第5話


「どうだ、俺の式神だぞ。これでお前の神楽を盛り上げてやろう」

「どういう意味ですか……?」

 

 鳴らせ、とみやま様が指図すると、式神たちが動き出した。

 短い両手らしき部分で、三体が笛などの管楽器を持ち、残る三体が大小ある太鼓を持ち始めた。

 神楽を舞うときに用いる楽器たちを、式神は掛け声と共に鳴らし始める。

 

「お、おお……」

 

 これは素直に綺麗だ。情緒的で優雅に聞こえつつ、一切の乱れがない演奏である。

 ややテンポが早いのは、俺を乗せようとする意図があるのだろうか。ちょっとむずむずしてしまう。

 演奏が終わるまで聞き惚れてしまい、最後の音が奏でる余韻に浸りながら、俺は思わず拍手してしまった。

 

「これすごいですね!」

「そうだろうそうだろう! 俺の力だぞ、これで」

「君たちすごいな、こんな小さな体でどうやってるんだ?」

「話を聞け!」

 

 一体を持ち上げると、「どっこい!」と一声鳴いた。全く体温がないのか冷えているが、子猫や子犬のような、小動物を抱き上げた感覚に似ている。

 ただ間近でよく見ると、目鼻らしき部位がなかった。額に書かれた文字と管楽器を吹く穴が、黒くポカンと空いているだけの姿。ちょっと現実に引き戻される。遠目で見れば可愛いが、少し怖いかもしれない。


「興味を持ったか、良いだろう良いだろう! 俺の式神の力はこれだけではないぞ!」

 

 指を鳴らして合図すれば、再び式神が楽器を構える。先ほどと何が……と俺が言いかけた時、ジャジャーン! とギターの音が鳴り響いた。

 驚いて足元を見ると、先ほどと同様に式神たちが、神楽用の曲を演奏し始めている。

 しかし何故か曲調と音色がロックバンドになっていた。

 いや何でだよ。

 

「いや何でだよ」

「俺の式神の演奏はバラエティ豊かなのだ! どうだすごいだろう、ロックからジャズ、ダンスミュージックにオーケストラまで、変幻自在な神楽の楽曲を届けよう!」

「神楽にそんな多様性要らねぇ!!」

 

 というかそんな高速で小太鼓を叩いたら、壊れますよお客さん!

 ロックスターなギタリスト並みに太鼓を掻き鳴らす『いよ〜』に、俺は思わず内心で悲鳴を上げた。太鼓からそんなギター音要らない。鳴らす意味が分からない。

 俺は白目を剥いて倒れそうになりながら、片手を額に押し付けた。

 ああもう、本当に頭痛が痛い……!

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 流石に疲労困憊になり、話は翌日に持ちこすことにした。

 寝て起きたら夢であったらいいな、と期待を込めて社務所に行くと、婆ちゃんと女子高生すみわちゃんが待ち構えていた。

 そして社務所の長椅子には、毛布をガムテープで止めたみやま様が鎮座している。やたら偉そうにふんぞり返っているのに、見た目が住所不特定者だ。絵面だけでやばい。

 というか婆ちゃん、これ、大丈夫なの?

 

「え、あ、えっと」

「よく来ました清司さん。さあ、着付けを済ませましょう」

「え?」

「どうしたの、清司くん。椅子に何かある? ここには三人しかいないよ?」

 

 すみわちゃんの言い方に、俺は目を丸くして彼女を見た。

 夜とは打って変わり、馴染みある女子高生すみわちゃんは、片目を閉じてイタズラっぽく笑ってみせる。

 事情は分からないが、みやま様の事は婆ちゃんには見えていないらしい。よかった。家族に全裸を晒そうものなら、迷わず警察を呼ぶところだった。

 昨日と同じく舞装束に着替えさせられ、神楽殿に登る。今朝早くに雪が降ったようで、うっすら積もった白がキラキラしていた。

 外気温に寒さで震えそうになったが、俺の思考は顔を上げたところで停止した。

 何故か社務所にいたはずのみやま様が、仁王立ちで立っている。

 どうやってとか、なんでとか以前に、全力で家に帰りたい。

 

「カミヨお婆ちゃん、今日は寒いから、わたしが清司くんの補佐をします!」

「ええ? ですが太鼓を……」

「清司くんは太鼓が無くても、綺麗に舞えますよ! だって歴代一だもん!」

 

 屈託ない笑顔に押されたのか、弟子である俺が褒められて嬉しかったのか、婆ちゃんの険しい顔が緩む。

 人外の立場で、どういう理由付けになっているのだろう。一応、すみわちゃんも孫である。家の家系は孫に弱かった。

 どこか軽い足取りで降りていく婆ちゃんを見送り、俺は後頭部を掻いて従姉妹を一瞥する。

 まさか本当に無音で舞うのだろうか、それともみやま様の式神を使うのだろうか。

 

「ええと、それで俺は、どうしたら……?」

「ちょっと待ってね」

 

 すみわちゃんは神楽殿から下り、裏にある倉庫からラジカセを持ってくる。

 流石に動かない年代物だ。俺が幼稚園くらいのものである。気に入っていたシールが貼ってあるので、父さんが捨てられなかったのだろう。親バカなのだ。

 それを適当な場所に設置し、すみわちゃんがみやま様に振り返る。

 

「主上! これで音を鳴らしても不審がられません!」

「でかしたぞ澄羽姫! いでよ、三管三鼓の式神たちよ!」


 顔が引き攣るほど強い光を放ち、昨日見た式神が現れる。本当にこの光をどうにかしてほしい。失明したらどうするんだ。

 式神たちは短い足で駆け、演奏者の定位置に着き始めた。小さくて可愛いおにぎりが六つ、ちまっと整列する。おにぎりが可愛いって感情、初めて抱いた。

 まぁ拍を取ってくれるならありがたい。俺は神楽殿の中央で立ち止まり、扇を開いて立ち止まる。姿勢を落として息を整えた。

 視線を向ければみやま様が、どっかりと座って片手の拳を振り上げる。

 

「いいぞ内藤弟、ミュージックスタートだ!!」

 

 ジャジャーン! と流れ始めたダンスミュージック神楽に、俺は盛大に膝から崩れ落ちた。

 

「そんな多様性要らねぇってば!!」

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