第3話
「完璧ですよ、清司さん。やっぱりあなたこそ歴代一の舞い手です。教え甲斐があったというもの」
「は、はぁ、どうも……」
嬉しいような、現状を考えるとちょっと悲しいような。
手放しで褒める婆ちゃんに、俺は微妙な返事をして立ち上がる。すみわちゃん、どさくさに紛れて、女子高生が成人男性の頭をいい子いい子しないでほしい。
婆ちゃんから手渡されたタオルで顔を拭うと、俺は息を吐き出した。
神楽殿から境内を見ると、いつの間にか夕陽が落ちかけていた。装束への着替えもあり、思っていたより時間が過ぎていたようである。
「では清司さん。夕食が終わったら、神楽殿の清掃をお願いします。明日もありますからね」
「今週はこれで終わりじゃダメなの!?」
「何を言っているのですか、これはあなたが舞えるかどうかの確認です。明日からが本番です」
しれっと言われ、俺は愕然とする。確認だけでこんな大変な神楽をしなくても良いだろうに!
ただでさえ久しぶりで、重い装束を着た以上に疲れているのに、明日が本番など聞いてない。
まぁちょっと疲れ過ぎな気もするが……。
「明日からよろしくお願いしますよ、清司さん」
相変わらず気難しい澄まし
◆ ◆ ◆
夕食を食べ終え、いやいや自室に引っ込もうとして、婆ちゃんに尻を引っ叩かれた夜。
俺はゲンナリとしつつ、神楽殿に足を踏み入れた。
「……って、あれ、すみわちゃん?」
「待ってたよ、清司くん!」
満面の笑顔で出迎えたのは、夕方に帰宅したはずのすみわちゃんだ。確かに境内から見送ったのに、どうしてここに?
混乱する俺をよそに、すみわちゃんは浅葱色の装束をひるがえした。そのまま何もない空間に両手を掲げて、何かを差し出すような仕草をする。
意味が分からず問いかけようとしたとき、すみわちゃんの両手を、誰かの片手がとった感覚がした。
冬の冷たい突風が吹いた。俺は防寒具を着込んでいてもあまりの寒さに、思わず目を瞑り片手を上げて顔を守る。
なんだなんだと、再び目を向けると、──その男は居た。
「よく来た、
足首まで伸びて、顔も見えないボサボサの青い髪。俺よりも若い声だけど、棒人間みたいにヒョロガリで、デカい体。
どういう原理か知らないが、後光が差すみたいに青白く光っている──素っ裸の男。
「っへ、へへへ、変質者ーっ!?」
「おいこら内藤弟! 最上級神さまに向かって変質者とは何だ!」
「だって主上、素っ裸じゃないですか」
「仕方がないだろう、
「ちょ、ちょちょちょ、すみわちゃん! そんな変態と会話しちゃいけません!」
「誰が変態だ、誰が!!」
いやどう見ても変質者で変態だ。女子高生の両手に片手を置いて、素っ裸でふんぞりかえる男など、変態以外の何者でもないだろう。これで変態でないなら、世の中の男は全員変態だ。
俺は勇気を振り絞ってすみわちゃんを引き剥がし、背後に隠しながら距離をとる。
と言うか、どこから現れたんだこの男は。俺に仕えるとか、最上級神とか、意味が分からない。
混乱を極めた俺に、キョトン顔のすみわちゃんが、さらに爆弾を投下してくる。
「大丈夫だよ清司くん、わたしは見慣れてるから」
「見慣れてるから!?」
「
「服を生成できなくて!? いや、あれ?」
動揺し過ぎて繰り返してしまったが、俺は聞き捨てならない名前に、少し我に返る。
俺の反応に気をよくしたのか全裸の男が、枝みたいな腕を胸に当てる。待て待てそれ以上は胸を張るな、そんなに髪を揺らしたら局部が見えちゃうでしょ!
「そうだいかにも! この俺こそがお前たち内藤家が代々守り、
「きゃーっ主上ーっ!大丈夫ですか!?」
ふんぞり返る姿勢のまま、男は体勢を崩してひっくり返った。髪の毛ナイスアシスト、見えてない!
とはいえ、この神様だとか名乗る男は、自立する力も弱いらしい。すみわちゃんが血相を変えて助け起こしても、目を回してしまっている。
と言うかすみわちゃん。どうして平気なのだろうか。見慣れているという単語に、どちらの方向性も考えたくない。
しかし俺は聞かずにいられなかった。
「あの、すみわちゃん……? 君はその男と、どういうご関係で……?」
「え? ああ! ごめんね清司くん。わたしは中級神で、主上の部下なの」
ほら、と言う掛け声と共に、すみわちゃんの装束が変化していく。
青く透き通るような蝶の羽に、白目のない黒目の瞳。肌には鱗を思わせる斑模様が見えた。着ている服装も例えるなら、日本画に描かれた天女のよう。
俺が続く言葉を失って、全裸の男と人外の美少女を凝視する。
今まで俺を慕ってくれた天真爛漫な女子高生が、実は人外天女で、全裸男の部下でした。ハッピーエンド……って悲し過ぎないか!?
「改めて。あなたを待っていたの、内藤清司くん。──歴代一の霊力を持っている、主上のただ一人のヒト」
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