メイドとして雇われた私、王子様への愛を隠す

咲山けんたろー

短編

 アメイエル宮殿。



 ここは、私――メデュナの勤務場所。



 世界の中心とも言われるこの宮殿には、三千人以上の人々が働き、暮らしている。



 現在の国王は、レオス・ユジャール。

 まもなく還暦を迎える彼は、世代交代を控えていた。



 おそらく、次の国王となるのは――。



 私の目の前を通り過ぎていく、その人。

 大量の洗濯物を両腕に抱えながら、私はその隙間から彼の姿を盗み見る。


 彼の周囲には、十数人の兵が並んでいた。

 重たい鎧の音が、規則正しく廊下に響く。

 その音を聞けば、誰が通るのかすぐに分かる。


「殿下、こちらが本日のご予定でございます。十四時より国王陛下との対談、十五時には書物のお勉強。その後――」


 傍付きの声が続く。


「いつもありがとう。感謝するよ。次の対談が控えている。急ごう」


 穏やかな声。

 銀色のふわりとした髪に、長く青いマント。

 無駄のない、整った佇まい。


 彼――ヴィアン・ユジャールは、次の国王になる人だ。

 今はまだ、アメイエル宮殿の王子。

 ……なのに私は、そんな彼を、こっそりと想っていた。





 ※ ※ ※


「ありがとうございます!」


 10年前。私が10歳の時。普段のご褒美のために、街中で話題になっているメロンパンを買った時だった。


 生まれ育った故郷・ナーヴァンは、あまり栄えているほうではなかったが、期間限定で隣町の店が置いてあったのである。



 ボブヘアの直毛を左右に揺らしながら、家族の分を購入し、スキップをしながら帰った。



 ドン!!!




