第6話 【神回】中ボス戦を“支援だけ”で完封してみた



 地響きと共に、巨大な影が降り立った。


 身長4メートル。全身が鋼のような筋肉に覆われた赤肌の巨人。


 手には、大木をそのまま引っこ抜いたような棍棒が握られている。

 この階層の中ボス――オーガ・ロード。


 本来ならBランク冒険者6人がかりで挑む「壁」だ。

 対する俺は、武器すら持っていない。


 ただ、ポケットに手を突っ込んで立っているだけ。

 同接は55万。


 緊張感でコメントの流れが速い。


@魔界の一般兵:

 おいおい、本当にやるのか? オーガ・ロードの一撃は岩盤を砕くぞ


@弱気なゴースト:

 見てられない……アキトさん逃げて……


@インテリ・ゴブリン:

 戦力差は歴然だ。まともにやり合えば、ひき肉になる


 心配性の視聴者たちだ。


 俺はカメラに向かって、軽く手を振った。


「心配いらない。言ったろ? 俺は指一本触れさせないって」


 足元で欠伸をしている「相棒」の背中を、ポンと叩く。


「出番だぞ、ポチ(仮)」


「グルァッ!」


 三つの首を持つ地獄の番犬・ケルベロスが、のっそりと立ち上がった。


 第2話で懐柔して以来、こいつは俺のテントの前で番犬をしている。

 オーガ・ロードが、格下の魔獣の登場に侮蔑の鼻息を漏らす。


「グオォォォォォッ!!」


 咆哮と共に、オーガ・ロードが突っ込んできた。


 速い。巨体に似合わない敏捷性。


 丸太みたいな棍棒が、ケルベロスの脳天めがけて振り下ろされる。

 直撃すれば即死コース。


 だが、俺は動かない。ただ、その瞬間を待っていた。


(……3、2、1。今だ)


 指先が、目に見えない速度で印を結ぶ。


「――《シールド(物理障壁)》、展開位置:頭上3センチ、範囲:極小」


 ドォォォォォォォン!!


 爆音。衝撃波が砂煙を巻き上げた。


 視聴者の悲鳴がコメント欄を埋め尽くす――はずだった。

 だが、砂煙が晴れた先には信じられない光景があった。


 ケルベロスは無傷で立っていた。


 対して、オーガ・ロードの棍棒が根元から粉々に砕け散っていたのだ。


「グ、オ……!?」


 巨人が呆然と自分の手を見つめる。何が起きたのか理解できていない。


@新人オーク:

 は!? 今、何が起きた!? ケルベロスが硬すぎたのか?


@インテリ・ゴブリン:

 ……違う。今の映像ログを見たか?

 棍棒が当たるコンマ1秒前、接触点(インパクト)の一点だけに障壁を展開したんだ!


@インテリ・ゴブリン:

 全身を覆うバフじゃない。範囲を極限まで絞って強度を跳ね上げ、衝撃を「跳ね返した」。

 これは支援魔法じゃない……「物理現象の書き換え」だ!


 解説、感謝する。


 そう、俺の支援術は「張りっぱなし」にはしない。燃費が悪いし、光って邪魔だからだ。


 必要な瞬間、必要な場所にだけ最強を置く。それでいい。


「さて、武器は壊した。次は反撃といこうか」


 俺は指を鳴らした。ケルベロスが地を蹴る。


「――《マッスル・ブースト(筋力爆発)》×《ソニック・ステップ(加速)》。効果時間:0.5秒」


 ドンッ!!


 大気が破裂する音がした。


 次の瞬間、ケルベロスの姿が消えた。

 ――いや、カメラのフレームレートすら置き去りにする速度で、巨人の懐に飛び込んでいたのだ。

 三つの首が同時に、オーガ・ロードの喉、心臓、太腿に食らいつく。


「ガアアアアアアッ!?」


 巨人が悲鳴を上げる暇もなかった。


 俺が付与したのは、単なる筋力強化じゃない。


 「貫通」を乗せた牙は、鋼の筋肉を豆腐みたいに引き裂いた。

 ドサァッ……。

 数秒後。


 この階層の王は、一度も俺に触れることなく沈黙した。

 静寂。


 そして、爆発。


@魔界の一般兵:

 うおおおおおおおおおお!! 瞬殺!? オーガ・ロードを瞬殺だと!?


@みりおん・あいず:

 アキトくん一歩も動いてない! ただ立ってただけなのに、戦場を完全に支配してた……かっこよすぎ……!(同接+40,000)


@サキュバス姉さん:

 指揮官としての能力が桁違いね。貴方に指示されたら、私でも魔王に勝てそうな気がしてくるわ(30,000魂貨)


 画面が称賛の嵐で埋め尽くされる。


 元パーティでは「何もしない寄生虫」と呼ばれた俺の立ち回り。


 だが、ここでは「戦場の支配者」として映る。


「……ふぅ。お疲れ、ポチ」


 駆け寄ってきたケルベロスの顎を撫でてやりながら、息を吐いた。


 疲労はない。魔力消費も最小限。これが、俺の求めた「効率」の完成形だ。

 その時。


 視界いっぱいに、金色の通知が踊った。いつもの着金音とは違う、重厚なシステム音。


『――緊急速報:急上昇ランキング【総合1位】に到達しました』


『同時接続数が過去最高記録を更新』


『「神回」タグが自動付与されました』


 数字が、壊れたみたいに跳ね上がっていく。


 55万……60万……70万。

 俺の配信は、今日この瞬間、魔界のメインストリームになったらしい。

 だが、通知はそれだけでは終わらなかった。


 続けて表示されたウィンドウを見て、俺は少しだけ眉をひそめる。


『システム:あなたの配信に、魔界の有力者たちが注目しています』


『新規クエスト発生:【視聴者からの装備指定依頼】』


 ……どうやら、目立ちすぎたらしい。


 数字が増えれば、面倒なしがらみも増える。


 まあ、今の俺ならそれさえ「ネタ(飯の種)」にできるか。


「今日はここまでだ。……凄いのが届いてるから、次回はこいつを開封してみようと思う」


 俺は意味深に通知画面をチラ見せして、配信終了ボタンに指をかけた。


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次回:『【装備更新】視聴者に装備を選ばせた結果』


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