タイプは優しい女です



「冒険者資格を取ってきなさい。」


白昼堂々、シタは俺にそう告げた。


シタはそのまま俺の背中を軽く押し出した。…つもりなのだろうが、


俺は派手に飛ばされ、その勢いのままギルドの扉へ突っ込んだ。


「っぶね…‥!」


派手な音を立てて転がり込んだ俺を、ギルド内の視線が一斉に刺してくる。


恥ずかしい。死にたい。


シタは外からひょこっと顔を出し、


「勇者のスキルを見せれば一瞬よ。早くして。」


と、淡々と言う。


「勇者」。俺はまだ、その実感がまるで無い。


だがシタの言う通り、戦えばその実感が湧くかもしれない。


まぁ湧いた所で世界を救う気になるかどうかは別だが。


一先ず視線が怖いので立ち上がり、受付の優しそうな美女に声をかけた。


「あの…登録…お願いします。勇者です。」


そういった瞬間、異様に胸がざわついた。


ポカンと口を開ける美女に共感しながらも、俺は焦っていた。


このままでは完全に不審者だ。


何かアピールしなければならない。


(証明…証明…!)


《Skill:爆裂魔法 Lv100 —発動》


「———えっ?」


その瞬間、戸惑う暇もなく、謎の機械音声と共に


ドカァアアアアアアアアアンッ!!


という爆ぜる様な轟音が鳴り響き、目の前の受付カウンターが爆裂した。


書類がはらはらと舞っていく。


椅子ごと綺麗に奥へ吹っ飛ばされた受付嬢が、大声で叫んだ。


「キャアアアアアッ!」


「ち、違うんです!事故です!俺は悪くねぇ!!勝手に出———あっ、


テメェ勝手に触んじゃ——!」


野次馬や取り囲んでくる奴らを蹴散らしていると、視界の端に一枚の張り紙が見えた。


『魔法、能力使用禁止 非常事態以外の使用はお控え下さい。』


その文字を捉えた瞬間、喉奥からヒュッと変な声が漏れ出る。


完全なテロ犯扱いの俺は四方八方から刃を向けられた。


そんな修羅場の時。野次に混じって聞き覚えのあるため息が聞こえてきた。


半泣きで後ろを振り向くと、やはり覚えのある呆れ顔が立っていた。


「…何をしたらこうなるの。」


シタだ。髪一つ乱れず登場。


その姿は女神か死神か、俺は前者であってほしいと強く願う。


シタは俺の目の前に立った。


すると、俺を囲んでいた冒険者達の武器がみるみるうちに引いていく。


全員、シタの美貌に見とれている様だ。


「この子は勇者です。手荒な真似はやめて。」


冷静に堂々と告げるシタの背中を、俺は多分好きになった。


シタは女神だった。


だがその直後、振り返ったシタの目は酷く冷え切っていて、


それから低く言い放たれる。


「本当に滑稽ね。」


「…はい。」


前言撤回しよう。俺を殺すのは、きっとコイツだ。

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