 何者かにぶつかってしまう。



「おい! どこ見て歩いてるんだよ!このクソガキ!!!」

「ぶつかってケガしたんだけど。痛てぃな〜?」


 ガラの悪そうな成人男性二人組に絡まれてしまった。ガタイは大きく、逃げようにも逃げられない。視界が彼らで埋まってしまったのだ。


 ぶつかった衝動で、メロンパンが地面に転がる。


「ごめんなさい。わざとじゃないです…。」



「ああん!? テキトーなこと言ってんじゃねえよ。」


「かーね。 治療費出せよ。 ガキ。」


 その時、もう一人の男が転がったメロンパンに反応する。


「なんだこのパン。」


「やっすそうなパン。いかにも不味そうだし。」


 2人は口々に笑い出し、面白おかしく、その汚い靴で何度もパンを踏みつけた。


 パンはまるで感情があるかのように、砂や泥をかけられては重曹で大きくなる。

 痛さに必死に耐えているようにも見えた。




 カチンときた。





 私の家は決して裕福なほうではなく、お昼は薄いスープだし、夜はパンとサラダとコーンスープのみだった。


 そのため、間食にメロンパンだなんて贅沢な話である。


 なのに…。なのに…。




 そんな私たちの小さな幸せを、こんなやつに壊されるなんて。



 冗談じゃないわよ。




 踏みつけながらゲラゲラ笑う2人、を私はきつく睨みつけた。


 そして、視線を地面に映し、汚いメロンパンを手に取る。




 近くで見るとやっぱり泥だらけ。これ、1個銀貨3枚(日本でいう600円)したというのに。


 手に取ったパンをきつく握りしめ、私は男の口に思い切りつっこんでやった。




「ゔぐっっ……!!」



「そんなに食べたいなら、口に入れてあげるわよ。その汚い性格にそっくりね!!!」


「このクソガキ……!!」



 その時、背後から人の気配がした。



「キミ危ないよ!」


 何事かと後ろを振り返ると、いかにも身分が上の少年の姿だった。



「え…?どういうこと…。」




「いいから!!! ほら!! ついてきて!!」



 そう彼に手を取られ、私たちは遠くへ走り出す。


 後ろを振り返ると2人の男の姿は遠ざかって言った。



 尋常ではない速さ。足が思うように回転できずに、転びそうになってしまう。








「ふぅー…。ここまで来れば大丈夫でしょ。」


「あの…あなたは…?」


「キミ、ここの街の人?」


 少年はそういいながら、私の服装に目を向ける。


 きっと、この街の割には質素な服装をしていると思われたんだ。




「…貧乏人で悪かったわね。お金なんてものはないから。ほかを当たって。」



「あっははは!!! キミ、面白いね!! センスある!!」


「はぁ?」



 この男は何を言ってるんだろう。



「オレのこと知らない? 」


 そう言って、名刺のようなものを取り出す。


 手に取ると、そこには顔写真つきの証明書だった。




 アメイエル宮殿・第一王子ヴィアン・ユジャール。


 目を丸くした。


 このお方は、我が国・ヒュルトン王国の国王様の息子である。




「申し訳ありません…!! 私ってば何と無礼な…!!」


 私はその場で跪き、顔を地面に伏した。


 手が震える。


 私はなんと失礼なことをしたのだろう。


「あっははは!! さっきのキミはどこいったのさー! 顔をあげてよ。オレは面白い人を見つけて、ワクワクしてるんだから。あと、敬語やめてね。」



「面白い?」


「どんな人にも立ち向かうそんな勇敢な姿! 普通あんなゴリゴリな男たちに立ち向かえないよ。素直にすごいと思った。」



「……それはどうも。」



「オレは色んな街の視察に来たんだよ。 父上が自由に見てきていいと、そう仰るからね。なかなか見る機会がないから新鮮だよ。そうか〜。宮殿内しか見えていなかったから、こういう風に治安が悪化しているところもあるんだな。継いだ暁には、オレが新改革を進めないと。」



「大変なのね。応援してる。私たち貧乏人の暮らしももっと豊かにしてちょうだい。」


「えーーーー!?? それだけ!?」



「…はぁ?」



「キミも宮殿においでよ!!キミみたいな庶民の声もぜひとも取り入れたい。高貴な身分だけじゃなくて、色んな身分が混ざったほうが一人一人が暮らしやすくなると思うんだよね。」



