第4話眩しい
「じゃあ、あなた達はここで、じゃがいもと人参と玉ねぎの収穫をお願いね♡」
恋恋先生はお揃いのジャージを身につけた俺たちに軍手を渡すと「お待たせー♡」と他のチームの方へ行ってしまった。
一からカレー作りという、いかにもベタなイベントをやることになった俺たちは二手に別れることになった。
一つ目は学校裏にある畑からじゃがいもとか人参を収穫するチーム。二つ目は他の材料(カレールーとかお肉とか)を学校近くのスーパーに買いに行くチーム。チーム決めはくじで決まった。
俺、輝斗、桜子ちゃん、朱里ちゃんが収穫チーム、
翔吾、太陽、奏さん、芹香ちゃんが買い物チームに決まった。
ちなみに恋恋先生はグラウンドでカレー作りをする為の準備をしてくれてるらしい…(本当にそうかは知らん)
「俺さ、野菜の収穫とか幼稚園以来だわ」
輝斗が軍手をはめながら笑って言った。
「それな?俺も最後にやったの幼稚園とかだわ。まさかこの歳でやることになるとはねー」
「私やったことないかも!だから結構楽しみ!桜子は?」
朱里ちゃんが隣で靴紐を結んでいる桜子ちゃんを見ながら言った。彼女はまさか自分に話振られるとは思ってなかったらしくて、「え、あ、ちょっと待って」と言いながら急いで靴紐を結んでいる。
…なんか小動物みたいだな、この子。
「私はおじいちゃんが野菜とか育ててたから、よくそのお手伝いしてたよ」
「へぇーじゃあ桜子ちゃんは俺達の師匠だな!」
俺が笑って言うと、桜子ちゃんはちょっとびっくりしたように少し目を見開いて、それから、
「…任せて!」
と両手をグーの形にして笑顔で笑った。後ろで1本に結ばれている長い髪がふわりと揺れた。
「じゃあみんな!桜子師匠に習いながら頑張ろー!」
「ちょっと…!朱里ちゃん!」
「「おー!」」
「もうー、二人まで!やめてよーそんな凄くないから!」
桜子ちゃんはそうは言ってるけど照れた笑顔は隠せてなかった。
「もうみんな!早く始めるよ!」
桜子ちゃんの言葉を合図に早速俺たちは野菜の収穫を始めた。
「人参ってどうやって収穫したらいいのー?」
「人参はね、根元をちゃんと持って、ゆっくりまっすぐ引き抜くといいよ」
「……ほんとだ!簡単に引き抜けた!さっすが師匠だね」
「あー暖君また師匠呼びしたなー…さては師匠呼び、気に入ってるでしょ」
「バレた?」
俺がおどけて言うとみんながあはははっと笑った。
なんか、いいなこの感じ。
気づいたら俺はこれが恋リアってことを忘れそうになるくらい普通にこのメンツと野菜収穫するのを楽しんでいた。なんか、青春って感じだ。
◆◇◆◇
「あ、桜子。髪ほどけてるよ」
人参と玉ねぎの収穫を終え、じゃがいもの収穫に取り掛かっていた時、朱里ちゃんが桜子ちゃんを見ながら言った。確かに見てみると1本に結ばれていた桜子ちゃんの髪の毛はいつの間にか自由に解き放たれていて、夏の夕方の風になびいていた。
「1回こっち来なよ。私が結んであげる」
「え、いいの?ありがとう!」
二人が少し遠くに行ってしまい、俺は輝斗と二人きりになった。
「やっぱ髪長いと大変そうだよなー」
輝斗が女子達の方をチラッと見ながら言った。
「だなーこういう時こそ太陽みたいなやつが無双できるな!」
「アハハ!確かに。やっぱ持つべきは坊主か」
「坊主しか勝たん」
俺は笑いながら新しいじゃがいもを掘ろうと視線を下に向けた。
すると、
「待って。暖。こっち向いて」
急に輝斗がこっちを見て言ってきた。
「え、何?」
「顔に土ついちゃってるよ。動かないで。今取るから」
そう言って輝斗は軍手を急いで外して俺の右頬に手を伸ばしてきた。思わず俺は目を瞑った。目を閉じたことで輝斗の熱が俺の頬に伝わるのをはっきりと感じた。気まずくなると思って目を瞑ったのは間違いだったのかもしれない。余計、なんか居心地が悪い。
…てかおい待て。なんだこのシチュは。俺達のこのシチュは番組的に見ても、需要ないだろ……!てか土ついてるなら教えてくれるだけでいいから!自分で取れるし!わざわざ取ってくれなくても大丈夫だから!!
「…取れた?」
無言の間が耐えられなくなり俺は目を瞑ったまま輝斗に話しかけた。
「待って…暖ごめん…ふふ」
ほんの少しだけ夕日で明るくなった暗闇の中で輝斗の笑い声が聞こえてきた。
「お前、何笑ってんだよ」
「ごめん…ふふ…土取ろうとしてさ、わざわざ軍手外したのになんか俺、手も汚れてたみたいで余計暖の顔泥だらけにしちゃった……あははっ」
耐えきれなくなったのか輝斗はその場で大きく笑い始めた。
「おーい。お前…マジで何して…」
俺は目を開けて、マジで何してんだよ、と言いかけたが、それ以上言葉を発することが出来なかった。
目を開いた先に、今までに見た誰よりも眩しい笑顔があったせいだった。彼の長いまつ毛は横に細く伸び、同じように横に伸びた大きな黒い瞳に俺は吸い込まれてしまいそうになった。黒くてやわらかい髪の毛は夕日に照らされ毛先が黄金色に輝き、ゆっくりと揺れていた。夏の蒸し暑さのせいで首に滴っている汗でさえ、よく漫画とかアニメで見る、星や光とかのキラキラのエフェクトのように彼の笑顔を引き立てていた。俺はもう彼の笑顔から目を離せなかった。
「コラー!そこ!イチャイチャしない!」
遠くから朱里ちゃんの大声が急に聞こえ、びっくりした俺は思わず近くに置いてあったじゃがいもを蹴ってしまった。じゃがいもはコロコロと割と遠くまで転がっていってしまった。
「…おいー輝斗のせいでじゃがいも遠くまで蹴っちゃったじゃん」
「えー?それって俺のせいなの?」
「…そうだよ!ついでに顔洗ってくるわ。誰かさんに汚されたからね」
俺は、「ごめんてー」と謝る輝斗に軽くパンチをするフリをしてから、よいしょっと立ち上がって、転がったじゃがいもを拾いに行った。カメラマンは着いてきてないようだった。俺の近くには誰もいなかった。
良かった誰もいなくて。なんか知らないけどめっちゃ顔が熱い。耳が熱い。特に輝斗に触られた泥だらけの右頬が熱い。
きっと暑い中長袖ジャージなんか着て芋掘りやってるからだ。うんそうだきっと。
……じゃなきゃ、こんな熱くなることないだろう?
俺は外についているコンクリ製の手洗い場まで行くと顔をバシャッと洗った。火照っていた顔が一気に冷やされて気持ちが良かった。
……だけど、胸の奥から聞こえる音だけがいつまでもいつまでも早いままだった。
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