第2話 髙山結美との約束
今までも物を隠したり、心無い言葉をかけたりされ続けていた。心を殺し、ただただ一日が過ぎることを待っていた。
しかし、その日は小川の機嫌がいつもよりも悪かった。
放課後、誰もいない教室。
「お、またバカみたいな顔してんな。」
後ろから美結を蹴り飛ばし、ケラケラと笑う小川とその取り巻き。
「ほら、早く立ちなよ。ほら。」
立ち上がろうとする美結を更に蹴り倒す。
「ほら、ほらっ。まだ立たないの?このまま地面に這いつくばっておけば良いわ。さあ行きましょう。」
散々、暴力をし続けると満足したかのように立ち去っていく。
「だ、誰か…助けてよ…。」
立ち上がる気力もなく、静かに泣き崩れるしかできなかった。
気がついた時には保健室のベットの上だった。
周囲を見渡すと担任の先生である武田和也がイライラした様子で腕時計を何回も確認している。
「おっ、目が覚めたか。ったく、何教室で寝てんだよ。全く起きないから、お母さん呼んでおいたから。もうすぐ来るってよ。」
(は?寝てた?机じゃなくて床に?衣服の汚れ具合や傷からただ寝ていた訳じゃないのは分かるはずなのに…)
「先生、私…。」
「何だ?悪いが、いじめとか、人間関係とか言うなよ。何かと面倒だし、先生は今日用事があるんだ。」
母が迎えに来た瞬間、引き渡された。その帰り道も最悪だった。
「ったく、何で倒れたりするの?仕事早退しなくちゃいけなかったじゃない。私がどれだけ頭を下げたと思っているの?」
「ごめんなさい。」
私の体調を気遣ったり、優しい声をかけたりすることはなく、寧ろ責めるような言葉を吐く。
もう、私の居場所はどこにもないんだ…。どこにも…。
「ねえ、起きて。美結、起きて。」
優しく体をゆすって起床を促される。
「ん、何?」
「私だよ。結美」
起きてすぐのぼんやりした頭でゆっくり体を起こす。
ここはいつも結美と会う想像の空間だと理解する。
「どうしたの?」
「約束を果たそうと思ってね。」
「約束?」
「そう約束。覚えてない?」
「覚えて…あっ!」
「思い出した?そう、その約束。一生に一度のかけがえのない私の生きる意味。」
それは小さい頃。
「みんなー、こーんにーちはー。」
幼稚園の先生が子どもに大きなジェスチャーとともに声をかける。
多くの子どもが先生の元に集まり、期待の眼差しを向ける。
その輪に入らない子どもが一人。髙山美結である。
「どうしたの?みんなと遊ばないの?」
美結は首を横に振り、持っていた本を指差す。
「そう。美結ちゃんはヒーローが好きなんだね。」
美結は再度首を横に振る。
「じゃあ、どうしたの?」
「私が、ヒーローになるの。」
黙々と本を読み耽っていった。
それから数日後、美結は命の危機に瀕していた。
『ちょっと、数日家を空けるから。』
そんな簡易的な書置きを残して、母が家を出たのだ。恐らく男のところに行ったのだろう。
幼稚園児である美結を残し、一週間程不在になり、ご飯も、いつもは定期的に置く最低限のお金もなかった。食べ物もなく、飢えに耐えかねていた。
胃の中の寂しさのせいか精神的にも弱り、目も霞んでくる。
「おかあさん…。」
(こんな時にヒーローがいたら…)
そこからの記憶は朧気だ。そこから数日ははっきりとしない。
ただ、母が家を出た時よりも、何故か健康的だった。家も少し綺麗になった気がする。
不思議な経験をしてから更に不可解な出来事があった。
「やあ、また会ったね。」
夢の中である人物が現れるようになった。
「貴方は誰なの?」
「誰なんだろうな?」
辛いことがあると、必ず私を慰めてくれる。私の唯一の味方。
「誰と言うのが適切なのか?」
頭を傾げる。
「私は髙山美結。美しいに結ぶと書いて美結」
「そうか。じゃあ、私にも名前つけてよ。」
「うーん。」
考え込むも、幼稚園児の頭ではそれらしい名前は出てこない。必死に考えた結果、出てきた名前は
「じゃあ、『結美』で。」
「何それ。私の名前を入れ替えただけじゃん。」
「そうだよ。何か、もう一人の私みたいだね。」
「まあね。だから、美結が本当に困った時は必ず助けるよ。約束。」
「ありがとう。その代わり私は、結美をここから連れ出してあげる。」
結美は苦笑して、美結の手をとる。
「ありがとう。」
二人はその後も笑顔で話し続けたのだった。
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