「いや、私はお金がないし、学べる環境もないから…。」


「はい!!名前は!?」


「えっ…。」


「ほーら。早く早く!」



「…メデュナ。」


「おっけーおっけー! じゃあ、これはオレがスカウトしたということで!はいこれ!」



 紙に書かれてたのは、メイド募集の文字。


「えっちょっと…これ…」



「ぜひ宮殿においでよ!!! オレもいるしさ!! もっとキミのこと知りたいから! 生まれ育った故郷のこと、もっと聞かせて!!」





 恋に落ちた。




 一瞬で恋に落ちた。



 王子のあの明るい笑顔に。



 身分の高い人のことは嫌いだった。私たちの生活なんて見向きもせずに、自分のことばかり考えて好きなようにのうのうと生きているから。



 だから、予想もしていなかったこの感情に、私は戸惑いを覚えたのである。


 彼は、その笑顔のまま、走って何処かへ行ってしまった。



 そして、再び彼からもらった紙を目をする。



 私のことが面白い、か――――。



 ※ ※ ※


 現在、私は20歳になった。


 彼をたまにみかけることがある。姫様の部屋の掃除をしているときに、廊下を通りかかったり、お食事の準備をしているときにも、たまに目が合ったり。



 それだけ、それだけで幸せだった。


 だって、こんななんにもない私を『面白い』と、『宮殿に来てほしい』と認めてくださったお方だったから。



 でも、それだけ。


 彼は、宮殿のお姫様である、アリア・キャーマン様との婚姻が決定している。


 つまり、彼には生まれたときから、もう、婚約者が決まっていた。


 メイドという立場の私は、何もすることができない。規定通りに、掃除やお食事の準備、ドレスの着付けをするだけ。



 私が、ヴィアンと結ばれる世界線はないのだから。



「メデュナ。いつもありがとう。今日もあなたがドレスを選んでくださったの?」



 そして、今日―――。


 アメイエル宮殿内で年に1回開催される、舞踏会。


 まあ、実際は王子と姫の仲を深める行事に過ぎないのだが。


 アリア姫は、今年で16になる。結婚は18。



「もちろんですよ。アリア姫。今日も素敵です。今からおめかしをしますね。」



 私は彼女に、そうニコニコと笑顔を作る。


 お世辞でなく、彼女は美しい。

 地毛の金髪はくるくると巻き、小さなりぼんが飾られて、華やかさが目立つ。桜色のドレスは、彼女のために作られたかのように更に輝いて見えた。



 本当は、私だって――



 そう何度も思いが募ることがある。



 でもだめなんだ。私はメイドだから。身分が下だから。


 好きになった時には、もうすでに婚約者がいたのだから――――。



「ねえ、メデュナ。私は本当にあのお方と結婚するのでしょうか?」



「どうしてそんなことを仰るのですか。お二人はお似合いだと思いますよ。」






 嘘つき。


 自分が一番、ヴィアンとお似合いになりたいと思ってるくせに。


 隣にいたいのは私のくせに。





 日に日に嘘が上手くなっていって、いつも私は、姫の背中を押すことばかり考えていた。





 そして迎えた、舞踏会の夜。


 アメイエル宮殿の大広間は、別世界のようだった。


 天井には無数のシャンデリアが吊り下げられ、無数の光が床に反射して、まるで星空の中に立っているかのように錯覚する。


 壁際には貴族たちが並び、色とりどりのドレスが揺れる。

 宝石のきらめき、香水の甘い香り、弦楽器の音色。


 すべてが華やかで、息が詰まりそうだった。


 私は壁際に控え、給仕と見回りを担当することとなった。


 メイド服の裾を整え、背筋を伸ばす。





 ――見ないようにしなければ。






