第4話【飯テロ】魔界食材でキャンプ飯(※叫び声あり)


 ダンジョン最下層に、肉の焼ける香ばしい匂いが漂っていた。


 俺、アキトは購入したばかりの『魔界式ステルス・テント』の前で、焚き火を囲んでいた。

 現在の同接は45万。


 戦闘も検証もない、ただ飯を作るだけの配信だ。


 なのに、数字は落ちるどころか微増していた。


「よし……火加減はこんなもんか」


 手元には、さっき解体したばかりの食材がある。


 道中で襲ってきた『キラー・ラビット(首狩り兎)』の腿肉と、岩場に生えていた『デッド・マンドラゴラ(怨嗟の根菜)』だ。


 問題は、この野菜の方。


「ギャアアアアアア!! 呪ってやる! 食ったら内臓から腐らせてやるゥゥ!!」


 マンドラゴラは、まな板の上で激しく暴れながら、怨詛の言葉を叫び続けていた。


 うるさい。非常にうるさい。

 コメント欄も若干引いている。


@弱気なゴースト:

 食材の自己主張が激しすぎる。これ、本当に食えるの? 逆に食われない?


@魔界の一般兵:

 デッド・マンドラゴラは猛毒だぞ。そのまま食ったら即死だ


 魔界の住人にとっても、こいつは危険物らしい。


 だが俺には、支援術師(バッファー)としての知識がある。毒と薬は紙一重。適切に処理すれば、こいつは極上のスタミナ食材に化ける。


「うるさいから、まずは黙ってもらうか」


 俺はナイフを構え、左手で魔法の印を結んだ。


「――《サイレント・フィールド(静寂結界)》、対象:まな板の上」


 フッ、と音が消えた。


 マンドラゴラは口を大きく開けて叫んでいるようだが、一切の声が聞こえない。

 間髪入れずに、もう一つ重ねる。


「――《ヒート・ショック(熱衝撃)》」


 一瞬だけ、芯へ強い熱を通す。


 ビクン! とマンドラゴラが硬直し、暴れが止まった。


 毒の反応を飛ばし、発声の勢いも鎮める――下ごしらえだ。

 俺は動かなくなったマンドラゴラを、手際よく薄切りにしていく。


 ザク、ザク、ザク。


 小気味よい音と一緒に、透き通るような断面が現れた。


@インテリ・ゴブリン:

 見事だ。結界で暴れを止め、瞬間加熱で毒素反応を消したな。これなら安全圏だ


@サキュバス姉さん:

 あの叫び声を一瞬で……アキトくん、意外とドSね♡(5,000魂貨)


 変な誤解を受けつつ、俺は調理を進める。


 熱した鉄板に、保存していた獣脂を落とす。

 ジュワァァァ……ッ!

 脂が溶ける音と共に、食欲をそそる香りが爆発的に広がった。


 そこに塩胡椒で下味をつけたラビット肉を投入する。


 ジューーーーーッ!!


 最高の音だ。


 表面がこんがりと狐色に変わり、肉汁が滲み出てくる。


 続けて、スライスしたマンドラゴラを投入。肉の脂を吸わせるように炒め合わせる。


「……いい匂いだ」


 俺は思わず喉を鳴らした。


 カメラを近づけ、鉄板の上で踊る肉と野菜をアップにする。


 脂が跳ね、湯気がレンズを曇らせる。匂いまで伝わりそうな破壊力だ。

 コメント欄の流速が、明らかに加速した。


@オーク将軍:

 ゴクリ……美味そうだ。我々はいつも生肉を食らうだけだが、焼くというのも文化だな


@みりおん・あいず:

 やばいやばいやばいお腹空いた!! アキトくんの料理食べたい食べたい食べたい(同接+10,000)


@深淵の貴婦人:

 優雅なディナーね。最下層という地獄が、貴方の手にかかるとレストランに見えるわ(100,000魂貨)


 チャリン! という高額通知と共に、画面が赤く染まる。


 ……深淵の貴婦人、飯を食ってるだけで投げ銭してくれるのか。ありがたいが、金銭感覚が心配になる。


「よし、完成だ。『最下層風、首狩り兎のガーリックステーキ』」


 焼き上がった肉を皿に盛り、カメラの前でナイフを入れた。


 スッ、と抵抗なく切れる柔らかさ。断面から肉汁が溢れ出す。

 一切れフォークに刺し、口へ。


「……うん、美味い!」


 噛み締めた瞬間、濃厚な旨味が口内に広がった。


 魔界の生物は魔力を大量に含んでいるせいか、人間界の肉より味が濃い。


 マンドラゴラはサクサクした食感で、ニンニクに近いパンチのある風味だ。肉の脂っこさを完璧に中和している。

 疲弊した体に、熱いエネルギーが染み渡っていくのが分かる。


 ステータス画面を見ると、《スタミナ回復》《魔力活性(小)》のバフアイコンが点灯していた。


「参考までに言うけど、デッド・マンドラゴラは猛毒だ。真似するなら、耐性と下処理が前提な」


@魔界の一般兵:

 いや、処理できるのがお前だけなんだよw


@スライム伯爵:

 これを見ていたら、人間界の保存食(レーション)が砂利に見えてきた。責任取ってくれ(1,000魂貨)


 画面右上の同接カウンターを見る。


【同接:482,055】


 50万が目前だ。


 ただ飯を食っているだけで、これだけの数が集まる。殺伐とした魔界において、こういう「平和な映像」は逆に希少なのかもしれない。

 俺は焚き火の暖かさを感じながら、久しぶりに心安らぐ時間を過ごしていた。


 追放された直後はどうなるかと思ったが……意外と、ここでの暮らしも悪くない。

 そんなことを考えていた、その時。


 視界の端に、見慣れないシステム通知がポップアップした。


『お知らせ:あなたの配信クリップが、外部ネットワーク(人間界)で急上昇トレンド入りしました』


「……は?」


 俺は肉を噛む動きを止めた。


 人間界?


 ここ(デモン・チューブ)は魔界専用の回線のはずだ。人間が見られるわけがない。

 だが、通知は続く。


『検索ワード急上昇:「謎の覆面配信者」「最下層の飯テロ」「勇者パーティより面白そう」』


 ……どうやら、魔界の誰かが俺の配信を切り抜いて、人間界の動画サイトに転載したらしい。


 しかも、それがバズり始めている。

 今の俺には関係ない――と言い切りたいが、嫌な予感がした。


 火種は、いつだって勝手に大きくなる。

 俺は残りの肉を口に放り込む。今は、この美味さを堪能するのが先決だ。


「ごちそうさん。……さて、腹も満たしたし、次は少し真面目な話をしようか」


 空になった皿を置き、焚き火の炎を見つめながら呟いた。


 そろそろ視聴者も気になり始めているはずだ。なぜ、俺があんな形で追放されたのかを。


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次回:『【雑談】追放の理由を話したら魔界が静かにキレた』



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