第2話撮影開始
「着きましたよ」
運転席からプロドライバーさんがこっちを振り向いてニコッと笑った。助手席に座っていた佐々木さんは「ありがとうございます。」とさわやかにお礼を言っている。
現場慣れしている佐々木さんは緊張している素振りすらない。
それに比べて俺ときたら緊張しすぎて車に乗っている間ずっとカチコチだった。さっきだって、朝集合して関係者の人と挨拶をしただけでもう心臓バクバクだったんだ。今だって気づいたらずっと髪の毛を触ってるし…
………なんか佐々木さんに経験の差を見せつけられてるみたいでムカつく。いつもはあんなボサボサ髪で、コンビニの店員さんにさえ挨拶しないくせに。俺だって、上手くやれるし!
「運転ありがとうございました!」
気持ちを切り替えようと俺はドライバーさんに大声でお礼を言ってから一気に車のドアを開けて外に出た。
上を見上げると満点の青空が広がっていて雲ひとつなかった。暖かく心地よい風がまるで俺を歓迎してくれているかのようにスゥーっと通り過ぎた。風の先に目をやると辺り一面に緑の芝が広がっていた。そのど真ん中になんの違和感もなく自然に溶け込んだように学校が建っていた。学校は白を基調としていて、屋根が赤茶色っぽい色をしていた。なんて言うか、まぁ普通の学校って感じ。
「…なんか俺、廃校って言うからもっと汚いのかと思ってた」
「いやだって毎回『 週ここ』の撮影ここでやってるんだから、そりゃお手入れしてるでしょ」
「それもそっか」
学校の入口が見える辺りまで行くと沢山のスタッフさんたちが忙しそうにせっせと準備をしているのが見えた。
「はぁ……」
改めてこんな沢山の人達が関わっている仕事を自分がすることを実感してまた緊張してきてしまった…
「のんちゃん緊張してるのー?ため息なんてしちゃって。無理もないかぁ。初めての大仕事だもんね。」
佐々木さんがニヤニヤ俺の顔を覗きながら言った。
まじでムカつくこの人。
「別に緊張してねーし!撮影が楽しみすぎて浮かれてる心を落ち着かせるために深呼吸しただけだよ」
「あっそ?ならいいんだけど」
そう言うと佐々木さんはスタスタと学校の入口まで行ってしまった。
「おい、ちょ、早いって!」
俺は急いで佐々木さんを追いかけて学校の校舎へ入った。
ついに始まるんだ…!俺の初の大仕事が…!
◆◇◆◇
「俺の下駄箱は……あ!ここか」
速水暖と書かれた名前プレートが上につけてある下駄箱を見つけると、俺はそこに普段から履きまくっているローファーをしまって上履きに履き替えた。別に下駄箱の場所を探すのに独り言を言う必要なんてないんだけど、撮影はもう始まっているんだし一応、ね。後ろと右横にカメラマンの気配を感じる。
うわー俺の効き顔逆なんだけどなー。
いやいや、そんなこと考えてる暇ないだろ。
しっかりしろ俺!
「ここの教室か…よし」
わざと独り言を口にしながら俺は『 1-I 』と書かれた教室札を見上げた。『 1-I 』はこの学校に本当に存在していた訳では無い。本当は1-BだったかCだったかの教室をわざわざ、I に変えたらしい。
1のI…いーあい…良い愛…っていう半ば強引な気もする語呂合わせでこうなったらしい。
ガラッ
教室のドアを開けるともう既に俺以外の七人のメンバーが自分の席に着いていた。名簿表が黒板に貼ってあったが、空いてる席は1個しか無かったから俺は名簿表は見ずに空いていた1番前の列の廊下際の席に座った。みんなの顔を見たかったが、カメラのこともあるし迂闊には見れなかった。
…ていうか今はなんの時間なんだ?みんな黙ってるし、ずっと座ってるだけだし、何する時間なんだこれ。
一応予習してきた過去の『週ここ』を思い出そうとしたが、どんな風に始まってたか緊張のせいかどうしても思い出せなかった。
ガラガラッ
「皆さんこんにちは!」
その時教室の扉が空いて眩しい程のピンクが目に飛び込んできた。全身ピンクのスーツにハートの刺繍が入ったネクタイをつけ、ピンク色のハートサングラスを着けた女性が教室に入ってきた。
…え、なんだこの人…?不審者やん。
一瞬俺はこの不審者を通報しようか悩んだが、メンバーの誰かが「うわ本物だ!」と言ったのを聞いて思い出した。
そうだった。この恋リアには進行役的な役割をしてくれる"先生"がいるんだった。
えっと、名前は確か…
「1のIへようこそ!今日から皆さんの担任になる
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