 そう思っているのに、視線は勝手に彼を探してしまう。


 やがて、会場のざわめきが一段落し、音楽が変わった。







 王子の入場だ。






 銀色の髪は丁寧に整えられ、深い青の正装がよく映えている。

 マントの刺繍は金糸で縁取られ、歩くたびに静かに揺れた。



 その隣には――





 淡い桜色のドレスをまとった、アリア姫。

 二人が並んで歩く姿は、誰がどう見ても「絵」だった。




 完璧で、正しくて、非の打ちどころがない。

 胸の奥が、きゅっと縮む。


 痛くて、苦しい。




 音楽が変わり、最初のダンスが始まる。

 王子は姫に手を差し出し、アリア姫は少し照れたように微笑んで、それを取った。




 拍手。




 二人は音楽に合わせて、ゆっくりと踊り始める。


 私は、その光景から目を逸らしてまう。



「メデュナさん、どうかしました?顔色が悪いですよ。」


 同じ担当の女性が、小声で私に話しかける。


「い…いえ…なんでもありません。お二人が美しすぎて、つい…。あはは…。」




 女性はぽかんと口を空けている。そうは見えないと思ったのだろう。





「少し、外の空気を吸ってきます。すぐ、戻りますから。」





 そう言ったことを最後に、広間をあとにした。




 コッ…コッ…コッ…。



 ヒールで歩く音だけが鳴り響く。


 誰もいない宮殿は閑としている。みんな広間にいるだろうが、私には、今の自分の心の中のようだった。


 ぽっかり穴が空いたような。そんな気持ち。







 わかってたじゃない。こんなこと、最初から、出会ったときから―――。






 そして、ふとふと窓から見える美しい星々を見つめた。


 今日は星が綺麗だ。あれは、なんていう名前だろう。あっ、月も美しい。今日は満月だな。




 宮殿の庭には、美しい百合が咲いている。











『百合?』



『そう。きれいでしょ?オレが植えたくて上の者に頼んだんだ。』



『あーびっくりした。私、花だったら百合が一番好きなの。てっきり私のためかと。』


『あっはは!!何言ってるんだ。キミはいつだって、オレの想像を超えてくるね。じゃあそうしよう!いまから!』



『今から?』


『この百合は、メデュナのために植えたってことで!メイド試験、合格おめでとう!』











 また10年前のことを思い出した。

 彼が私の合格を特別にお祝いしてくれたっけ。


 私の冗談交じりに言った言葉も、いつも笑ってノリに乗ってくれる。そういうところが、好きだった。


 すごくいい意味で、身分の差を感じなかった。









 もしも、身分差がなければ、もしかしたら――――。






 その時。









「……メデュナ?」





 聞き覚えのある声がした。

 まさか、と思いながら振り返る。



 そこに立っていたのは――



「で、殿下……!? どうしてこちらに……」




「しーーーっ。ちょっと抜け出してきた。今はタメ口でいいよ。誰もいないし。」



 彼はそう言って、周囲を一瞥した。


 いつもは違う彼の姿。思わず胸が高鳴ってしまう。そろそろ王という立場になるというのに、こうやって変わらない対応してくれる所も、やっぱり好き。



「元気ない?」


「え?そんなことないよ。今日は一段とお美しいですよ、王子。」



「あっはは!やめておくれよ!」



「 ちょっとからかってみたくなったの。」



 胸が、どくん、と音を立てた。この温度感が好きなの。





 貴方の笑顔も。





 だから、このまま変わらないでほしい。








 そう思うことは、そんなにいけないことなの?




