第7話【装備更新】視聴者に装備を選ばせた結果
「――というわけで。今日は『散財』をしようと思う」
オーガ・ロード戦から一夜明けた、ダンジョン最下層。
俺はカメラに向かって、高らかに宣言した。
現在の所持魂貨は約1,200万。
前回の「神回」で投げ銭がバグった結果、人間界なら一生遊んで暮らせる額が貯まってしまった。
だが、ここは魔界の底。金があっても使わなきゃ、明日の死体になるだけだ。
同接は60万。今日も数字は安定している。
@魔界の一般兵:
待ってました! アキトの装備、ボロボロだったもんな
@みりおん・あいず:
お着替え回だ! スクショ待機余裕でした
@インテリ・ゴブリン:
予算1,000万超えか。軍団長クラスの装備が視野に入るな
コメント欄も期待で沸いている。
ただ、魔界のショップは選択肢が多すぎる。俺が一人で選べば日が暮れる。
だから今回の企画はこれだ。
『【参加型】視聴者が選んだ装備を、言い値で即ポチります』
「ルールは簡単。俺が欲しい条件を出す。お前らはそれに合う商品をショップから探して、コメントでプレゼンしてくれ。反応が一番多い案を買う」
ウィンドウを操作し、条件リストを表示した。
【希望条件】
・支援術師(バッファー)向けの防具
・動きやすい(回避優先)
・索敵・分析機能があればベスト
・予算:必要なら出す(ただし無駄遣いはしない)
「さあ、センスの見せ所だ。頼む」
合図した瞬間、コメント欄が加速する。魔物たちのプレゼン合戦の始まりだ。
@オーク将軍:
『剛力無双のフルプレート』はどうだ? 物理耐性SS、重量300kg。男なら鉄塊を着ろ
「重すぎて動けなくなる。却下」
@サキュバス姉さん:
『魅惑のボンテージ(メンズ用)』。防御力は紙だけど、同接は倍になるわよ?
「BANされる。却下」
@スライム伯爵:
『流体装甲スライムスーツ』。物理無効だが、着るとヌルヌルする
「精神的にキツい。保留」
ネタ装備とガチ装備が入り乱れる。
こいつら、俺の命がかかってるのに楽しんでやがるな。
だが、こういう「プロデューサー気取り」ができるのも配信の醍醐味だ。
そんな中、一際目立つコメントが流れた。
@深淵の貴婦人:
……アキト。貴方には、これが似合うはずよ。
【冥王の戦術コート(レプリカ)】
防御力よりも、「指揮官」としての機能を拡張する特注品。
商品名が出た瞬間、コメント欄の空気が変わった。
@インテリ・ゴブリン:
おい、それは……「奈落の織り手」ブランドの上位モデルじゃないか?
@魔界の一般兵:
性能はガチだけど、値段が可愛くないぞw
俺は興味を惹かれ、ショップで検索をかけた。ホログラムが表示される。
漆黒のロングコート。
素材は吸光性の高い「影の布」。肩や袖口には、魔力を増幅する銀の刺繍が走っている。
派手すぎず、かといって地味でもない。洗練された機能美――一目で気に入った。
性能欄を見る。
【冥王の戦術コート(レプリカ)】
・隠密性強化(大):気配遮断スキルと重複可能
・演算補助:戦況分析の処理速度を20%向上
・オート・マッピング機能搭載
・価格:8,500,000魂貨
「……850万。高いな」
予算内ではあるが、全財産の7割が吹き飛ぶ。
だが機能は完璧だ。「演算補助」は、0.1秒を削る俺の支援スタイルと相性が良すぎる。
@深淵の貴婦人:
貴方は前線で剣を振るう兵士じゃない。戦場を支配する「王」よ。
なら、王に相応しい服を着なさい(1,000,000魂貨)
追い魂貨までして背中を押してくるとは。
この太客、俺のプロデュースに本気すぎる。
「……分かった。これに決めよう」
装備への投資は、生存率への投資だ。ケチって死んだら元も子もない。
俺は購入ボタンを押す。
その時。
ブブッ!!
不快な警告音と共に、深紅のポップアップが視界を覆った。
【警告:高額商品の購入には『魂の契約(利用規約)』への同意が必要です】
【契約条項第1条:本装備の着用者は、週5回以上の配信活動を行うこと】
【契約条項第2条:怠った場合、装備は強制解除され、違約金として魂貨および魔力が徴収される】
「……は?」
俺は固まった。
なんだその、ブラック企業みたいな契約は。金だけじゃ足りない。俺の時間まで担保にしろと言っているのか。
@インテリ・ゴブリン:
出たな、『呪いの装備』。魔界の高性能品には、製作者の「我儘」が付与されていることが多い
@みりおん・あいず:
週5配信!? やった! 毎日アキトくんに会える!
コメント欄は盛り上がっているが、俺にとっては死活問題だ。
週5回、必ずネタを用意して命がけの配信をする。休めない。
……だが。
俺はニヤリと笑った。
「上等だ。週5? ぬるいな」
躊躇なく『同意する』を叩く。
「どうせ俺は、ここで配信するしか生きる道がない。なら、死ぬまで映り続けてやるよ」
カシャン!
承認と同時に、俺の体が光に包まれた。
ボロボロだった冒険者の服が粒子となって消え、漆黒のコートが実体化する。
裾がふわりと舞う。軽い。まるで重さを感じない。
銀の刺繍が、焚き火の光を吸って一瞬だけ淡く光った。
視界の隅には、コートの機能である『戦術マップ』と『敵性反応』がクリアに表示されている。
俺はカメラに向かって、コートの襟を正した。
「どうだ? 似合ってるか?」
@深淵の貴婦人:
……完璧よ。ゾクゾクするわ
@新人オーク:
かっけええええ!! 魔王軍の幹部みたいだ!
@みりおん・あいず:
スクショ連打した! 待ち受けにする!!
大好評だ。
鏡がないから自分では分からないが、少なくとも「地味で映えない」と言われた頃の俺とは違うらしい。
この装備があれば、もっと面白い企画ができる。もっと深い場所へも行ける。
俺の第2の人生は、順風満帆――。
そう思っていた、矢先だった。
流れる称賛コメントの中に、異質なノイズが混じった。
@勇者ファン1号(人間界ゲスト):
見つけた。ここか、裏切り者のチャンネルは
ピタリ、と俺の思考が止まる。
翻訳が働いていない。日本語が、そのまま流れた。
アカウント名の横には、外部接続を示す『人間界アイコン』が付いている。
@正義の執行者(人間界ゲスト):
勇者パーティの邪魔をした挙句、魔物に媚び売って金稼ぎか?
恥を知れよ、落ちこぼれ
一つ、また一つ。
悪意に満ちた言葉が、パラパラと増え始める。
魔界のコメント欄という「聖域」に、泥足で踏み込んでくる侵入者たち。
……来たか。予想より早い。切り抜きがバズれば、嗅ぎつける奴も出る。
俺は眉をひそめた。
だが、焦りはない。
ここ(魔界)の民度と治安維持能力(モデ)を、人間たちは舐めている。
「……おっと。どうやら、マナーの悪いお客様が紛れ込んだらしいな」
冷めた目でカメラを見据える。
新しいコートの初仕事が、まさか「害虫駆除」になるとは。
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次回:『【炎上】人間のアンチが来たのでログ公開します』
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