第5話似た者同士

買い物チームも学校に戻ってきて、俺たちは早速カレー作りを始めた。驚いたことに正直料理なんてできなさそうに見える翔吾が野菜を次々に――ダン、ダンと切っていっていた。しかも大きさまで綺麗に揃っている…


「俺、歳の離れた双子の妹がいてさ、あいつらの食事良く作ってるんよね。そしたらいつの間にか料理できるようになってたわ」

 

 翔吾がヘラっと笑いながら言った。


 おいおい。チャラいのに実は妹思いなやつなんて絶対好感度上がるに決まってるだろ…


 案の定、女子たちはみんな翔吾の意外な一面に釘付けになっていた。


 俺だってそんぐらいできるし。料理なんてしたことないけど、野菜切るくらい簡単だろ。

 …………

 ……

 ……人参ってどんな感じで切れば正解なんだ…?


「ねぇ。桜子ちゃん。人参ってどうやって切るの?」

 

 試しに切ってみた大きさも形もバラバラな人参を見られないように隠しながら、俺は小声で近くで同じく人参を持っている桜子ちゃんに聞いた。

 

「た、多分、こんな風に真っ直ぐに…」

 

 桜子ちゃんは包丁を真上から一気に人参に向かって振り落とした。ダンっという鈍い音が周りに響き渡った。


「ちょっと!すごい音したけど大丈夫!?」

 

 朱里ちゃんが急いでこっちまでやって来た。

 

「だ、大丈夫だよ。人参切ってただけだから。」

 

 そう言いながら桜子ちゃんは包丁をまた真上から振り落とそうとしている。

 

「待って待って!そんな持ち方じゃないから!ていうかこの人参皮むいてないじゃん。桜子は危なっかしすぎるよ。暖君見ててあげてよ。」


 そう言って朱里ちゃんは俺の方を見たが、俺の周りに転がっている人参たち(もちろん皮付き)を見て、はぁとため息をついた。


「もう2人は包丁使うの禁止!最後にトッピングするチーズとか海苔とかの型抜きでもしてなさい!」


◆◇◆◇

「出禁になっちゃったね…私たち」

 

 桜子ちゃんは、チーズを星型に型抜きながら小さくため息をついた。


「ねー。てか人参って皮ついてるんだな。分かりづらすぎない?」

「ほんとほんと!同じ色してるし!」

 

桜子ちゃんは俺を見て小刻みに頷きながら言った。


「いやでも、意外だなー。桜子ちゃんが料理音痴だなんて」

「私もまさかここまで出来ないとは思わなかったなぁ。野菜くらいは切れると思ってた」

「めっちゃわかる!そんぐらいは出来るだろって思うよねー」


桜子ちゃんと話しながら、いつの間にか俺の視線は何故か輝斗に注がれていた。輝斗は朱里ちゃんと一緒に、人参やじゃがいもを炒めている。二人は何か面白い話でもしているのか時折お互いを呼び合う声が聞こえてきた。


 ……なんの会話してるんだろ…フライパンで野菜を炒めている音がやたらと聞こえてくる。


…なんで俺、あいつのことばかり考えてるんだ。


 これ以上考えるのが怖くなった俺は、目の前の型抜きに集中することにした。


◆◇◆◇

「せーの!」

「「いただきます!」」


 無事にカレーを作り終えた俺たちは早速出来たてのカレーを頬張った。正直俺は、ほとんどカレー作りに関われなかったけど、自分たちで作ったってだけでいつものカレーよりも何倍も美味しく感じられた。


「ちょーうめー!」

「私たち天才すぎない!?」

 

