第9話 絶体絶命

「で、何の用?手短にね。」

 放課後、美結は小川に呼び出されていた。明らかな罠だったが、学校に通い続けるにも関わらず、ずっと避け続ける訳にもいかない。だからこそ、結美が対応することに決めたのだ。

「別に、どうしてあんたが変わったのか知りたくてね。」

 どこか演技じみた語り口で告げる。

「大したことはない。この私も元々私の一部だった。ただそれだけよ。」

「にしては、急すぎない?」

「まあ、いろいろあったからね。」

 含みのある返答に小川の顔が引き攣る。

「それだけなら、これで終わりだから。じゃあ、帰るね。」

 鞄を持ち、帰ろうとすると、

「ちょっと待って。」

 小川が引き留める。結美は足を止める。

「えーと、んー、えーと。」

 引き留めたものの、続きの言葉が出てこない。

「何?何もないなら、本当に帰るよ。」

「えーと……。お母さん元気?」

 話題がなかったから出た何気ない質問だったが、余りに芯を食った問いだった。

 結美は瞬間的に小川に詰め寄り、押し倒す。そのままポケットに忍ばせていたカッターを小川の眼球の目の前に向ける。

「なっ。」

 急な出来事に小川は息をのむ。

「動かないで。」

 静かに動きを止める。

「何を知ってる?誰から聞いた?何が目的だ?」

「し、知らない。私は何も知らない。私はただ―。」

 叫ぶように、自己弁護を始める。

「私はただ、男の人に声を掛けられて。美結のことを話しただけ。最近急に変わったって。そしたら、『手伝ってくれたらお金くれる』って。だから、美結の…その…家の鍵を。」

 そこまで言いかけたところで口を塞がれた。

「もう何も言うな。二度と私達に関わるな。」

 小川から手を離し、帰宅に向け、歩き出す。

「私がっ!!」

 先ほどの叫び声とは異なり、狂乱状態で床を叩きつける。

「私がっ、何をしたって言うのよ?いつもいつもあんたが、あんたが前みたいに馬鹿みたいに無関心な目で傍観者気取ってたら良いのよ。あんたのせいなのに、何で私が地獄みたいな生活。あんたは何者なのよ、何なんのよっ。」

 床と顔の間にカッターが突き刺さる。

「私は別に何でも良いけど、現実逃避は見苦しいよ。全ては自分のやったことのツケが返って来ただけ。小川が天国にいようが地獄にいようがどうでも良い。ただ、私達の生活を脅かしたら、次やったら、今度はソレ当てるから。」

 結美が出た教室には魂が抜けたような小川が放置されることになった。


 結美は音を立てないようにゆっくりと家に入る。玄関には知らない靴がある。

(本当に来てたんだ。)

 廊下を歩くと、仲宗根は一通り部屋を見たようで、あちこちの部屋の扉や棚が開きっぱなしになっている。

 リビングの扉を慎重に開き、中を覗くと仲宗根がいた。手元には美結が付けていた日記。

 それ以上に不適切なものがテーブルに置いてあった。頭蓋骨である。

(やるしかない。)

 覚悟を決め、気付かれないように近づく。近くにあった箒を手に取り、後ろから襲い掛かる。

 後頭部に直撃をしたが、意識を刈り取るまでは行かなかった。仲宗根は頭を押さえ、振り返る。

「美結ちゃん――。」

 再度箒で襲いかかったが、女子中学生の力では成人男性に勝つことはできず、逆に腕を掴まれ、ねじ伏せられた。

 リビングの床に横になり、その上に仲宗根が覆いかぶさっている状態だ。関節もきめられ、上手く体が動かせない。

「美結ちゃんが美奈を殺したのか…?」

(万事休すか…)

 と思ったその時、仲宗根の体から力が抜け、倒れこんできた。

 このまま違う意味で襲われてしまうのかと心配したが、そのまま美結の横に力なく崩れていった。

 ドサッと音が出た後に立っていたのは、息を切らした柴崎だった。

 手元にはべったりと血の付いた金属バット。仲宗根を殺したのは誰が見ても柴崎だった。

 柴崎が息を整え、最初の一言は

「大丈夫?」

 だった。

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