第5話 【雑談】追放の理由を話したら魔界が静かにキレた
焚き火の爆ぜる音が、BGM代わりに響いている。
極上のステーキを平らげた俺は、食後のコーヒー――と称して煮出した謎の黒い香草茶を飲みながら、カメラに向き合っていた。
同接は50万の大台に乗った。
コメント欄の流れも、少し落ち着いている。みんな、俺の言葉を待っていた。
「……さて。飯も食ったし、少し込み入った話をしようか」
マグカップを置き、淡々と切り出す。
「コメントでも結構聞かれてたな。『なんでそんな技術があるのに、こんな場所にいるんだ』って」
隠すようなことじゃない。
これからここで配信を続けるなら、スタンスをはっきりさせておいた方がいい。
「結論から言う。クビになったんだ。勇者パーティを」
俺は余計な感情を挟まないよう、事実だけを並べた。
「向こうは“映え”優先。俺は“効率”優先。噛み合わなかった」
「地味で数字が取れないって言われた」
「で、手切れ金代わりに――ここへ落とされた」
「ま、そんなわけだ。俺の魔法は人間界の配信じゃ需要がなかった。それだけの話」
自嘲気味に笑って、話を締める。
「ドンマイ」くらいの慰めが来れば御の字だと思っていた。
だが。
コメント欄は、奇妙なほど静まり返っていた。
いつもなら秒速で流れるログが、ピタリと止まっている。
同接は落ちない。なのに、文字だけが消えた。
通信エラーか?
そう思った直後、重苦しい長文が、ゆっくりと流れ始めた。
@インテリ・ゴブリン:
……理解に苦しむ。
「映え」のために、生存率直結の支援(バフ)を捨てる?
それは戦術ではない。ただの自殺志願だ。人間の知能はオーク以下なのか?
@魔界の一般兵:
俺たち魔族だって、部下の命を預かる隊長は一番有能な奴がやるもんだ。
「地味だから」で参謀を捨てるなんて、魔界じゃありえない
@死霊魔術師見習い:
その勇者とやら、魂の形が歪んでそうですね。
研究素材として興味があります(婉曲表現)
怒っていた。
瞬間的な炎上のような怒りじゃない。
実力主義の魔界の住人として、非合理な判断を下した勇者たちへの、底冷えするような軽蔑と怒りだ。
ふと、画面全体を覆うような深紅のフレームが表示された。
@深淵の貴婦人:
アキト。
貴方は「需要がなかった」と言ったけれど、それは間違いよ。
宝石を石ころと勘違いして捨てた、愚か者がいただけの話。
@深淵の貴婦人:
貴方はここで輝いているわ。私たちが保証する。
貴方は、誰よりも美しい魔法使いよ(500,000魂貨)
その言葉を皮切りに、止まっていたコメントが一気に加速した。
@みりおん・あいず:
……静かに怒ってるの、逆に怖い。でも大丈夫。アキトくんは私たちが推す(10,000魂貨)
@魔界の一般兵:
そうだそうだ! こっちに来て正解だろ!
@オーク将軍:
我らの“参謀”を侮辱するとは……愚か
チャリン、チャリン、チャリン!!
肯定の言葉と一緒に、無数の魂貨が降り注ぐ。
「…………」
俺は少しの間、言葉に詰まった。
喉の奥が熱い。
ずっと、心のどこかで「俺が間違っていたのか?」と思っていた。
派手なエフェクトを出せない俺は、配信者として欠陥品なんじゃないかと。
でも、こいつらは否定してくれた。
俺の技術を、俺の選択を、価値あるものだと認めてくれた。
「……はは。ありがとな」
目元を少しだけ拭って、照れ隠しに茶を啜る。
苦いはずの茶が、今はやけに甘く感じた。
「よし。湿っぽい話はこれで終わりだ。……ついでに、一つ面白いものを見せてやる」
手元の操作で、空中に別のウィンドウ(サブモニター)を展開した。
映し出されたのは、人間界の動画サイト。
俺を追放した元パーティ『ライトニング・スター』が、今まさに配信している生放送だ。
タイトルは『【攻略】中層のミノタウロス、サクッと倒します』。
画面の中では、勇者が大剣を振り回し、魔法使いが派手な爆炎を放っている。
一見すると華やかだ。
だが、プロの目から見ればボロが出ていた。
「おっと、危ない」
勇者がミノタウロスの斧を受け止めようとして、大きく体勢を崩した。
以前なら、俺が《インパクト・アブソーブ(衝撃吸収)》を合わせていたタイミング。
だが今の彼らに、その支援はない。
「ぐわっ!? ちっ、回復遅えよ!」
「えっ、あ、ごめん!」
勇者が吹き飛び、回復役(ヒーラー)に怒鳴り散らす声がマイクに入る。
連携がガタガタだ。俺という“潤滑油”が抜けたことで、歯車が噛み合わなくなっている。
人間界側のコメント欄も荒れ始めていた。
(人間界)視聴者: 今日なんか動き悪くない?
(人間界)視聴者: 被弾多すぎ
(人間界)視聴者: いつものキレがないぞ
(人間界)視聴者: ていうか、あの地味な支援の人どこ行ったの?
俺はそっとウィンドウを閉じた。
これ以上見る必要はない。俺はもう、あの場所に戻らない。
「さて、俺たちは俺たちの配信をしようか」
カメラに向き直り、ニヤリと笑う。
元パーティの配信を見たあとだ。本物の「支援」を、見せつけたくなってきた。
「次回は戦闘回だ。この階層をうろついてる中ボス――『オーガ・ロード』を狩りに行く」
「もちろん、俺は剣なんて振らない。支援術師(バッファー)らしく、指先ひとつで完封してやるよ」
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次回:『【神回】中ボス戦を“支援だけ”で完封してみた』
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