第8話 【炎上】人間のアンチが来たのでログ公開します



 せっかく新調した『冥王の戦術コート』のお披露目だったのだが。


 コメント欄は、泥のような悪意で汚されていた。


@勇者ファン1号(人間界ゲスト):

 追放された腹いせに魔界で活動とか、プライドないの?


@正義の執行者(人間界ゲスト):

 寄生虫が。勇者様のおかげで飯食えてたくせに


@匿名希望(人間界ゲスト):

 この装備もどうせ詐欺だろ。エフェクトで誤魔化してるだけ


 パラパラと増え続ける、人間界からのアンチコメント。


 翻訳機能が働かず、日本語がそのまま流れているせいで、余計に目立つ。

 魔界の視聴者たちは、突然の異物混入に戸惑っていた。


@みりおん・あいず:

 なにこいつら。アキトくんの知り合い? ……BANしていい?


@魔界の一般兵:

 言葉は分からんが、敵意だけは伝わってくるな


 空気が悪い。


 このまま放置すれば、俺の配信(ホーム)が荒らされる。


 かといって感情的に言い返せば相手の思う壺だ。「効いてるw」と煽られて炎上が加速するだけ。

 だから、俺はあくまで「配信者」として振る舞うことにした。


「……やれやれ。お客様の中に、少し熱くなりすぎている方がいるみたいだな」


 ため息を一つ吐き、カメラに向かって大仰に肩をすくめる。


 新しいコートの襟を正し、冷徹な指揮官の顔(ロール)を作った。


「いい機会だ。新規の視聴者――人間界の方々にも、俺の立ち回りを説明しておこうか」


 空中にウィンドウを展開する。


 デモン・チューブの標準機能、『アーカイブ比較(ログ・コンペア)』。


「口で言っても伝わらないだろうからな。映像とログで見比べよう」


 2つの動画を並べて再生した。


【左画面】:昨日の俺の配信。オーガ・ロード級の中ボスをノーダメージで沈めた回。

【右画面】:人間界の動画サイトから引っ張ってきた、元パーティ『ライトニング・スター』の最新配信。オーガ系ボスと泥仕合しているアーカイブだ。


「さあ、見比べてくれ」


 映像が動き出す。


 左の俺は、一歩も動かずにケルベロスを支援し、コンマの差で敵を潰している。

 対して、右の勇者パーティは――。


『ぐわあああああっ!?』

『回復! 早くヒール回せ!』

『硬ってぇ! 全然削れねえぞ!』


 泥仕合だった。


 勇者は棍棒で吹き飛ばされ、魔法使いの炎は狙いを外し、前線が崩壊している。

 結局、倒すまでに20分近くかかり、全員がボロボロになっていた。


 結果は一目瞭然。


「左が『寄生虫』の指揮。右が『勇者様』の指揮だ」


 俺は淡々と事実だけを告げる。


「俺は効率を愛してる。無駄な被弾、無駄な魔力消費、無駄な時間。全部削ぎ落とした結果がこれだ」


 コメント欄の空気が、一瞬で反転した。


@インテリ・ゴブリン:

 残酷なまでの差だな。右の連中、戦術のイロハも分かっていない


@オーク将軍:

 右の動画、見ていて不快だ。なぜそこで回避しない? なぜ支援が入らない? 素人か?


@深淵の貴婦人:

 ……汚い映像ね。アキトの美しさが際立つわ


 魔界の住人は実力主義だ。

 「どっちが上か」なんて、議論するまでもない。


 アンチたちが焦り始めたのが分かった。


@勇者ファン1号(人間界ゲスト):

 た、たまたまだろ! 勇者様は本気出してないだけだし!


@正義の執行者(人間界ゲスト):

 お前が抜けたせいで連携が乱れてるんだよ! 責任取れ!


「責任? クビにしたのは向こうだぞ」


 鼻で笑った、その時。ひとつのコメントが目に留まった。


@魔法使いの弟子(人間界ゲスト):

 調子に乗るなよ。お前が裏で『魔力偽装』を使ってたこと、バラしてもいいんだぞ?


 ……は?


 魔力偽装? なんだその言いがかりは。俺はそんなスキル持っていない。

 だが、その言葉には既視感があった。


 昔、元パーティの魔法使いが「あいつ、地味な割に魔力持ちすぎじゃない? 絶対なんかズルしてるって」と陰で言っていたのを思い出す。

 俺は目を細めた。


 こいつ……ただのアンチじゃないな。


「へえ。『裏』ね」


 俺はカマをかける。


「そんなデマ、パーティの関係者でもなきゃ出てこないはずだが……あんた、誰から聞いたんだ?」


@魔法使いの弟子(人間界ゲスト):

 っ!? ち、違う、これはネットの噂で……!


 反応が分かりやすすぎる。


 図星か。取り巻きか、関係者か。どちらにせよ、ボロが出た。


「まあ、誰でもいいさ。ただ――」


 俺はウィンドウを閉じ、冷ややかに告げた。


「ここは俺のチャンネルだ。マナーの守れない客には、退場願おうか」


 管理者権限を開き、暴れている人間界アカウントを選択する。


 《BAN(永久追放)》。

 ポチッ、と軽い音でボタンを押した。


System:

 対象アカウントの『悪意ある侵入』を確認。

 デモン・チューブ規約に基づき、対象のアクセス権を剥奪します。

 ――Penalty:Soul Link Break(魂紐遮断)


 シュンッ、シュンッ、シュンッ!


 アンチたちのコメントが、吸い込まれるように消えていく。

 ただ消えるだけじゃない。以後、同じ経路からは入れない――そんな仕様らしい。

 一掃されたコメント欄に、いつもの平和が戻ってきた。


@みりおん・あいず:

 あー、スッキリした! ゴミ掃除おつかれー!


@魔界の一般兵:

 アキトの「退場願おうか」の声、低音でゾクッときた


@深淵の貴婦人:

 賢明な判断ね。虫の相手をするには、貴方の時間は高貴すぎるわ(500,000魂貨)


 称賛と共に、再び魂貨が降り注ぐ。


 俺はふぅ、と息を吐いてコートの緊張を解いた。

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