みんなも口々にカレーを絶賛している。太陽なんてもうおかわりをしに行ってるし。


「みんなおつかれ様♡このカレーとっても美味しいわ♡」

 恋恋先生もちゃっかりカレーを頬張っている。頬に手を当てて「美味しー」とニッコニコになっている。


◆◇◆◇

「あ、あの…暖君…隣で食べてもいいかな……?」

 俺が二杯目のカレーを食べ始めた時、桜子ちゃんがオドオドしながら俺に話しかけてきた。

「もちろん!一緒に食べよ」


 俺がそう答えると桜子ちゃんは安心したように「ありがとう」と笑った。

 桜子ちゃんは俺の隣に座って、カレーを食べ始めた。口いっぱいに頬張ったカレーを一生懸命もぐもぐと食べていた。

 まじで小動物みたいだなこの子。


「…暖君?」

 桜子ちゃんのことを覗いていると、いきなりパッと桜子ちゃんが顔を上げた。桜子ちゃんの顔はもう目と鼻の先だった。

 

「わあ!」

「わ!ごめん!」

 俺は急いで桜子ちゃんから離れた。

「わ、私こそっ…」

「……」


 ……

 な、なんだこの甘い雰囲気は…!?

 …顔が熱い。桜子ちゃんにバレないようにそっと顔を背けたが、待っていましたとばかりにカメラに捉えられてしまった。


「……やっぱ自分たちで作ったカレーってめっちゃ美味しいね」


 沈黙とカメラの圧に耐えきれず、とりあえずさっきのことは無かったことにして俺は桜子ちゃんに話しかけた。


「…ね!ほんとに美味しい」


 桜子ちゃんは嬉しそうに頷いて言った。


「まぁ俺たち、型抜き担当だけどね」

「そうなんだよねー」


 俺たちは二人揃ってくすくすと笑った。


……桜子ちゃんと話すの楽しいな。俺も自然に振る舞えるし。…分かんないけど恋ってこんな感じの気持ちじゃなかったっけ?

 上手くいけば桜子ちゃんのこと、ちゃんと好きになれるかもしれない。

 今までみたいな失敗はしたくない…


◆◇◆◇

「それじゃあみんな♡一日目のレクリエーションは以上です!お疲れ様でしたー♡」


恋恋先生の言葉を合図に無事に一日目が終了し、最後に俺たちは個別のインタビューを撮るらしく、俺の目の前にもカメラが構えられた。


 ――初回はどうでしたか?

「初めはめっちゃ緊張してたんですけど、メンバーがみんな良い人たちで気づいたら普通におしゃべりしてましたね」

 

 ――1番楽しかったことはなんですか?

「うーん。やっぱ俺は野菜掘りですかね。こういうことやるの新鮮だったし。めっちゃ楽しかったです!」


 うん。野菜掘り楽しかったなー…

 ……野菜掘りを思い出すとあいつの笑顔をまた思い出してしまった。あの夕日に照らされた眩しい笑顔…

 綺麗だったなぁ……

 …ってまた俺は何考えてるんだ!今日の俺はなんか変だ。またあいつのこと考えてしまった。今はインタビューに集中しろ暖!!


――気になる子はいますか?

「…そ、そうですねー。……今、気になってるのは桜子ちゃん、です。今日たくさん話せたので」


 今日一日で桜子ちゃんのことを沢山知れてほんとに楽しかった。だから、気になってるのは本当。

 ……なのになんでだろう。

 胸の奥がチクッと痛んだ……


◆◇◆◇

「のんちゃん。お疲れ様」

 インタビューを終えた俺に佐々木さんが近づいてきて言った。

「どーだった?初回は」

「まぁまぁかなー。あ、でもカメラの位置とかはあんまり意識出来なかったかも」

「まぁ初回だからねー。これから気をつけていけばいいと思うよ」

 佐々木さんは俺の肩をポンポン叩いて笑った。


「あ、あと一個、のんちゃんに言っておこうと思ったことがあってさ、」


佐々木さんはふと真面目な顔になって、俺の目を見つめて言った。

 

「この番組的には中高生のリアルな恋を撮影したいと思うから基本的に好きなように恋愛していいと思うけど――」


一呼吸置いて、佐々木さんは続けた。


「番組が求めている恋愛像があるってことだけはちゃんと頭に入れておいた方がいいよ」

「…?お、おう?」


 佐々木さんのこの言葉の意味が身に染みて分かったのはもう少し後になってからだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

初めて、知ってしまったから。 碧月叶雨 @_aotuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