、シタはあっさりと答える。


「いいえ。精々五本というところね」


なんだ。


思ったよりずっと少ないじゃないか。


胸の奥に溜まっていたものを、ふうっと吐き出す。


———その瞬間だった。思いがけない言葉が飛び込んできたのは。


「一本で、百万円はするもの」


「は?」


言葉を理解する前に、声が裏返る。


その言葉に盛大に吹き出してしまった。


「ひゃっ、百万円ッ!?」


シタは俺を汚物でも見るような目で見てくる。


いつもならその視線に唾を吐きかけたくなるところだが、


今は驚きでそれどころじゃない。


「お前っ…なんでそんな平然としてられるんだよっ!!」


思わず叫んでいた。


だがそう問いかけられても、シタは不思議そうな顔を見せるだけだった。


「こんなのは安い方よ。もっと高ランクの魔物は優に一千万を超えるのだから。」


その一言が、頭の中で反響する。


一千万?  一千万ってなんだ……!?


「アーーーーーーーッ!!」


声が裂けるように出てしまった。この世界は大富豪しかいないのか!


その額をもし手にできれば俺は———


「ふひっ…フハハハハハ…!!」


気付けば、俺は顔を歪め、笑いにも似た奇声を上げていた。


「瑠衣。気色悪い。」


シタの冷たい一言が、現実へ引き戻す。


「うるせぇな!できるだけ多く持って帰るぞ!!お前も、そのうっすい服の隙間に入れろ!」


口を尖らせながら卑しくも叫ぶ俺に、シタは容赦なく冷静さのパンチをお見舞いしてきた。


「多く持っていっても、ギルド側にだって予算があるの、知ってる?」


その質問には答えず、俺は静かに抱えていた牙を積もる雪に戻す。


白い雪に置かれた牙を見下ろしながら、小さく呟いた。


「俺の希望…」


「馬鹿丸出しの発言、やめてね」


「うるせぇ、冷徹暴君…!」


涙目で必死に抗う俺の声はシタに尽く無視され、挙句の果ては、


冷たい雪に吸われて、静かに消えていった。

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