「……どうしてここに来たの?」



「ここなら、メデュナがいると思ってさ。気がついたらここに来てた。」




「探さなくてもいいのに。お姫様の隣にいないとでしょう?」


「……それ、分かってて言う?」


 少し低くなった声。


「舞踏会はさ、正直あんまり得意じゃない。視線も多いし、息が詰まる」


「王子でもそんなこと思うんだ。」


「“王子”だから、だよ」



 彼は苦笑して、壁にもたれかかった。


「ずっと正しい位置に立って、正しい言葉を選んで、正しい相手と踊って……。今日は特に、それを突きつけられる日だ」


 その言葉に、胸が締めつけられた。


「……でも、アリア姫は素敵な方の。貴方の隣に立つにふさわしい」



 そう言うと、彼は私をまっすぐに見た。






「本当に、そう思ってる?」





 視線が絡む。



 嘘をつくのは、もう慣れているはずなのに。






「……思ってるって。」







 少し遅れて、そう答えた。




「そっか。」






 彼はそれ以上、何も言わなかった。



 沈黙。



 遠くから、音楽と笑い声が微かに聞こえてくる。


 この場所だけ、時間が切り離されたみたいだった。






「ねえ、メデュナ」






「なに?」


「昔、街で会ったときのこと、覚えてる?」


「……忘れるわけないでしょ。」








 メロンパンのこと。


 逃げるように走ったこと。


 そして、あの無邪気な笑顔。







「オレさ、あのとき本当に嬉しかったんだ」


「嬉しい……?」


「誰もオレの肩書きを知らない場所で、ただ一人の人間として話してくれたから」


 胸の奥が、じんわり熱くなる。


「宮殿に来てくれたのも、正直、半分は勢いだった。でも……」


 彼は言葉を切り、少しだけ困ったように笑った。











「来てくれて、よかったって、今でも思ってる。」








「メデュナが宮殿に来てくれて、よかった。ありがとう。」








 ――だめ。








 それ以上聞いたら、きっと耐えられない。





「なんだかそれを言いたくなって。それじゃ。」




彼が私に背中を向ける。






 待って。





 お願い。





 待ってよ。






 私の好きな人。









 私が愛す人。愛したい人。










 お願い…待って――――





「ヴィアン!!!!!!!!!」







 私は思いのまま叫んだ。




 もうどうなってもいい。



 こんなにも、こんなにも、我慢したんだもの。






 どんな罰でも受けます――。






もう、抑えなられない。この想いは。



「……好きなの。10年前からずっと。だから、今だけは、今だけはどうかここにいて――。」







 ああ――。





 私ってば、どこまで性格が悪い女なのかしら。


 人のものをとろうとして、陰でこそこそと。



 情けない。そんな自分が大嫌いよ。








 でも――――




 やっと、やっと、この思いを伝えられて、嬉しいの――。



 彼の体が固まる。



 一瞬。

 本当に、一瞬だけ。

 それから、ゆっくりと振り返った。






「……メデュナ」





 名前を呼ばれただけで、胸が痛くなる。




「顔、上げて」



 私は、気づかないうちに俯いていたらしい。


 震える指先をぎゅっと握りしめたまま、顔を上げる。


 彼は、怒っていなかった。


 困ってもいなかった。


 ただ――ひどく、真剣な顔をしていた。






「ごめんなさい……!」







 私は思わず一歩下がる。



「忘れて。今の、全部忘れて。貴方には婚約者がいるし、私は――」


「忘れられると思ってる?」


 遮るように、彼が言った。


 その声音に、足が止まる。


「そんなふうに言われて、何もなかった顔で舞踏会に戻れって?」


 彼はまた一歩、こちらに近づいた。



「……残酷だよ、それ」




 心臓が、うるさいくらいに鳴る。



「オレだって、人間だよ。」


 そう言って、彼は目を伏せる。



「ヴィアン……」






「今みたいに言われたらさ――」


「我慢できなくなるよ。もう。」










 静かに、でも確かに、距離が縮まる。











「……オレも好きだよ。」










 小さな声。

 それでも、はっきりと聞こえた。



 私にだけ、はっきりと。






「でも姫様のことは…」




 私の問いに、ヴィアンはすぐには答えなかった。

 一度、目を閉じてから、ゆっくりと言葉を選ぶ。



「彼女には、もう話したんだ。」


「オレの気持ちも、君の存在も、全部。」

「……どうして。」



 思わず、そう聞いてしまった。


「それくらい、キミが好きだった。婚約が決まった最初から、彼女には好きになれないと、そうお伝えしていた。」


 彼は、真剣な目で続ける。


「そんな…わたし全然知らなかったけど…。」


「そりゃそうだよ。キミがオレのことを好きっていう確信はなかったし。」


 そう言って、ヴィアンは、小さく息を吐いた。

「それに……彼女は、優しい人だから」


 胸が、きゅっと締めつけられる。


「優しい?」

「うん」


 彼は少しだけ視線を落とす。


「オレの気持ちを聞いたあと、アリアはこう言ったんだ」





 ――『なら、無理に笑わなくていいわ』って。






 その言葉が、静かに胸に落ちてくる。




「自分が隣に立つことで、誰かが苦しくなるなら、それは幸せじゃないって」


 私は、言葉を失った。


「彼女はさ、最初から分かってたみたいだ」


「キミを見るときの、オレの目」




 心臓が、跳ねる。



「メイドを見る目じゃなかったって」



「……」




「だから、舞踏会の時、背中を押された。」




 彼は、私の手を取る。




「“行ってきなさい”って」




 目頭が熱くなる。



「……私、奪ったみたい。」



「違う」


 即座に、彼は首を振った。


「誰も奪われてない」


「彼女は、自分で選んだ」


 その言葉に、胸の奥が熱くなる。






「メデュナ」






 彼は、そっと私の手を包み込む。


「オレは、誰かの犠牲の上で、君を選ぶつもりはない。」


「君を選ぶことで、誰かを傷つけるなら――その痛みも、全部引き受ける。」






「それが、王になるということだ。父上にもちゃんと説明する。だから、キミも、ついてきてほしい。メデュナ。」



彼に涙を拭かれて、真っ赤になった目で、彼を見つめた。




「……当たり前よ。ヴィアンのためだったら、どこまででもついていくんだから。」







「やっぱ、キミって最高だ。」




 彼は、私を優しく包み込む。







「これからは、二人でちゃんと恋愛をしよう。」





「うん――。」



 私たちは十年越しに思いが通じた。



 優しく、唇を重ねながら。




 遠くでは、舞踏会の音楽が再び流れ始まる。







 それは、私たちの新たな恋の始まりのようだった――。

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