第10話 私のヒーロー
「何か手慣れてるね。」
結美が解体作業をしていると柴崎が顔を出す。
「見なくていいよ。気持ち良いもんじゃないから…。」
感情を殺した声で告げる。
「ううん。これも俺も罪だから。」
「そうだね。柴崎も罪を犯した。」
「だから今日から共犯者だね。」
やや嬉しそうに言う。
「だけど、そのお陰で美結は助かる。」
結美は体を向き直し、柴崎に土下座する。その手は赤い血がべったりついている。
「顔を上げて。俺は後悔してないです。」
血で汚れた手をとり、見つめ合う。
「だが、私はそろそろ消えなければならない。」
「えっ?」
目を丸くする柴崎。だが、窮地を救ってくれた相手に不義理は許されない。
「私は美結が精神的な負荷に耐えられず、自らのストレスを発散させる為に作った人格。本来結美という人格は存在してはならないんだよ。元々美結自身で乗り越えなくちゃいけないんだ。私の使命は美結を守ること。でもそれは同時に美結が怒ったり、悲しんだりする権利を奪うことなんだよ。人間として大事な感情を盗んでしまった。だから、これが終わったら美結に返すよ。そしたらきっと美結は今以上に感情豊かな人間に戻るはずだ。」
「でも、美結はそれを望んでるんですか?」
懇願するように問うが、結美は首を横に振る。
「自惚れでなければ、きっと美結は私を必要としてくれる。でも、この辺りが潮時なんだよ。思春期の大事な時期の一部を奪ってしまったからね。これ以上はダメだよ。だからこれらの罪は全て私が持つ。私がやった証拠と共に私は消えるよ。私が勝手にしたことだし、純粋な美結には荷が重いからね。」
苦笑いを浮かべる。
「だったら、美結はこれからどうしたら良いんですか?」
「大丈夫だよ。」
「何で?」
「だって、柴崎がいるじゃないか…。」
「――っ。」
肩に手を乗せ、目をまっすぐに見つめる。
「あの時、『もう終わりだ』と思った。美結を守るというたった一つの事もできない自分を恨んだよ。でも、その時柴崎が金属バットを持って、一振りで助けてくれた。私にとっては紛れもないヒーローだったよ。」
「で、でも、俺は、美結じゃなくて結美が好きで…。」
泣き出す柴崎。
「大丈夫。私も美結の一部なんだよ。もう表には出ないと思うけど、必ず美結の中には私がいる。だから、美結にもその思いを少しでいいから分けてくれないか?」
「ヒクッ、で、でも。ヒクッ。」
結美は柴崎を抱きしめ、柴崎は結美の胸の中で泣き続けた。
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